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30 SLEの概要と臨床像 Overview and Clinical Presentation

Dubois' Lupus Erythematosus and Related Syndromes, Tenth Edition


Pearl:SLEは自己免疫に関連した何百もの症状を呈する

comment:SLE can present with hundreds of manifestations related to autoimmunity.
・ 自己抗体や免疫複合体の沈着による組織障害は、腎臓、中枢神経系、心臓、血管、皮膚、肺、筋肉、関節に起こり、さまざまな臨床症状を呈し、重大な罹患率や死亡率の上昇につながる。 
・1950年代から2000年代にかけて、Lupusの治療が進歩し、生存率が上昇したにもかかわらず、SLE患者の死亡率は一般人口に比べて依然として高い。SLEは15歳から24歳の女性の慢性炎症性疾患における最も一般的な単独死因であり、10歳から44歳の女性の上位15位までの死因の一つである。

・SLEは「千の顔をもつ病気」と表現されるほど、多彩な症状・所見を呈します。

Pearl:臓器障害が生じる前にLupusの初期兆候や症状を認識することが重要だが、それは難しい

comment:Therefore, it is important to recognize the early signs and symptoms of lupus before organ damage develops. This can be challenging because of the diverse and heterogeneous manifestations of this disease
・臓器障害が発症する前に、ループスの初期の徴候や症状を認識することが重要である。 この疾患の症状は多様でヘテロであるため、これは困難である。 例えば、患者は発熱、口唇発疹、関節炎を呈することもあれば、明らかな症状を伴わない臓器特異的な症状が出現することもある。
・またSLEの経過について、臨床経過は予測不可能であり、疾患活動性は増えたり減ったりする。

Pearl:SLEは人種間・民族間格差が大きい疾患である

comment:SLE is also a disease with significant racial and ethnic disparity. 
・SLEは女性優位で、男性1人に対して女性9人が罹患する。 SLEは人種的、民族的格差のある病気でもある。 
・SLEは白人よりもアフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系アメリカ人、アジア・太平洋諸島系アメリカ人(API)に多くみられる。ヒスパニック、アフリカ系アメリカ人、APIは、血液学的、血清学的、神経学的、腎臓学的症状を伴うより重症のループスを発症する傾向がある。SLE診断後の累積死亡率は白人よりも黒人の方が有意に高い。また、発症は白人よりもAPIの方が早い傾向がある。アフリカ人はヨーロッパ人よりも円板状皮疹に罹患する頻度が高く、アフリカ人は末期腎疾患(ESRD)に移行する頻度が高い。

Pearl:SLE発症から診断までのタイムラグは年々短縮している

comment:The lag time between the onset of SLE and its diagnosis reported in major cohorts was almost 50 months before 1980; 28 months from 1980 to 1989; 15 months from 1990 to 1999; and 9 months after 2000
・主要なコホートで報告されたSLEの発症から診断までのタイムラグは、1980年以前はほぼ50ヵ月、1980年から1989年までは28ヵ月、1990年から1999年までは15ヵ月、2000年以降は9ヵ月であった。この違いは、抗核抗体(ANA)検査の広がりと自己免疫疾患に関する知識の普及に起因している。

Pearl:SLEは臨床症状が出現する前に、自己抗体陽性や免疫異常が先行する

comment:SLE is preceded by a period of autoantibody positivity and immune dysregulation, even in the absence of clinical symptoms.
・SLEは臨床症状がなくても、自己抗体陽性や免疫異常の期間が先行する。
・SLEコホート研究からのレトロスペクティブなデータは、自己抗体が症状が出現するずっと前に存在する可能性があることを示している。 初期の段階では、88%の患者でSLEと診断される平均3. 3年前に、少なくとも1つの自己抗体(最も多いのはANA)が存在するという証拠がある。自己抗体の多様性は診断時期に向かって増加する。 ループスにより特異的な抗dsDNA抗体は、SLE診断の平均2. 2年前に検出可能である。 抗Sm抗体と抗RNP抗体は診断がつくと陽性となる。

・だいぶ古いですが、発症時に平均2.6個、診断時に3個の自己抗体が陽性になっている、という報告です。(N Engl J Med 2003;349:1526-1533)

診断時、発症時の自己抗体の陽性割合

Myth:不完全ループス(Incomplete lupus:iSLE)と未分化結合組織病(UCTD)は類似の概念である

reality:Incomplete lupus should be distinguished from undifferentiated connective tissue disease (UCTD), which refers to clinical symptom manifestations suggestive of a connective tissue disease without meeting disease classification criteria for any one specific autoimmune
disease
・不完全型ループス(iSLE)は、臨床症状や血清学的症状がSLEと一致しながらも、米国リウマチ学会(ACR)の分類基準を満たさない患者に適用される診断概念である。 これは非常にヘテロなグループである。
・不完全ループスは、未分化結合組織病(UCTD)とは区別されるべきである。UCTDとは、特定の自己免疫疾患の疾患分類基準を満たさず、結合組織病を示唆する臨床症状を示す疾患のことである。
・コホート研究により、iSLEは発症から5年以内に、最大60%の患者で完全な基準を満たすSLEに進行することが示されており、これはiSLEがSLEの初期段階であることを示している。 SLEへの進展に関連する特徴としては、粘膜皮膚症状、関節炎、漿膜炎、低補体血症、持続性蛋白尿や尿中細胞性円柱、抗カルジオリピン抗体、抗dsDNA抗体の存在などがある。

Myth:50歳以上で発症するlate-onset lupusは稀である

reality:Late-onset SLE has been defined as lupus with onset at 50 years of age and is an uncommon condition that presents with a frequency of 12% to 18%.
・遅発性SLEは50歳以上で発症するlupusと定義されており、12%から18%の頻度で発症するまれな疾患である。遅発性SLEでは、50歳未満で発症するSLEと比較して、男性の割合が増え、SLE分類基準に入っている症状を満たす数が少なく、皮膚症状や腎症状はあまりみられず、シクロホスファミドの使用は少なく、sicca症状や眼、肺、心血管系の病変はより一般的である。

・漿膜炎が多いこともよく言われます。なので高齢男性(もちろん女性も)で、原因不明の漿膜炎をみたら、一度SLEの可能性は考えていいと思います。

Pearl:男性SLEは女性SLEよりも重症度が高い

comment:A meta-analysis of 11,934 patients with SLE (10,331 females and 1603 males) found an average female:male ratio of 9.3:1, with comparable mean age at disease onset and at diagnosis. Alopecia, malar rash,photosensitivity, arthritis, oral ulcers, lupus anticoagulant, and a low level of C3 were significantly higher in female patients, whereas renal involvement, serositis, thrombocytopenia, and anti-dsDNA were predominant in male patients.
Male patients are thought to have more severe disease than females.
・ 脱毛症、蝶形紅斑、光線過敏症、関節炎、口腔潰瘍、ループスアンチコアグラント、C3低値は女性患者に有意に多く、腎臓病変、漿膜炎、血小板減少、抗dsDNAは男性患者に多かった。
・男性患者は女性よりも重症であると考えられている。
・Spanish Rheumatology Society SLE registry (RELESSER)では、SLEの男性はリンパ節腫脹、ループス腎炎、胸膜線維症、肺塞栓症も多かった。 さらに、入院率や死亡率も男性の方が高いことが判明した。

Pearl:SLEの臨床症状は1型と2型に分類される

comment:According to a proposed model, the clinical manifestations of lupus
can be organized into two categories, termed type 1 and type 2.
・あるモデルによると、SLEの臨床症状は2つのカテゴリーに分類され、1型と2型と呼ばれる。
・1型は臓器障害を引き起こす炎症性機序の直接的な結果であり、免疫抑制療法に反応する。
・2型ループスの症状はより漠然としており、疲労、抑うつ、不安、脳霧(brain fog)、認知機能障害、睡眠障害、びまん性および広範な疼痛が特徴である。1型の症状が免疫抑制療法に反応する傾向があるのに対し、2型のループス症状は免疫抑制療法に反応しにくい。 これらの2型症状は、SLEのより支障を生じやすい症状であり、健康関連のQOLを低下させる。

Arthritis Care Res (Hoboken) . 2019 Jun;71(6):735-741

Myth:SLE患者における”疲労・倦怠感”は、疾患活動性と相関する

reality:Fatigue is a primary contributor to functional disability and visits to health care providers, and its association with disease activity is controversial
・特に疲労は、SLE患者が経験する最も一般的で、しばしば最もQOLに影響を与える症状のひとつであり、80%にも及ぶ。 ほとんどの症例では、疾患活動性、気分障害、睡眠不足、有酸素運動不足、薬剤、線維筋痛症など、いくつかの交絡因子が併存している。 
・疲労は機能障害や医療機関受診の主な原因であるが、疾患活動性との関連については議論がある。Bruce氏らによる81人のSLE患者を対象とした報告でも、疲労と病気の活動性やdamageとの間に相関がないという知見が支持されている。

つまり先ほどのType2症状は、いわゆるSLEの活動性とは別に捉えられるということです。

Pearl:Brain fog(Lupus fog)は明らかな神経精神病理を伴わない非特異的な認知機能障害であり、SLE患者の3~88%で認める

comment:The clinical presentation of cognitive dysfunction without overt neuropsychiatric pathology is nonspecific, with reported prevalence ranging from 3% to 88%.
・疲労に加えて、SLE患者の多くは「ブレインフォグ」または認知機能障害の症状を訴える。 ・”脳霧 "や "ループスフォグ "は記憶障害、集中力障害、明瞭な思考障害として現れる。患者さんは自分の考えをはっきり述べることが困難であったり、物忘れや混乱を感じる。
・明らかな神経精神病理を伴わない認知機能障害の臨床症状は非特異的であり、有病率は3%〜88%と報告されている。 
・SLE患者では血液脳関門(BBB)からの漏出が増加していることから、これらの症状の病因についての理解は深まっている。 SLE患者ではdsDNA抗体が神経細胞のN-メチル-d-アスパラギン酸受容体(NMDAR)と交差反応することがあり、それが認知機能障害と関連していることが理解されている。

Pearl:原因不明の発熱は、SLE mimickerとSLEとの鑑別に有用なことがある

comment:Fever is a common manifestation of active SLE and is also a frequent cause of hospital admission. 
・発熱は活動性のSLEではよくみられる症状で、入院の原因ともなる。 原因不明の発熱は初期のSLEではSLEに似た病態よりも多い。

・2019年ACR/EULARのSLE基準の臨床項目に、これまでなかった「原因不明の発熱」が入ってきています。これも初期のSLEを拾い上げるためのようです。

Myth:SLE患者における発熱は、感染症とSLE自体によるものの鑑別は不可能である

reality:Compared with patients with SLE and fever of infectious etiology, patients with fever caused by lupus are more likely to have a lower C3 and higher levels of disease activity.
・Duboisらの報告では、発熱は84%にみられた。一方、Euro-Lupusのコホートでは、発熱は発症時36%、経過中52%にみられた。
・発熱がSLEに起因すると判断するのは、感染症など他の原因を除外した後である。 この病態の定義には、Rovinらによるものがある.「広範な検査にもかかわらず感染がみられず、発熱に伴って活動性のSLEに典型的な病変がみられ、ステロイドの増量や追加にもかかわらず感染の証拠がでてこない」
・感染症を伴わない活動性SLE患者では、体温のピークは38℃から40.6℃で、間欠的であった。 発熱を伴う他のSLE症状は、皮膚炎、関節炎、胸膜心膜炎であった。
・感染性の発熱を伴うSLE患者と比較して、ループスによる発熱患者はC3が低く、疾患活動性が高い傾向がある。 
・25人の未治療のSLE患者において、血清中のIFN-α濃度(インターロイキン[IL]-1や腫瘍壊死因子[TNF]-αではない)と発熱との間に密接な相関がみられ、その病態にIFN-αが関与している可能性が示唆された。

Pearl:SLE患者でCRPが上がりづらい原因の一つとして、IFNαがある

comment:type1 IFN、特にIFNαはSLEの病態に大きく関わっており、SLE患者では上昇していることが知られています。IFNαは、IL6/IL-1β誘導性のCRP上昇を阻害する作用が知られており、これがSLE患者でCRPが上がりづらい理由の一つと考えられています。

Front. Immunol. 11:622326. doi: 10.3389/fimmu.2020.622326

Myth:SLE患者のリンパ節の病理組織で、他疾患との鑑別は可能である

reality:Histopathologic findings include coagulative necrosis with hematoxylin bodies, reactive follicular hyperplasia, or a Castleman disease-like pattern.Of these, lymph-node necrosis with hematoxylin bodies is considered a distinctive finding for SLE, although it is rarely seen in biopsy
specimens.
・明らかなリンパ節腫脹がある場合は、感染性疾患やリンパ増殖性疾患を除外するためにリンパ節生検を行う。
・病理組織学的所見には、ヘマトキシリン小体を伴う凝固性壊死、反応性濾胞性過形成、またはキャッスルマン病様パターンが含まれる。 これらのうち、ヘマトキシリン小体を伴うリンパ節壊死はSLEの特徴的な所見と考えられているが、生検標本ではほとんど見られない。
・菊池・藤本病はまれな良性の自己寛解性疾患で、ウイルス感染に対する強い免疫学的反応に関連していると思われるが、SLEの診断の前、同時、または後に診断されることがある。 ループスのリンパ節炎は、ヘマトキシリン小体や豊富な形質細胞がない限り、臨床的にはこの疾患と区別がつかない。

Hematoxyphil body:ヘマトキシリン(H.E染色)で一様に染まる小体で、細胞核が変性・膨化して均一になったもの、を指します。以下は腎生検の病理ですが、赤矢印のものがそれにあたります。

https://pathology.or.jp/corepictures2010/12/c06/02.html


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