パラレルワールドとコンフューズとポップミュー ジック~『C(シー)』ライナーノーツ~
インタビュー・テキスト by K・C・ジョンソン
オリジナル曲とカバー曲、作品と商品、アーティストとアイドル、ミュージアムと遊園地、右と左、東と西、サブカルチャーとカウンターカルチャー、メインカルチャーとオルタナティブ。そして大人と子供。
パーソナリティを構成する指標を自分勝手に思いつくまま書き出してみた。自分はどのあたりに属して、どちら をどれくらいの割合でバランスをとって生活しているのだろうか?
コバユーの9年ぶりにリリースされたアルバム「C(シー)」を聴きながらふと、そんなことを考えた。
「C(シー)」は先行のシングル「SF」「ハイファイ」を含む未発表曲と、リマスターされたオリジナルの代表曲 がコンパイルされたカラフルでポップアルバムだ。
コバユーは原則レゲエシンガーとして活動してきた。パーソナルな表現を歌にしていくよりも、ファーストアルバム「童謡レゲエ」に代表されるように、レゲエアレンジされたカバー曲を歌うシンガーとしての印象が強いだろう。 実際にオリジナルアルバムと言えるものは「UN」ぐらいと言ってもいいかもしれない。
そう言った意味では商品性が強い作品をリリースしてきたとも言える。
しかしカバー曲と合わさってリリースされてきたオリジナル曲を拾い集めていくと、その児童性や母性的なイメージとは裏腹に教訓めいたメッセージや攻撃的な部分も垣間見えてくる。
まわりと感じる時間軸がちがっていて気が付いたら取り残されていたり、かと思えばまったく別の場所に来てしまっていたエピソードを彼女は話すことがある。
単にマイペースなだけでしょ!と思わなくもないが、飛び出してくるキーワード「パラレルワールド」から読み解いていくと、
”いろんなことが同時進行していて、どこにも属せないから仕方ないじゃない!”と言っているような気がする。
コバユーは捉えどころがない。本当に存在する人なの?
とどこかしら思ってしまう。
『C』を読み解いていくために、これまでの作品や音楽的なバッググラウンドなど人となりをコバユーに聞いてみた。
※コバユーにチャットインタビューしたものを掲載してます。
~オリーブ少女って何ですか?~
──童謡に対する距離と言うかスタンス、付き合い方はコバユー自身の児童性?それとも女性として元来持っている母性的なもの?
Coba-U:
童謡うたうとき、わたしはいつも児童とおもいます。童謡レゲエ...おもちゃのブロック遊びをしたのかもしれないです。
「童謡」というブロックと「レゲエ」というブロックをつなぎ合わせて、「ママー見てー! すごいの作った」って。
童謡は比較的、教科書的なアレンジや暗いアレンジのものが多くてそれも好きなのですが、もっと楽しく皆んなで盛り上がるようなのあったらいいな。それが童謡レゲエになったんです。
──レゲエで好きな曲を一つ挙げるとすると?
Coba-U:
まだまだ、詳しくなくてつまみ食いなんですけどシスター・ナンシーのBam Bamなんかよく聴い てます。
──すごくらしいね。
「童謡レゲエ」は例えば保育園や幼稚園で流せるレゲエとしての商品的な側面はあると思う。けれどもダブや、ダンスホールスタイルのトラック・MCなんかは、どこかおもちゃ的なガジェット感を持っているじゃない。
Bam Bamなんか顕著だよね。それを無意識に感じ取ってアウトプットしたのが「童謡レゲエ」だったのかなと。
Coba-U:
なるほどです...私の無意識ってそんな感じなのかしら。でもたしかにそんな感じかも。
──しかしレゲエを積極的に聴く層は、一般的には少数派でかつオーセンティクな嗜好を持っているように見えるよね。童謡とは相反するとまでは言わないけれど、イメージとしてはかなり離れたところに位置していると思 う。 そう考えた時、普段はどんな音楽を聴いているのかな?とクエッションが沸き起こってくるわけ。わりとオルタナティブ寄りなの?
Coba-U:
オルタナティブよりかな、どうなのかなぁ...自由に色んなの聴いています。 今朝は人からおすすめされたアニソンとクラッシック(モーツァルトとドビュッシー)なんか聴きながらピザを 食べました。
レゲエは常に傍にあって前向きにさせてくれるものです。童謡は幼いころにタイムスリップできるので好きです。
The Innocence Missionやカーディガンズ、Men I Trustなんかも大好きなんですけど、それを音楽制作をいっしょにしているお兄様たちに趣味がオリーブ少女だな!って言われたんです。
よく分からないから”オリーブ少女って何ですか?”って質問したら、笑われながら非常に良いと褒められまし た。どうして?と聞き返すと、本能で匂いを嗅ぎ分けているからって...
~わたしの中に、いろんな人が住んでいると思うんですよね。~
──歌詞が実は詩的だなと感じるところがあって。攻撃的だったり教訓めいてたり、シニカルな印象もあったりする。それに今とは異なるステージ?時空?に向かおうとしているメタファーに感じる時もある。ある人格やシナリオを設定して演じているの?それとも自然な素のままなだけなの?。
Coba-U:
その時に感じていることを書いてます。自分の身の回りで、起こったこと、見たことに振り回されてますので(笑)
あ、誰でもそうだと思うんですけど、人の内面にはいろんな人が住んでいると思うんですよね。 例えば会う人によってちょっとキャラが変わっていたり、そのときのモードや気分で「あれ?昨日の私どこ行っ たー?」っていう経験ありませんか?
私の中にも色んな人いて...5歳ぐらいの強気な子とか、おしゃれ好きな優しい高校生ぐらいの子とか、おじさん...もいますし、怖い鬼...も最近みつけましたし(笑)、人じゃない生命体とか...あまり言うと変な人みたいだからここらへんでやめときます(笑)
歌詞はその誰かが突然出てきて書きだしたり、その中の誰かに書いてたりっていう感覚です。どれも私。だから自然な素のままかなぁ…
~妄想族なので笑笑~
──アルバムタイトル「C(シー)」はCoba-UとConfuseの「C」から名付けたと聞きました。以前にカイタイコバ ユーとしてリリースしていたシリーズもきっと、その多面性の表れなのかなと。
そして今回の「C(シー)」もその延長線上にあり、第1期コバユーの集大成に感じるような。
Coba-U:
そうですね。解体シリーズの時には、自分の中のそれぞれしっくりくる人格を使って、アルバムごとに遊んでいたという感覚はありますね。なのでジャンルが変わるごとにワクワクしました。
今回のアルバ ム「C」は現実と夢の間にいるときのような、ちょっと混乱しているお話を集めました。
例えばなんですが、おもちゃや本やゲームやらで思いっっっきり部屋をぐちゃぐちゃに散らかして (足の踏み場 ないくらい)それの上にノートを広げてごちゃごちゃの絵を書いて、スナック菓子食べて斜めにソファーで寝ころんでいる時に、ニョキニョキーって自由の羽が生えてきて、色んなこと想像しはじめちゃう。 そんな世界が広がってるのかな。
大人になって、自分の遊び場は夢の中だけ。そんなのつまらない。現実世界だって妄想によって、夢の中みたいに自由に動物と戯れたり、宇宙人になったり、失恋したり、大食いしたりできるっていうのがテーマっていうか...
わたし自身が、そういう妄想族なので笑笑。
でもそれって綿飴みたいに儚くてウカウカしてるとすぐに見失っちゃいます。大人って不器用ですよね...。
んーなんか頭の中がぐちゃぐちゃしてきましたけど、かっこよく言えばわたし自身を対象化して並べてみて、どんな人格が存在するのか再確認してみたかったって感じかなぁ。
~友達の世界ではハンバーグがドーナツだったりして~
──『ハイファイ』のMVを見たよ。自ら撮影した映像から作られているらしいね。 テレビの中で歌っているコバユー、眠っているコバユー、ちょっとダーティーなコバユー、そして小さなコバユーが登場してくる。ユーモアをもってチャーミングに時にはシリアスに演じているのが印象的だな。
Coba-U:
わたし自身を着せ替え人形にしているような気持ちで撮影しました。そうですね、そしてそのどれもが私です。
昔、リカちゃん人形で遊んだときのような?ワクワクしていたいんです。
どんどん着せ替えをして、夢中で。そんなふうに遊んでいたいな。
『私らしいのはこの服!これしか着ない!』なんて自分で決めつけてしまうのはもったいないもの。 『こんな服もあるよ!』と言われたら、とりあえず着てみるのが私かもしれません。
その洋服との化学反応を楽しみます。そうでなくちゃ、楽しまなくちゃ人生一度きりですし。
──無邪気に遊んでいると同時に大人としての社会もある、そしてシンガーとしてエンタメしているコバユー自身も同居している。そう映って見える。
Coba-U:
ハイファイのMVはテレビの中、いつもの日常、夢の中、遠い過去の4つの世界が同時進行してるんです。人や洋服とか物の数だけパラレルワールドがあると面白いなって思ってて。
例えば友達とランチをしていてハンバーグを食べていたとします。でも友達の世界ではハンバーグが実はドーナ ツだったりして、、、、なんて想像するんです。
そう、どこか違う不思議空間に行ってみたいという願望がこのMVに現れているのかもしれません。だから受け取り方も人それぞれ違っているとうれしいな。それを楽しみたいと思っています。
~この世界をアミューズメントパークのように思って生 きているんだと思います。~
──コバユーを分かりやすく単純化してみようと試みるんだけど、やはり結局どこか掴みどころがない感じが残ってしまうんだよね。いつも何処にいて何処に向かっているの?
Coba-U:
自分がどこにいて、どこに向かおうとしてるのか、考える余裕がない...というのが正直なところで す。たぶんこの世界をアミューズメントパークのように思って生きているんだと思います。
でもどれで遊んでいいのか迷って、テンション高く混乱している子供?大人?みたいな?確かに、自分がどこにいるのかわからなくなることが多々あります(笑笑)夢の中なのか現実なのかとか。
──結局そこに辿り着くんだ。辿り着けているかどうかは微妙だけど(笑)。 アミューズメントパークには遊具のアトラクションも当然あって、ミュージアムや映画館、コンサート会場なんかもあったりするしね。
乱暴に一般的な存在感として「芸術=空想(創作)とロジック」「エンタメ=妄想と夢」に切り分けたとして、アミューズメントパークはエンタメでしょう。 しかしコメントや作品から感じるのは、綿々と繋がるロジックが不思議とあることなんだよね。一貫したセンス や感覚・視点をもっている無自覚なコバユーが存在していると思います。
しかしそれが大人視点なのか、子供視点側なのかは謎だけど・・・
Coba-U:
なんだか嬉しいお言葉です。自分のこと、知らないことだらけなので、うまくコメントが出てきませんが...(笑)でも無自覚なところはたしかかな...。 今、自分が何をしているのか分からなくなっていることががよくあるので。
先日、病院に向かっていたんですけど、気が付いたらかなり通り過ぎていました。急いで戻ったら何故か病院は しまっていました(泣)
──おつかれさまー。いつ辿り着けるんでしょうか?(笑)
昨年、東京都現代美術館で即興演奏タイプのライブ見る機会があった。「音を出す」と「演奏する」の差異ってなんだろ?、なんて考えながらライブを見ていた。 ざっくりと「芸術=考えさせる」「エンタメ=気持ち良くさせる」傾向にあるものと考えてみた場合、それらしくライブを楽しんでいたと言うことになる。これは一般的な一つのアトラクションにある日常の光景なのだろう。
コバユーというプラットフォームには様々なアトラクションが混在しているようだ。次々といろいろなブースを 巡っていく感覚を覚えてしまう。 それは日常の光景でもあり、妄想や夢の中でつくられた予想しえていなかった世界でもある。 そして、なんとも言えない不思議なワクワク感と混乱が渦巻いたカラフルポップワールドの中にいる自分に気が つく。
どこに行けるのか、はたまたどんな自分が登場するのかはコントロールできない。 それをきっとコバユーは『C』と呼ぶのだろう。
リリース情報
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2022年4月27日 配信リリース
『C(シー)』/ Coba-U Coba-U03
℗ & © アイスクリームレコード
<収録曲>
1.CRAZY DISH(2022 Remaster)
2.SF
3.ピエロ(2022 Remaster)
4.アニマルロケット
5.ハイファイ
6.サヨナラノート(2022 Remaster)
7.スマイル(2022 Remaster)
8.星空と神様(ambient night mix)
9.MONSTER(2022 Remaster)
10. レムウの森(2022 Remaster)
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