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【名盤伝説】”The Doobie Brothers / Minute By Minute”

MASTER PIECE US西海岸を代表するロック・バンドのドゥービー・ブラザース8枚目のオリジナル・アルバム『ミニット・バイ・ミニット』(1978)です。

初期の大ヒット作「Long Train Runnin」や「China Grove」などの泥臭いサザン・ロック・テイストが売り物だったドゥービーも、ソング・ライティングを担っていたトム・ジョンストンが体調不良で離脱し、途中加入ではあるもののバンドの顔となっていたジェフ・バクスターの元スティーリー・ダン人脈繋がりで加入したマイケル・マクドナルドの手によるレパートリーが増えるにつけバンドの音楽性が劇的に転換していきます。

1976年リリースのアルバム『Takin' It To The Streets』が発表された時のファンは悲鳴を上げました。「これがドゥービーか」と未知のマイケルの作風に非難が集中します。ところがマイケルの音楽性に最も信頼を寄せていたのはプロデューサーのテッド・テンプルマンだったのだろうと思うのです。テッドはバンドが所属するレコード会社のハウス・プロデューサーとして大メジャーとなるワーナー・ブラザースの発展に大いに貢献します。そんな彼が見出したマイケルの可能性と、ドゥービーのバンドとしてのポテンシャルを比較すると、ドゥービーの音楽性を転換させるのが、バンドが生き延びる道なのだと考えたのでしょう…全くの推論ですが、個人的にはそう考えざるを得ません。

続いて77年リリースの『Livin' On The Fault Line』ではその路線をさらに推し進めます。独特のファルセット・ボイスのマイケルのボーカルを活かすには、当時のワーナー社内でも評判だったアダルティな路線に、あの男臭いドゥービー・サウンドが見る影もなく変化していきます。そしてその集大成と言えるのが、この『ミニット…』かなと思います。

テッドの戦略は大成功で、US国内のアルバム・セールスは79年4月に1位を獲得すると間の一週を除いて5週連続でナンバー・ワンに輝きます。シングル・カットされた「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」もポップ・シングル・チャートで1位を獲得。グラミーでも最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞するなど、ドゥービーのアルバムの中でも最大級の評価を獲得します。

収録曲
M1 Here To Love You
M2 What A Fool Believes
M3 Minute By Minute
M4 Dependin' On You
M5 Don't Stop To Watch The Wheels
M6 Open Your Eyes
M7 Sweet Feelin'
M8 Steamer Lane Breakdown
M9 You Never Change
M10 How Do The Fools Survive?

もはやドゥービーの代表曲とも言えるM2。チープなキーボードのリフが妙に耳に残り、バックのアンサンブルが逆に深みのある音に聞こえるという、何とも不思議なアレンジ。髭面のむさ苦しい男達によるビューティフルなコーラス・ワークもそのアンバランスが絶妙なナンバー。マイケルとケニー・ロギンスによる共作です。


超変拍子のエレピが特徴的なイントロのタイトル・ナンバーM3。こちらもマイケル時代のドゥービーの代表曲となりました。そもそも以前のドゥービーならこんな甘いエレピは似合いません。「いつまで昔のことにしがみついているんだ。世の中は分刻みに変わっていくものだよ」(完全意訳)と離れていくファンよりも、より多くのファンの獲得に成功した彼らのテーマ曲と言えるのかもしれません。知らずに聞いた音楽ファンは、元々彼らはこんなバンドだったと勘違いされそうなほど完成度は高いと思います。


オリジナル・メンバーのパトリック・シモンズ作のM7。この声を聞くと落ち着くというファンの方も多いのではないでしょうか。ギター中心のミディアム・テンポの曲で、あの頃の男たちが少しは大人になって歌っているのかなという雰囲気。ダブル・ボイスの女性ボーカルはニコレッタ・ラーソン。こうした豪華な取り合わせが実現するは、予算が潤沢なメジャー・レーベルの強みですね。


アルバム・ラストはマイケルと何とキャロル・ベイヤー・セイガーの共作。このアルバムを最後にバンドを去るテクニシャン・ギタリストのジェフ・バクスターによる長尺ギター・ソロが格好良いのです(クレジットにはありませんが、多分彼が弾いていると思います。違っていたらスミマセン^^;;)。さすが変態スティーリー・ダンに認められただけあります。

この曲のタイトル「愚か者の活きる道」って意味深ですよね。M2が「愚か者が信じていること」と対で、愚直に自分たちの音楽を信じるだけという潔い心根が、アルバムの成功に繋がっているのかもしれません。


アルバムの大ヒットで順風満帆かと思われたドゥービーでしたが、80年代に入るとメンバーの離脱が相次ぎ、またメンバーのソロ活動も活発になり、唯一のオリジナル・メンバーとなってしまったパトリックはバンドとしての活動を休止することを決断します。思えばシン・ゴジラのごとく形態変化していったドゥービー、どの時代のサウンドがお好みかは個人の自由ですが、聞き方次第で、どの時代のサウンドも実は上質でそれぞれの良さがあると思います。

ドゥービー = 葉っぱでイカれた男たちは伊達に音楽と向き合っていませんでした、ということで。


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