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3人の距離
彼女は少し癖毛の髪をいつも1つにまとめている。その時間、電車は空いているので、端っこの席に座って小さなサイドバッグを左横に置いている。
そして1人分あいたところに座る彼。座ると周りをキョロキョロと見渡してからスマホを触りだす。
彼はいつもその位置だ。必ず彼女の1人分くらいあけて座る。彼女の方をチラッと見てから座る。
初めてその光景を見た時は、てっきり彼女のことを好きなのかなと思った。
彼女も最初のうちは、ドキッとしたようだった。他にも広くあいているのに、必ず1つ空けて自分の横に座るからだ。少し気になるのか、鞄をキュッと寄せてさらに小さく端っこに寄ったりしていた。
ふーんと思ってその光景を見ていた。毎日見ているうちに楽しみにもなっていた。何か展開があるのだろうか。もしかすると少しずつ、2人の間が狭くなるのでは!なんて。
でもどうも違う。話しかけることも全くない。そして気づいた。
彼は、場所が気になる人なのだ。
ある日そこに別の人がすでに座っていた。私まで、「あ」と思った。
いつもの彼はちょっとうろたえた後、ふらふらとその人の横に座った。その人も、彼が意外に近い距離に詰めて座るので、ちょっと居心地が悪そうだった。
またある時は、別の女性がその位置に座っていた。彼はまた同じく少しうろたえてその位置を見ていた。
するとその女性は、察しが良くて、「ここ?」と指差して聞いていた。彼はこくりとうなづいた。女性は微笑んで空けてくれた。私までほっとした。
ある日、その彼が乗ってこなかった。おや?と思って私がドア付近を見ていると、いつもの端っこの彼女も同じ方向を見ていた。
今日はいないね。
と、心の中で話しかけた。
彼だけが位置にこだわると思っていたが、よく考えると、彼女は必ず端っこに、そして私は必ず彼女と彼の向かい側だ。結局みんな場所にこだわっている。
一緒の電車になって1年は経つと思う。私たち3人はいつも近い距離にいる。が、それ以上は縮まらない。
2人とも学校に通ってそうな雰囲気だから、4月になれば時間が変わるだろう。新しい経路で、もっと早い時間かもねえ。今よりきっと混雑してるよ。
そして私は1人寂しくなる。