にしても異性と「普通に」話すだけがこんなに難しいなんて
大人数の飲み会が大好きだ。ーーーーーーという人生の予定だったが1対1で話すのが好きだとずいぶん前に気が付いた。お酒もほとんど飲めない。楽しいほうがいいので、それ以来2人きりが好きと公言して日々キャッキャ過ごしている。性別がどちらであっても、なんか1対1のほうがリラックスして話せる。駆け引きなしに仲良く話すことも好きだ。
なにより自分の部屋で話すのが楽しい。ゆったりのんびりふふふと純粋に話すのが好きな希少種だ。でもこと異性愛者同士になると1対1は私の体感よりもずっと重い意味を成すと経験から知っている。私はあんま変わらんが、部屋という「密室」や「夜」が随分関係するらしいとも知ってるし、性別じゃなく「一人の人間」として接する私の価値観が少数派だともわかっている。
だからこの何年かは、人間的に仲良くなりたい異性には私の考えを話してから主に昼に2人きりで会うようにしている。そしたら駆け引きなんて必要ないし。それでもやはり、普通に話すだけは難しいようじゃ。
それを伝えて2〜3回ほど二人で遊んだことのある女の子と、10月中旬にカフェでお茶したあとにアパートでおしゃべりすることにした。香水好きな女の子が香水の話をしてくれ、私も好きだったのでしばらく話していたら自然と「今日はなんの香水付けてるの?」と聞かれた。
今日は普通にジョーマローンのブラックベリーだよと言うと、やっぱり!と言って、私の手首をすんすんしてきた。あぁ、これまずい流れかもしれん。
そして案の定、彼女は自分は「マルジェラのレプリカ」を付けてると言い、首筋と髪で匂いが違うんだよとこちらに首を差し向けてきた。暗に「嗅いで」と言っているのだ。やられた、と思ったしちょっとショックだった。
なんか普通に楽しく話していただけだと思っていたから、会話を(自然っぽく)誘導されていたのが悲しかったのだよ、香水は駆け引き的会話だったとは。純粋に匂いをかいで欲しいのか性の色が混ざっているのかはーー絶対ではないにせよーーなんとなく分かる。これ、だいぶ色が入ってる。
このままいくと、
①私が彼女の首筋の匂いを嗅ぐ
②彼女が私の首筋を嗅ぐ
③「香水の効果的な付けかた」という名の距離を縮める時間帯
④謎のいい雰囲気
④おみだら
になってしまう。つらい。
私は女の子の差し出した首と髪を触ることも嗅ぐこともせず、せめて手首だけにして会話を髪型に変えた。暗に「そういうことじゃないよ」のサインを返したのだ。でも髪型の話題に切り替えても似たことになったのでファッションに舵を切った。
そしたらしばらくして今度は、だぼっとしたスウェットに短パンを履いていたその子が、私に向かって「あおくんもこの短パン似合いそうだから履く?」と言ってきた。連呼してきた。
そんでもって「短パンの下にパンツが見えないためのピタッとした短いやつ履いてるから大丈夫」と言って、短パンを脱いだのだよ。すごくびっくりした。ごめんよ女の子と思った。下着とそのピタッとしたやつの違いがあんまりわからないよ。僕にとってそれもうほぼ下着だよ。
ゆったりトレーナーに生足という、古風な漫画の一場面みたいな格好の女の子と話すシュールな絵になった。私の反応でまた路線が変わるのだろう。なんだかとても悲しかった。普通の会話をしていると思っていたし、誘導会話にもNOのサインを出していたのに、ファッションの会話も誘導だなんて。
女の子は決定的なことは何も言っていない。仮に私が首筋の匂いを嗅いで髪の毛を触って短パンを履くため脱いでも、何も起きなかったかもしれない。でも色は混ざっていた、確実に。うまく言葉に出来ないけど、なんかあれ分かっちゃうのだ。
それまでテーブルで会話をしていた女の子が、私のベッドに腰掛けてゆったり話したい感じを出したところで不自然でもいいからと思って打ち切った。そして私は普通に仲良くなりたい異性を一人失った。やっぱ性別は体感以上に難しいんだな。
ーーお家に来るまでは色を感じていなかった。密室ではあるけど明るい時間だったのでちょっと油断しすぎていた。雑談がしたかった。こんなことを言うと「家に行く=おみだら派」の人たちから怒られそうだけど、やっぱり普通に話しがしたかった。事前に話をしていたから特に。
誘導会話、1回こちらが「違うよ」のサイン出したらそこで辞めてほしいなぁ。そういう決まりが出来たらいいなと割と切に思った。アパートで話さなければいいだけなのだけれど、お家でふふふと話すという、至極簡単なことをいつか達成したいのでまだ諦めていない。