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ブラジルとアマゾングルメ⑦トメアス編

1945年、戦後を迎えた日本の真裏にあたるブラジルでは日系移民たちの間で大きな対立が生まれていた。
日本が戦争に勝ったと主張する「勝ち組」と、負けたと認識する「負け組」に分裂してしまったのだ。
やがてこの現象は暗殺事件にまで発展してしまう。意見の対立は当時の情報伝達の乏しさも想像に難なくないが、開拓移民の過酷な生活環境による精神の自律が損なわれていた事も指摘されている。


アマゾン移民のふるさと

ベレンから長距離バスで南下し訪れた街はトメアスだ。

ベレンからトメアスまで
道中車ごと船に乗せての移動となる

北ブラジルでは最古にして最大の日系集団地とされるトメアスは1920年代から日系移民の入植が始まった。当時入植するのも大変で、長距離船の移動中にも亡くなる人がいた。その遺体を埋葬するのに立ち寄ったシンガポールで、偶然胡椒の苗を見つけ船に持ち込まれると、やがて後にそれがトメアスの経済産業に大きく寄与する。最初にトメアスの地に活着した(根付いた)苗はわずか2本だけであったというから驚きだ。


私はトメアス到着翌朝、アポを取っていた日系男性と宿で落ち合った。著名な方なので敢えて名前を記す。男性は小長野道則(こながのみちのり)さんという。
小長野さんは農場主であると共に「アグロフォレストリー」という農法の最高権威だ。

小長野さんと筆者

これまでアマゾンの開拓移民はマラリア、戦争(敵国人とみなされていた)、作物病害など幾度となく苦境に立たされる歴史の連続であった。
そんな中1960年に当時幼かった小長野さんは両親と共にブラジルへ移住し、これまで農業に従事してきた。小長野さんは過去の経験からアグロフォレストリーを取り入れることでトメアスの農業改革を進めてきた。
以下に小長野さんが解説してくれたアグロフォレストリーについて簡潔に記す。

一つの土地に一つの作物では収穫時期が限定され、収入が不安定になる。そこで三つの異なる作物を植える(例えば胡椒、カカオ、アサイー)ことで一年を通して収穫が可能となり生活の安定が図れる。
植える物も自然界で共存共生関係を築ける物同士を採用し、環境負荷を抑える。例えば根っこの浅い物と深い物を植えれば土中の栄養を取り合わない、といった具合だ。

トメアスの移民史を支えた胡椒
同じ場所に複数種の作物が植えられている
筆者のお気に入りフルーツ
「クプアス」
天日干し中のカカオ
アサイー収穫
アサイー収穫
高所の枝を目指す
アサイーの付いた枝
アサイー
蟻の巣

アグロフォレストリーはトメアスの農業に大きく貢献し、国内外で高い評価を受けると小長野さんは海外を含め様々な所で講演を行うようになった。
「講演を聞くよりも私の農場に直接来て見学した方が早い」と語る小長野さんは農業従事者に三、四日ほどの研修を行ったりと、人材の育成にも熱心に取り組んでおり「作物と人を育てる事で、環境と社会の向上に繋げる」をモットーとしている。



アマゾンカレー?「マニソバ」

農場見学の途中に小長野さん宅で昼食をご馳走になった。アマゾンエリアでは広く食べられている「マニソバ」だ。

アマゾン料理「マニソバ」

マニソバはキャッサバの葉っぱを長時間煮込んで作る料理で、ここで食べた物は具材に豚肉が使われていた。
味はコクがありご飯との相性が抜群で日本人にも馴染みやすい印象だ。どこか「一晩寝かせた家カレー」を思い起こさせる。「長時間煮込む」といっても通常のそれとは比にならず2週間煮込んだという。それくらい煮込まないとエグ味が消えないそうで、そうまでして食べようとする執念からもアマゾンの過酷な食事情の歴史が垣間見える。



アマゾンの洗礼

農場を後にすると、有名なCAMTA(トメアス総合農業共同組合)の工場見学もさせていただいた。詳細は割愛するが日中ずっと小長野さんに時間を割いていただき感謝しかない。
御礼を告げ宿に戻り夜になった頃、身体の異変に気付いた。手足が異常にカユイのだ。
よく見ると腕の肘上と足のふくらはぎが無数の蚊に刺されたような痕がある。見ていてゾッとする程の数だ。痒さも激しいが、そもそも気持ち悪い。
部屋で酒を飲んでいたので、アルコールで痒さが増していたと思う。ふくらはぎを触ると皮膚のブツブツ感が手に伝わり思わず「ひえっ!」となり、気を紛らわす為に酒をグイッと飲む。そしてまた恐る恐る手でふくらはぎを触っては慄いて酒を飲んだ。
気づけば足のブツブツ感を肴に酒を飲み進めて泥酔してしまった(一体何をやっているんだ)。

いつどこでどんな虫に刺されたのか不明だが、おそらく農場見学中だろう。この後痒みはしばらく私を悩ませた。開拓移民の過酷な日々の1パーセントくらいは体験できたのだろうか。

末尾に虫に刺された足の画像を貼っておく。
モザイク加工を施してはいるが、それでもゾッとするので見たくない方はここで画面を閉じていただきたい。



















アマゾンへ行く際は長ズボンをお勧めする

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