冬のシベリア⑪ ヤクーツク編 永久凍土王国と日本語王
マンモス博物館で出会った我々日本人3人は、お互いなぜ真冬のサハにいるのか経緯をシェアした。
まずヤクーツク在住で日本語講師のKさんは、教え子であるK君(日本語が本当に流暢!)にトレーニングがてら博物館を日本語で案内させていたそうで、もう1人の女性Aさんはウラジオストックで日本語を教えていてKさんの講師仲間だ。Aさんは休みを使ってKさんに会いにサハにやって来ているとのこと。
2017年の時点でサハ在住日本人は3人いて、Kさん以外の2人は留学生、一時的に住んでいるだけだそうだ。
K君の解説ツアーに私も同行させてもらう事となり、それまで英語で解説してくれていた男性に御礼を伝えた。
マンモス博物館を見終わると我々は永久凍土王国へなる施設へ向かった。こちらはエンターテイメント色が強い施設だ。氷の世界をイメージした作りとなっている。
驚くべきはK君の日本語力だ。
日本へ留学経験がある彼の解説は非常にわかりやすい。
サハ土着の宗教展示物を解説している際に一度言葉に窮した瞬間があった。
K君「これは日本で言うところの、、うーん」
しばらく唸ったあと思い出したように
K君「オオヌサです」
日本人3人「オオヌサって何!?」
ネットで調べてわかったがオオヌサとは巫女さんが手に持って振っている棒のことだそうだ。
日本語監修している筈がこっちが勉強させられてしまった。恐るべしK君。
永久凍土王国を後にした我々はサハ料理が食べれるレストランで昼食を取ることとなった。
レストランはサハの伝統的な家屋や調度品を拵えた仕様となっており趣がある店だ。
我々がオーダーしたものは以下の通りだ。
興味深いのは凍った馬の脂「ハーサ」。塩味でニンニクと小ネギが散らされているがK君曰く食後のデザートの様なものらしい。
鹿肉は臭みがあるが、和からしを付けると消える。和からしが頻繁に登場する事についてK君に尋ねたところ、もともとサハには無くロシアから入ってきたものという。
またサハ料理は全体的に塩気が薄い印象があるのだが、それについては元々海が遠いので塩が手に入り難く使用量が限られていた名残らしい。
K君の話を聞いていて感じたのは、前述のPさんの叙情的な話し方(※冬のシベリア⑧参照)とは違い、冷静で淡々と語ることだ。
冬のサハにまつわるこんな話をしてくれた。
真冬の公園で幼い子供が遊んでいた。誤ってかその子供は何と滑り台の台を舐めてしまった。一瞬で凍りついた唾液は台と舌を接着してしまった。
子供はそのまま動けず周囲が気付き救急車を呼んで引き剥がすことができたらしい。
その公園の滑り台には、しばらく皮のような物が残っていたという。
夏に聞きたかった。
昼食を終えると日本語講師Kさんはこの後予定があるのでと先に離脱した。去り際に明日大学へぜひ来るようにと言われたので訪問する約束をした。
その後はAさんの要望で花屋、私の要望で本屋へ立ち寄った。
時間も夕方になりそろそろお開きにしようとなった。
K君「せっかくですから日本式でお別れしましょう」
突然何を言い出すのかと思ったら何と一本締めで解散しようと言う。
3人「いよ〜、っぽん!」
シベリアの本屋に奇妙な唱和が響き渡る。
外は樹氷が電灯の光を受けて煌めいていた。