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ブラジルとアマゾングルメ⑤ベレン編その2
ベレン料理はブラジルの中でも特異的で、それを成り立たせているものはユニークな食材たちだ。私が食べてきた物は一部にしか過ぎないが紹介していく。
ピラルクフライとアサイーペースト
ヴェロペーゾ市場内にある食堂で人気のメニューだ。
塩漬けされたピラルクに衣を付けて揚げたものとアサイーペーストのセットで、ファリーニャ、砂糖、ライム、唐辛子を自由にトッピングして食べる。
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後述するがアマゾンはアサイーだらけだ
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衝撃的な味であった。この頃の私は全くの新しい味に飢えていた。
アサイーの青臭さ、ピラルクの生臭さ、これらは打ち消し合う事なく口中をさまよう。脳が味の全体像をなかなか掴めないでいる。
隣の客もMさんも美味しそうに食べている。
私の特性として、周りが美味しいと頬張っているのを見ると自分もその境地に立ちたいと嫉妬し、やがて脳内で美味しさを探すようになる。
気付けば無心に喰らい付いていた。
新しい味との出会いは大人にとっては貴重な体験だ。新たな知覚の扉が開かれる。
海老のしびれ草煮込み
「タカカー」
ベレンの屋台料理、そこで食べたものがタカカーというエビ煮込みだ。
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タカカー
黄色いスープは前述のトゥクピー(ベレン編その1参照)によるもので、青菜の様なものがしびれ草ジャンブーだ。他にはニンニクや薬味が使われている。
汁を啜ると甘、辛、旨、酸がバランス良く口の中に広がる。美味い。
どこかタイ料理を彷彿させる味だ。ホーリーバジル(ガパオ)の様な香りがする。
トゥクピーは発酵調味料だが発酵度合いで甘み寄りか酸味寄りかに変化するらしい。ここの屋台は甘めとのことだ。
そして何と言っても特筆すべきはジャンブーで、味自体は春菊に似ているが食べる程に口の中がどんどん痺れていく。中国山椒どころではない。食べ終わる頃には口内中痺れて虫歯の治療が出来てしまうのではないか。
これも新しい体験であった。
絶品泥ガニ
アマゾン河口で獲れる蟹でカランゲージョと呼ばれる泥ガニがいる。アマゾンへ来たらぜひ食べて欲しい。二軒ほど食べたが名前からは想像付かないほど美味だ。
一軒目は船でアマゾン川を進んだジャングルに囲まれたレストランだ。
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「カイピリーニャ」
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盛り付けセンスを疑うが味は素晴らしい
「泥」のイメージからはかけ離れ、臭みは全くなく上品な魚介の旨味が噛み締める度に舌に広がる。
二軒目は街中にある人気のレストランだ。
夕方になると外にテーブルと椅子を出し始め、人々が集まってくる。有名人を含めブラジル中からここを求めてやってくるそうだ。
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夕方席に着いたものの、肝心のオーナーシェフは中々やって来ない。ビールで喉を潤しながら待っていたが、結局現れたのは20時頃だ。ラテン時間というやつだ。
自身のルーツなのか真っ赤な民族衣装を纏ったアフリカ系店主は異色を放っていた。我々はカランゲージョとフライドポテトをオーダーした。
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米は黄色くおそらくデンデオイル(ヤシ油)によるものと思われる。
ブラジル料理は全体的に塩気が強い印象だが、ここはむしろ塩気が抑えられている。その為か、皆塩を振りかけながら食べている。ここのカランゲージョも最高に美味い。待った甲斐がある。
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食事中M子さんが興味深い話をしてきた。フライドポテトを指さして、「あなた、お店やってるんでしょ?このポテト出してみたら?」と提案してきた。
まるでフライドポテトが地元固有の料理かのような口ぶりなのでこれには面食らった。もちろん至って普通のフライドポテトだ。
圧倒的に独自性の高い食の街ベレン。住んでいる当人たちは案外独自性と共通性の境目を認識し難いのかも知れない。
アマゾングルメは続く。