エチオピア ⑧観光編 チャットドライバー
エチオピア は訪れるべき観光スポットが沢山ある。
私が今回現地ツアーで参加したのは世界一過酷なツアーと評される「ダナキル砂漠ツアー」だ。
2泊3日の旅程(プランは複数ある)で、火山や砂漠等を周るツアーとなっており外国人に人気がある。
アジスアベバのツアーデスクで参加申し込みし、長距離バスでエチオピア 北東部に位置するメケレという街まで移動、翌朝そこからツアー会社の用意した車に乗り込んだ。
ツアー参加者は多数かつ日本人バックパッカーにも人気で私が乗った車はドライバー以外は全員日本人だった(私含め4人)。ツアー会社が配慮して国籍毎に同行者をまとめたようだ。
ツアー初日、目指すはダナキル砂漠に位置するエルタアレ火山だ。
チャット再び
車はトヨタのランドクルーザーで、ドライバー、私が助手席、他3人は後部座席であった。
私はアジスアベバで購入したチャット(※エチオピア 序章、インジェラ編参照)を持っていたのでドライバーに食べるか勧めてみた。それを見たドライバーはため息をついたまま車を発進させた。
チャット否定派だったか、と思い少し気不味い空気が内心漂った。5分もしないうちに車はどこかへ停車し、ドライバーは「待ってろ」と言い残し、1人車を降りてしまった。
しばらく待っているとドライバーは大量のチャットを抱えて戻ってきた。
「チャットはフレッシュじゃないとダメだ!」
こうしてツアーは始まった。
走行中ドライバーは停車する度にチャットの枝から葉っぱをむしり取り、口にどんどん放り込む。お前もやれと言わんばかりに枝を手渡されたので私もむしゃむしゃ食べ始めた。口内が青臭さいっぱいなると今度はナッツのようなスナック菓子を渡され、それを食べろという。青臭さが消える訳ではないがナッツの香りが混ざると少し馴染む。そしてまた葉っぱをむしゃむしゃ食べる。もはやベジタリアンを通り越して草食獣になった気分だ。後部の3人にも勧めたが断られた。
メケレを出発した車は街からどんどん遠ざかり、荒野の集落で昼食を取りつつ、ダナキル砂漠へと向かった。
砂漠地帯に入ると車を遮る物が殆どない。ドライバーはどんどん加速していく。
ドライバーと私は相変わらずチャットを食べていた。ふと後部に目をやると3人とも寝ている。昼食を済ませた午後に単調な景色が続けば眠くなるのは当然だ。逆に私は何で眠くないんだろう。気づけば目が「ギン」としてむしろ頭が冴えている。そうか、これがチャット効果か。長距離ドライバーがよく食べると聞いていたが、なるほど眠気防止にもってこいだ。
チャットによるドライバーとの妙な一体感でテンションが上がり、車は砂埃を上げながらどんどん加速して行った。
「フシュー!フシュー!」とドライバーが口から蒸気機関のような息を吐き始めた。テンションがマックスだ。それを見た私は笑いながら視線を正面に戻すと前方に岩のような塊が見えた。それを跨ぐように直進すると車はまるで漫画みたいジャンプした。
そして次の瞬間、「ゴン!」と後部座席から鈍い音が聞こえた。
「いった〜い!!」後ろに座っていた女性のAさんの悲痛な叫びが聞こえた。
どうやら天井に頭をぶつけたらしい。
その後ドライバーは申し訳なさそうにスピードを落として走行した。
ダナキル砂漠の気候はかなり過酷だ。午後を過ぎると気温は50℃近くまで上がる。休憩で車の外へ出ると恐ろしい程の熱気に包まれ長時間居られない。
車に逃げ戻ると再び火山を目指して発進した。
走行中ドライバーはなにやらフロント中央部を頻繁にいじっているのに気づいた私は理由を尋ねると、オーディオの調子が悪くて音楽がかからないと言う。
余程音楽を聴きたかったのか次の休憩で停車中に、フロント下部の配電部の様な所を本格的にいじり始めた。すると突如エアコンが止まってしまった。
外の気温は変わらず50℃近い。何て事だ。車内の温度が上がり始める。
ドライバーは車内に取り付けてある配電図の描かれたプレートを外して私に手渡した。
「お前日本人だろ?これ日本車だから直せるよな?」
何を言ってるんだこの人は。できないと伝えると後ろの3人にも配電図を見せて誰か直せないか尋ねた。
当然誰も直せない。車内の温度は更に上がってきて緊張が走る。
本格的に焦り始めた頃、同じツアーの車のドライバーに来てもらった。配電を色々といじったらエアコンが復活し、事なきを得た。車内に安堵の空気が流れた。
砂漠走行中はオーディオが壊れても直そうとしてはいけない。
ツアーは続く。
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