優しい行動は、心の貯金

息子がまだ保育園児の頃、帰り道に通り雨が降った。
私も息子も雨具を持っていなくて、雨宿りできそうな屋根もなかった。

家に帰るだけだから、と私は息子の手を引き小走りした。
幼い息子の頭に、なけなしのハンドタオルをかけて。

走っていると、どんどん降ってくる雨。
そこに車が前からやってきて、私達の後ろで停まる。

「ちょっと、そこのお母さん待って!」

助手席から出てきたのは、私の母ぐらいの年の女性。
大きな傘を持って走ってくる。

女性は自分の傘をささずに走って私達のところまで来ると

「子供ちゃんとお母さん、風邪引いちゃうから持っていって!」
そう言って私の手に傘を握らせてくれた。

「ありがとうございます。」と、素直に一言目が出なかった。
「お返しもできないのに、お借りするわけには・・・。」と私は言った。

そんな私に「返さなくていいから!ほら、濡れるでしょ!」と、私の手に傘が渡った瞬間走り去る女性。

「ありがとうございます!」
走り去る女性に大きな声でお礼を伝えて、傘をさして息子が濡れないように歩いた。

「ありがたいね、嬉しいね。」
見返りを求めない親切をいただくことに慣れていなかったあの頃の私は、泣きそうになりながら繰り返し言いながら、帰路に着いた。

途中雨が止んで大きな虹が見えた。
綺麗だね、と息子と顔を見合わせ笑顔になった日。

まだ3、4年しか経っていないがずっと心に残る優しさ。

あの時の名前も住んでいる場所も知らない親切なご夫婦。
傘はそれ以来、捨てることもせず使う度にいただいた親切を思い出しながら使わせて頂いています。

本当に、本当にありがとうございます。


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