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第2回高校野球マニアック地区予選試合展望#第106回全国高校野球選手権大会#北北海道予選1回戦(令和6年7月15日第二試合)#旭川東高校VS帯広大谷高校に注目<前編>

「北北海道の偏差値No.1公立校」と「十勝の絶対的王者(私立)」が対戦。

106回を迎える全国高校野球選手権の北北海道予選1回戦の「旭川東」と「帯広大谷」の対戦が面白い。
なぜならセオリーに囚われない「知能」と「才能」が雌雄を決する因縁の一戦だからである。

「十勝の絶対王者」帯広大谷高校


「5戦5勝、得点40、失点3」

これは帯広大谷高校の春季・夏季における十勝予選の成績である。
現チームになってから、十勝地区では公式戦負け知らずで、公式戦で土を付けたのは東海大札幌(新人戦/秋季北海道大会準決勝)と北海高校のみ。

夏季大会の十勝地区代表決定戦では、2021年の甲子園出場校である帯広農業高校により35イニングぶりの失点を許すも、プロ注目左腕から12安打、6得点を奪い北北海道大会の出場権を得た。

*帯広農業戦の観戦記はこちら


2年ぶりの北北海道大会出場となるが、2年前に帯広大谷高校の甲子園行きを阻んだのが旭川東高校である。

「秀才たちの夏」旭川東高校


「偏差値66」

北北海道地区大会の参加校のうち、普通科ではトップクラスの高校である。
偏差値だけでは無い。
北北海道大会の会場となる「スタルヒン球場」命名の由来となった300勝投手のスタルヒン投手を輩出した古豪であり、最近では2022年に北北海道大会の決勝まで進出している。
いわゆる「文武両道」の伝統校である。

「秀才たちの夏」の終わりは、新たな戦いの始まりである。
受験生としての過酷な戦いを本格化させるのだ。
しかし彼らには先輩たちが積み残した長年の悲願がある。
学力では北北海道の頂点に君臨する負けず嫌いの秀才たちは、並々ならぬ覚悟で北北海大会に臨む事になる。

因縁の対決(伝統と新興)


「7対0」

2年前、104回全国高校野球選手権の北北海道予選準々決勝で旭川東高校と帯広大谷高校が対戦している。
結果は旭川東高校が7回コールドで帯広大谷高校に勝利した。
22年ぶりに準々決勝を果たした旭川東高校と、前回準優勝校の帯広大谷高校の対戦はあっけないカタチで終了する。
その後、旭川東高校は勝ち進み53年ぶりの決勝を果たすも旭川大学高校に敗れ「秀才たちの夏」は終幕となった。

野球部創部が1903年の旭川東高校は過去11回、決勝に進出しているが全て甲子園を逃している。
特に1933年、1934年のチャンスでは、後の300勝投手スタルヒンを持ってしても越えられなかった壁である。

一方、帯広大谷高校野球部は1997年創部なので、旭川東高校の前回決勝進出時(1969年)には存在していない新興の部である。
しかし帯広大谷高校は2度目の挑戦となる2013年に甲子園へ行っている。

創部121年の秀才集団にとっては、自身が11浪している甲子園に1浪で合格した新興野球部に思うところがあるだろう。
また十勝の絶対的王者に成長した帯広大谷高校は、北北海道大会で7回コールド負けという屈辱を与えた文武両道の進学校にリベンジしたいという思いがある。

この両校の因縁や思いが交差するであろう一戦について、少し違う角度から推察する。

リアル「もしドラ」(2022年の旭川東高校)

「もしトラ」という言葉が最近メディアでよく取り上げられている。
「もしアメリカ大統領にトランプが再選したら」の略なのだが、野球小説タイトルのパロディーであることは意外と知られていない。
元ネタは「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』と読んだら」という2009年発売のベストセラー小説である。

女子高生の野球部マネージャーが企業経営論の大家ドラッカーの名著『マネジメント』を頼りに、セオリーに凝り固められた高校野球を「マーケティング」と「イノベーション」という概念でぶち壊し、弱小公立進学校を甲子園に導くというストーリーである。
所詮はフィクションとタカを括っていたが、2022年にリアル「もしドラ」を目の当たりにすることになる。

2022年に53年ぶりの北北海道大会決勝進出を遂げた旭川東高校である。

「野球未経験のマネージャーによるマネジメント」

2022年、たまたまテレビ越しに見た104回全国高校野球選手権の北北海道予選。
旭川東高校のベンチには暑苦しい高校野球とは縁遠い学者肌の監督と理系女子風のマネージャーがノートを手に会話を交わしている。

「リケジョ」という言葉がぴったりな彼女は中学まで野球経験無し。
高校野球の注目度が高いことに関心を持ち、「もっと部をよくできる」と考え入部を決意したという。
役割は主にデータ分析。
対戦相手の打撃や投球のデータ化や、自チームの成績を数値化-分析してチームの強化に繋げた。
「データ分析班」は國學院栃木高校が智弁和歌山を撃破したことにより世に広く知られる事になったが、旭川東高校のそれは「似て非なる」ものに感じた。

データとセオリーは必ずしも一致するものでは無い。経験値というバイアスがかかってしまうと、セオリーを重視してしまう。
しかし真っ白な人間が分析するとセオリーに左右されない。数値にシビアになるほど、その差は顕著だ。
私が旭川東高校と「もしドラ」を重ねたのは、そこだったかも知れない。
「セオリーなんてぶっ壊せ」
この爽快感こそが私の心に強く留めた理由である。

2022年の帯広大谷高校は、リアル「もしドラ」のマーケティング分析により見事に攻略された。
全肯定は出来ないが、それは7対0という結果が物語っている。

「セオリー」の正体

無死一塁の場面、ほとんどのチームの監督は送りバントのサインを出す。
なぜならそれは「セオリー」だからだ。
しかし統計学的には、この戦略では得点期待値が下がると言われており、送りバントは有効な手段では無い。

それでも送りバントは無くならない。
バント成功率より打率が高い選手に対しても、盗塁成功率の方が高くても、捕手の盗塁阻止率が低くても頑なにスリーバントのサインを出す監督もいる。

35年前、帯広市にある旭川東高校と偏差値だけでは雌雄を争う進学校の話。
いざこざで退任した野球部監督の後釜に北海道大学卒の新任数学教師があてがわれた。
勿論、野球経験は無し。
行き過ぎた指導方針の幕引きとしての政治的配慮だが、当時は混乱していた事を覚えている。

おかげで私は部に残った5人の先輩と文化系新監督に貴重な新入生として優しく迎えられた。
ノックも出来ない兄貴のような監督だったが北海道大学卒の秀才である。
そんな秀才数学者が弟分の部員達に思わぬ発言を浴びせかけた。

「バント、意味無くね?」

確率論的には、三つのアウトを使い四つコマを進めて得点を競うゲームにおいて、送りバントはナンセンスとのことである。
近年のセイバーメトリクスにより、このような説が唱えられてるが、35年前に気付いていた素人がいた。

あの頃の私は監督をただの変人としか思えなかった。
それだけセオリーの呪縛は強い。

その監督は一年のみの任期だったが、素人なれどポンコツでは無かった。
甲子園に出場した帯広北高校に対して1年生4人を加えた即席チームで地区予選に挑み2対0の接戦を演じる。それが帯広北高校が甲子園に行くまでの最小点差ゲームとなったのだから快挙と言う他ない。
これはセオリーがそれほど勝敗に関係の無いことの証左である。

それから私自身セオリーについて疑う習慣が付き、自分なりに分析した結果、以下の効能がある事を発見した。
セオリーは「ボケツッコミ」であり「儀式の式次第」の様なモノ。
セオリーは「これをすると落ち着く」というお約束やルーティンの様なもので精神安定剤的な役割がある。またお互いの儀礼的な決め事なので、失敗しても間違って無いという保険的な要素もある。
セオリーを遵守することで、両チームとも何かと角が立たず、変な空気にならないことにより、選手が落ち着いて自分の力を発揮できる。
その効能が期待される限りは、戦術としては有効であり、監督は今日もバントのサインを出し続ける。

「知能」と「ICHIRO」のイノベーション

セオリーを無視するには、先述した北海道大学卒の素人監督の様に、鵜呑みではなくロジックとして理解し、合理的に戦術を組み立てられる「知能」が必要となる。
リアル「もしドラ」を具現化した旭川東高校は、野球をゼロベースから理解できる「知能」を有していた。

そしてリアル「もしドラ」のマーケティング力は、日米通算4367安打のスーパーヒーローをも動かした。
過去11回甲子園を目の前にして全て逃したという現状をプレゼンした結果、見事にイチロー氏の心を掴み2023年11月に旭川東高校での直接指導が実現。
これが悲願成就の最後のピースとなるのか?
旭川東高校の「知性」は、孤高の天才の指導によりイノベーションを起こすのか?
この続きは後半で。

<続く>

*後編はこちら



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