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【神(髪)は、死んだ。】脱毛症になった話。その③

女学生の嘲笑に堪え切れず、その日、バリカンで髪を刈った。いつまでも、ハゲを隠していられない。五分刈りでいよいよ顕になった脱毛痕は想像以上にヤバく、30箇所以上あったと思う。抗体医薬品候補の実験犠牲になったラットのような頭皮。頭頂にはほとんど髪がなかった。

T字剃刀で丹念に剃り上げて、翌日に備えた。髪の毛は、硬くて剃るのに苦労した。仰向けに寝ると、枕のひんやりした感触が傷ついた心を少し癒した。心の澱が吐き出される気がした。なぜ僧侶が頭を剃るのか、わかった。剃髪とは、「無」だ。

同僚たちは、ひと際明るい口調で「坊主似合ってるね!」とか「頭の形いいね!」とか各々に考え抜いた思い思いの慰め言葉をかけてくれたけど、せいぜい黙って頷くのが関の山。スキンヘッドなんか好きでするワケがない。要するに、対岸の火事である。

こういうことは、意外と自分自身より周囲の人間の方が適応が早い。すぐに容赦ないハゲいじりが始まったけど、心の中の自分には髪が生えていたから、しばしば反応が遅れた。

やっぱり髪のある自分に戻りたくてウィッグを購入してみたけど、痒くてとても着けていられなかった。自分は一体、何がしたいんだろう。剃髪しても、何も吹っ切れていない。

近くに住む伯父が、強引に心療内科の予約を取り付けてしまった。大袈裟だ、と断ったのに、予約を入れてしまったのだから、行くしかない。どうせ何も、変わらないけど。

名医と評判のお医者様は、紛れもないストレスだと繰り返した。ストレスなんて、自分はあるのだろうか。もっと忙しい人も、もっと大変な人も、他にうんといる。

「心当たりは、ないですか?」

心当たり。ないことも、ないけど。

そこから色々あって、休職に入った。

その④

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