019: 『ある夜のオバケ騒動』
すいません、今回も8,200文字を超える長文です。
ある夜のオバケ騒動1
『オバケが出た』
ある夜の出来事です。僕の記憶では幼稚園に通い始めた頃でしょうか。僕は一階の両親の寝室に独りで寝ていた時に、夢にオバケが出てきて泣いていました。うなされていたところを、灯りが点いている居間へ母親に連れてこられました。まだ家族のみんなは起きていました。しばらく僕は泣きじゃくっていましたが祖母に少しテレビでも視て落ち着くように言われました。
「神様を呼んで、オバケを追い払ってもらうから。」
祖母の言葉に祖父は「また、そんなことを言って!」と不機嫌になりました。
テレビのスイッチを入れると緑の草原に白い馬が走っている姿がブラウン管に映し出されたのを僕は印象的に覚えています。
「ほら、白馬が来たよ。神様の使いだよ。」
僕は祖母に「本当の馬じゃないよ。テレビに映っているだけだよ。」と言ったのですが祖母は「テレビに映った馬でも毘沙門天様のチカラは凄いんだから。」
「こども相手に、そんなデタラメなことを言って!」
祖父は声を荒げました。
僕は母親がどんな表情をしていたのか、その時の顔を全く思い出すことが出来ません。僕が落ち着きを取り戻したので、また寝るように父親に言われましたが「一階の寝室はオバケが出てきたから戻りたくない」と言いました。
そこで、その夜は祖母の寝室で寝ることになったのです。祖父母の寝室は二階にありました。僕が階段に差し掛かった時でした。下から三段目に一階の寝室に出たのとは別のオバケが待ち構えていました。階段の下から二段をそいつが消したようで、暗闇が開いていました。穴の底が見えず、まるで異世界への入口の様でした。
「お婆ちゃん!階段にもオバケがいるよ!階段には真っ暗な穴が開いているよ!」
「そんなもの!どこにいる!どこだ!言ってみろ!」
僕の訴えに父親は怒り、怒鳴り返しました。
「だから、すぐそこにいる!」
「いつまで寝ぼけてるんだ!」
興奮が収まらない父親は怒鳴り散らします。家族はその様子を呆然と見ています。
「やめろ。寝ぼけた子どもを怒鳴りつけると、気が狂うぞ。」冷静に祖父は父親を諭しました。
「穴なんかどこにも空いてないだろ!」
そして、階段を力任せに踏み鳴らして大きな音を立てながらドンドンと階段を上がって行きました。父親が透明な階段を昇り降りる姿とオバケが交差する様子を見て僕は絶叫を上げます。
「パパ、危ない!」
オバケ騒動で僕の心には「父は自分の言葉を信じてくれない。父は自分の気が狂っても構わないと思っている。」という強い不信感が幼い頃のトラウマとして刻み込まれたのです。
ある夜のオバケ騒動2
『風魔の聖水を飲む』
僕が一度は落ち着いた後にも関わらず、まだオバケが見えると言い出したので祖母は次の手を考えました。
「二階から聖水を取ってきて飲ませます。」
祖父は聖水の存在を知っていましたが全くそのチカラを信じていませんでした。
「あんな水、〇〇(僕)に飲ませる気か!」
「家に聖水があるの?悪魔祓いの神父さんとかが持っているやつ?」
意外な事実に僕は驚きました。
「お婆ちゃんが作った聖水が隠してあるの。」
祖母の言葉に僕はまたもや驚きました。
「お婆ちゃんって聖水が作れるの?」
「〇〇(僕)が本気にするからやめなさい。」
祖父は普段の祖母のしていることは知っているが本気にはしていなかったようです。祖母は二階から水らしき液体の入った日本酒の一升瓶を持って降りてきました。
「ママ、水をコップに一杯汲んでちょうだい。」
祖母に言われるがままに母親はコップに水を汲みました。
「そんなものを飲ませて腹を壊したらどうするんだ。」
祖父は呆れています。
「この水は穢れていませんから大丈夫です。」
祖母は答えます。
「こんな水、ただの古くなった水道水じゃないか。」
祖父は言います。
「水道の水なら大丈夫じゃない?」
僕は言いました。
「駄目だ!もう古くなって傷んでる。」
祖父は言います。
「ちゃんとした聖水です。」
祖母は反論します。
祖父は呆れてモノも言えないという雰囲気です。
「おばあちゃん。オバケが見えなくなるならその水、飲むよ。」
「〇〇(僕)!やめなさい!」
「やだ!おじいちゃん。だってオバケが見えるんだもん!恐いんだもん!」
祖父も僕の切実な訴えには折れました。
「少しで良いからね。」
祖母はコップの水道水に一升瓶から少量の聖水を注いで薄めました。僕はコップに薄められた聖水に口を付けてグイッと飲もうとしました。
「そんなに飲んじゃダメ。」
祖母は僕のコップを掴んだ手を押さえました。
「え、」
「どう?」
祖母は僕に訊いてみました。
「この水、温い。」
僕は答えます。
母親は僕の言葉を聞いて冷蔵庫から氷を取り出してコップに入れました。
「全然、冷たく感じない。」
僕は水が期待していたほど冷たくは感じませんでした。
「じゃあ、もう少し聖水を足すね。」
祖母は先ほどより多めに聖水を注ぎました。
僕がその水をまた一口飲んだ時、とても冷たいものが喉に流れ込んできたように感じました。
「あ、すごい。薄荷キャンディを舐めた時みたいに冷たい。」
僕がもう一口飲もうとした時、祖母は水を取り上げてしまいました。
「お婆ちゃん、もっと飲みたいよ。」
「マーちゃん(僕)。もう十分よ。」
祖母はホッとした様子です。母親が水を流し台に捨ててコップを片付けようとしました。
「あ、この水は捨てません。コップはお婆ちゃんが片付けるから大丈夫よ。」
祖母の言葉に母親は「ホントにいいの?」という顔をしています。
ある夜のオバケ騒動3
『家の周りを百鬼夜行に取り囲まれる』
「マーちゃん(僕)。様子はどう?」
祖母は僕に訊きました。
「うん、ん、家の外にオバケが沢山いる!あ、あっちにもいる。こっちにもいる。沢山、家の周りを取り囲んでいる。どうしよう。」
僕は家の壁や天井が透けて外にいるオバケが見えるようになっていました。
「え?沢山いるの?何匹ぐらい見えるの?」
祖母は僕からの予想外の答えに驚きました。
「何匹なんて、、数えきれないよ。百匹ぐらいはいるよ。」
僕は顔が強張っています。
「百匹?」
祖母は「わが家が百鬼夜行に取り囲まれている。まずい状況になっている」と思いました。
「お婆ちゃんが鬼の眼を開いて外の様子を調べるね。」
「またその与太話か?」祖父が口を挿みます。
「お父さん、集中するので邪魔しないで下さい。」
祖母は苛立っていた。祖母は集中をして眉間で印を組み探るように周りを見渡します。
「あ、あら、大変!家が百鬼夜行に取り囲まれている!」
祖母は唖然としました。
「お婆ちゃん。お婆ちゃんは、オバケ退治は出来ないの?」
僕は不安そうに尋ねます。
「二匹や三匹だったらね。でも、これは、、、数が多すぎてお婆ちゃんでも退治しきれない。」
祖母は困惑しました。
「たとえ二、三匹でもやっつけたら?」
僕は祖母に言ってみました。
「ダメよ。近くの仲間がすぐに仕返しに来るから。その時にはお婆ちゃんにチカラは残ってないもの。」
祖母は相手の出方を警戒します。
ある夜のオバケ騒動4
『鬼の眼を開く』
祖母は風魔一族の頭領に自宅が百鬼夜行に取り囲まれていることを報告することにしました。祖母の「御頭首に相談してみる」という言葉に祖父がうんざりしながら言いました。
「いつものインチキ話か。もういい加減にしろ。」
この言葉が祖母の地雷になり感情があらわになります。
「インチキじゃありません!」
珍しく祖母は祖父に詰め寄ります。
祖父が制止するのを構わず印を結んで念じ始めました。祖母は嫁ぐ前は実家の神社の巫女さんでした。しかし、今を思い返せば不思議にも仏教系の真言密教の呪術を使おうとしていたのです。
祖母は風魔一族の頭領と超能力の一種で『テレパシー』による交信をはじめます。風魔の頭領は「祖母を普段のお務めを怠けて、自分が住む近隣を百鬼夜行の跋扈する穢れた土地にしているのであろう」と叱りつけます。
しかし、祖母は「そんなことはなく昨日まではこの土地に目立った穢れなどなかった」と反論しました。
とりあえず土地の穢れはさておき、まずは百鬼夜行をどうするか論点は移りました。百鬼夜行の邪鬼を退治できるほどの呪術師を数名集結させなくてはならない。遠隔で呪術を使うにも北海道は遠すぎてチカラが十分に届かない。急いで呪術師を派遣するにも当時の交通事情では数日を要してしまう。風魔一族の頭領が思案を巡らすが八方塞がりで困り果ててしまいました。そこで、頭領は風魔一族の守護神である不動明王に助けを求めました。風魔の頭領は普段からの修行が足りないからだとお叱りの言葉を受けます。
「ん?風魔の女の家が百鬼夜行に取り囲まれているから俺に助けてほしいだと?」
不動明王は風魔からの悪い報告に機嫌が悪い。
「風魔よ、お前らの眼は節穴か?そこに俺のデカい眼を持った術者がいるじゃねぇか?」
不動明王はニヤリと笑いました。
「はっ、ですが不動尊。〇〇(祖母)の鬼の眼はそれほど大きなものではありません。」
頭領は恐縮しながら不動明王に答えます。
「女じゃねぇよ。そこにいる風魔のガキだ。」
不動明王は鼻で笑います。
「あぁ、確かに大きな眼を持っています。しかし、その子はまだ幼いですし、修行もしたことはありません。」
頭領は動揺を隠せません。
「鬼の眼の大きさと心の純粋さはチカラを発揮するには十分だと思うが?」
不動明王の言葉に頭領は他に手がないと悟りました。
「くだらないことで、いちいち呼び出すな。」
そう言い残すと不動明王は去って行きました。僕が鬼の眼を開眼して百鬼夜行を追い払うことになりました。
「御頭首がね、マーちゃん(僕)も鬼の眼を使えるかもしれないって。」
祖母の顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいました。しかし、祖父は不愉快極まりないという顔でした。
「こども相手にいい加減な作り話をするのは、やめないか!」
祖父が語気を荒げます。
「マーちゃん(僕)。お不動様から鬼の眼をひとつ頂戴しているから、試しに一度、眼を開いてみようか。」
祖母は構わず話を進める。
「お婆ちゃん?マーちゃん(僕)はさっきからちゃんと眼を開けて見ているよ。」
「毘沙門天様の左右の眼じゃなくて眉間にある三つ目の眼だよ。」
「ミケンってどこにあるの?ここ?」
僕は人差し指で頭頂部を指しました。
「人差し指で頭を指さないで。左右の眉の間よ。」
「マユって、まゆ毛のこと?ここに眼があるの?」
「駄目!マーちゃん!お不動様の眼を指で突かないで!」
僕はびっくりしました。
「開いてごらん。」
祖母は優しく言いました。
「んー。」
僕は勝手がわかりませんでした。
「子どもに変な事をさせるな!お前(僕)もお婆ちゃんに付き合うんじゃない!」
僕と祖母の会話に祖父が割り込んできます。
「お父さん!今、とっても大事なところなんです。邪魔しないで下さい。」
僕は祖母が祖父に抗っているところを初めて見ました。
「もう、勝手にしろ!」
祖父はソファに座りなおして横を向きました。
「んー。」
僕はどうしていいかわからない。
「それじゃ、お婆ちゃんが眼を開くのを手伝ってあげる。」
祖母は印を結んで呪文を唱えた後で、僕の眉間に掌をかざします。
「お婆ちゃん。おでこがモワモワ、暖かいよ。手の温かさじゃない?手の温かさじゃないね。」
「そう、もっと暖かくなるように念じてごらん。」
「うん、やってみる。さっきよりジワジワが強くなった。」
「うまくできたね。今度はお外を眺めてごらん。」
ある夜のオバケ騒動5
『邪鬼がはっきり見える』
僕は辺りを見渡しました。先ほどより家の周りにいるオバケがはっきり見えます。隣家の境に植樹している木陰にいくつものオバケが見えます。
「あの木の下にオバケが居るね。」
僕は祖母に言います。
「確かに、大きな邪鬼が木の下に居るね。」
祖母にも見えるようです。
「ジャキってなあに?」
僕は言葉の意味が解かりません。
「邪鬼ってオバケのことよ。」
祖母は僕に教えます。
「あそこにいるオバケは大きくないよ。小さなのが幾つも重なって背が高くなっているだけだよ。」
「え、マーちゃん(僕)にはどう見えるの?」
僕の見えている映像は祖母とは違うと思いました。
「そうだね。ドラム缶の底ぐらいの大きさの丸い鉄板に目や口が付いていて顔みたいになっているのが居るよ。その丸い鉄板の周りにびっしりとライオンのたてがみの様な毛が付いていて、ふさふさとなびいている。色々な色のそいつらが五匹ぐらい縦に並んでトーテムポールみたいに立っている。」
「マーちゃん。トーテンポールって何?」
「トーテムポールってインディアンの村にある沢山の顔が付いている大きな木の柱だよ。テレビで見たよ。」
「お婆ちゃん。テレビを見ていなくて、ちょっとわからないから物知りの風魔の人に聞いてみるね。」
祖母は風魔の中にトーテムポールを知っている者はいないか尋ねて、実際の映像を送ってもらった。
「風魔の人の中に百科事典を持っている人がいてトーテムポールの写真を見せてもらったの。でも事典の写真が白黒だったから色までは分からなかったわ。」
僕の眼に入って見ている邪鬼を見せてもらえと風魔の頭領が祖母に助言した。
「御頭首がね、マーちゃんの眼を借りてオバケを見てごらんって言うの。ちょっとお婆ちゃんにマーちゃんの眼を貸してもらってもいいかい。」
「お婆ちゃんが、マーちゃんの目をくりぬくの?」
「そんなことしないよ。マーちゃんの眼の中にお婆ちゃんが入るの。」
「目の中にお婆ちゃんは大きすぎて入らないよ。」
「ふふふ、そういう忍者の術があるの。」
「お婆ちゃんって、忍者なの?」
「ふふふ、秘密。」
祖母は僕の視覚に侵入して邪鬼の姿を視た。
「あー。マーちゃんの眼にはこんなにはっきり見えているのね。すごいわ。」
風魔の頭領も祖母の視覚を通して僕の見えている邪鬼を確認した。
「その子の能力はたいしたものだな、しかしその邪鬼は異国の地では神と崇められているほどの強い邪鬼だ。祖母では敵わないな。やはりその子に邪鬼を祓わせよ。早九字を切らせろ。それなら子どもでもすぐにできる。」
ある夜のオバケ騒動6
『百鬼夜行を退治する』
「マーちゃん(僕)。マーちゃんがオバケを追い払うよ。」
「ねぇ、お婆ちゃん。マーちゃんがオバケをやっつけれるの?」
「御頭首がマーちゃんに九字を切らせろって。」
「切るって刀とかで切るの?」
「刀で切ったってオバケなんかには効かないよ。刀や槍なんかよりも強力な呪いがあるんだから。」
「呪いが、刀よりも強い武器なの?」
「そうよ、今だけそれを御頭首がマーちゃんに使わせてもいいって。」
「それが、オバケに効くの?」
「そう、まずジャンケンのチョキを作って。しっかり握って、人差し指と中指さんをくっつけて忍者みたいに印を組んで。あ、両手は組まなくていいのよ。そう、二本の指はピーンと伸ばして。その次はオバケに向かって×を描いて。そう、次に×が重なったところを二本の指で、エイって、切って。あ、指は開かないで。チョキのハサミでチョキチョキするんじゃなくって、二本の指を刀みたいにして切りつけて。もう一回、最初からやってみて。そう!」
今まで僕はオバケに怯えていたが、早九字という呪術の武器を持ったことで仕返しができるとわかったのです。これまでいじめられてきた恨みを込めて思いっきり九字を切った。目の前のオバケに向かってひとつずつ片っ端から×を描いて剣印で切りつけていきました。
「マーちゃん!もういい!もういい!もう十分、十分。」
ある夜のオバケ騒動7
『近くにいた鬼にも攻撃をする』
「あ、お婆ちゃん!あそこに鬼が四匹もいる!えい!」
「ダメ!鬼はやめなさい!」
祖母は慌てて僕の額を両手で押さえた。オバケや鬼は僕の眼には見えなくなった。
「どうして?お婆ちゃん。悪い鬼がいたんだよ。」
「あそこにいたのは悪い鬼じゃないのよ。」
「悪くない鬼がいるって言うの?」
「そうよ、神様の家来の鬼は悪い鬼じゃないのよ。」
祖母の話では神様とは不動明王のことらしい。鬼には不動明王の家来として仕える鬼と悪霊と徒党を組んで悪さをする鬼がいるのだそうです。不動明王は改心した鬼の大将でもあるらしい。不動明王は大日如来の配下の神様の中で最も危険な仕事をしている神らしい。不動明王は風魔一族の守護神なので家来の鬼は風魔を守ってくれる鬼神らしい。僕は不動明王の家来の鬼に九字を切って攻撃してしまいました。祖母はすぐ不動明王に謝ることにしました。そこには風魔の頭領も同席しました。
現在で言えば、緊急のリモートミーティングが開催されることになったのです。
ある夜のオバケ騒動8
『不動明王が激怒する』
「あー、どうしよう。お不動様に痛い思いをさせてしまったわ。」
不動明王は体の色と同じ赤鬼に手ひどい傷をつけられて怒っていました。赤鬼は体を赤くすることで不動明王のチカラを強く発揮できるが体を傷つけると不動明王にも激痛が走ります。そのような訳で有能で行儀が良い鬼だけが赤鬼になれるのだそうです。しかも、僕は赤鬼の角に水晶を叩き込んでしまいました。九字を切ると鬼の眼のチカラで指から霊的な水晶の欠片が飛び出してくるのです。その水晶が当たり、鬼の急所である角に亀裂が入って赤鬼は絶命してしまいました。
祖母が僕に不動明王との会議の様子をしてくれました。祖母の話によると、僕が傷つけた鬼は赤鬼が2匹と青鬼が2匹を合わせて4匹の鬼でした。僕が九字で切りつけた事により鬼はズタズタに傷ついて不動明王の元に逃げ帰ったのだそうです。
赤鬼の1匹は生還できませんでした。家来の鬼が人間の子供に負けて帰ってきたことに腹を立てた不動明王は「人間のガキにやられて帰ってくるような弱い奴は俺の家来じゃねぇ!」と怒鳴りつけて、残りの3匹の首をはねてしまったそうです。
僕がその話を聞いた時、不動明王はなんて残酷で恐い神様なのだろうと思ったことを覚えています。
次に、どこのガキにやられたのかという話になったそうです。その時に風魔一族の頭領から祖母の孫である僕が風魔と鬼の関係を分からずに鬼を攻撃してしまったと連絡が入って騒ぎがさらに大きくなったそうです。
「なんで、風魔がオレの家来の鬼に九字を切って攻撃するんだ?」
「さっきの風魔の草の女の孫のガキじゃねぇか!」
「あの風魔の女は孫に何も教えてなかったのか?」
風魔の頭領は守護神である不動明王の怒りを収めるために必死で弁護をする。
「申し訳ございません。まだ幼い子供です。何も知りません。」
不動明王は厳しい判断を下さなければならないと思った。
「女もガキも、罰を下さなければならないだろう。」
「どちらもオレの配下で身内同士である。身内同士での喧嘩はご法度である。子供のしたこととはいえ、この件を不問に付すのは他に示しがつかなくなる。」
不動明王は悩んだそうです。
「なぜ、あの鬼どもはあそこにいたんだ?仕事をサボっていたのか?」
不動明王の家来である幹部の鬼が報告をします。
「そのようなことはありません。人間の子供の中から悪霊退治に有望な子を探し出すために、夜中に邪鬼をけしかけて様子を見ていました。たいていは子供が泣き出すばかりでしたので任務中であるにもかかわらず油断が生じていたのかもしれません。ただ今回は邪鬼と鬼の区別がつかない風魔の子(僕)が九字切りで突然反撃をし始めた為に不意を突かれたと思われます。」
不動明王の表情はイラついている。
「子供が相手の任務だと思って油断したか!バカモン!」
「風魔の子に関してだが、風魔の小太郎の弁護にもあるが、まだ幼い子である。そこで、今は罰を下さない。今後の任務と働きによって決める。このガキの任務は風魔に決めさせる。女とガキの処分は任せた。」
風魔一族の頭領である小太郎に不動明王から祖母と僕の今後の処遇を任されることになりました。
ある夜のオバケ騒動9
『「三船殉難事件」の任務に僕の参加が決まる』
僕の任務を決めるのに大きな鬼の眼を持っていることはとても大事な事でした。僕が大きな鬼の眼を持っているので不動明王は一緒に悪霊退治をしようじゃないかと誘ってきていました。ですが、僕はオバケが怖いから嫌だとずっと断っていました。
(つづく)