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山羊に喰わす紙はない①海苔と紙の異方性

 これから「山羊に喰わす紙はない」というタイトルで、紙・特殊紙・不織布などに関する小話を、時々書いてみたいと思います。皆様よろしく。

 第一回として、海苔と紙の共通点を。
 どちらも繊維に方向性があるようですね。
 海苔をおニギリ作る為に裂こうとすると、乾かす簀(スノコ)の、太い経糸の模様と直交する方向に裂け易い。簀の細長い竹とか茅、のスキ間の方向に繊維が沿ってくるようです。
 海苔は和紙とは違って、別にスノコで抄いてる訳じゃないですが。溜め漉きでも流し漉きでも無く、ただ押し広げて干しているとは思いますが。

 紙では繊維に沿う、抄紙機の流れ方向、縦方向をMD(machine direction)、直交する横方向をCDと呼びます。後者のCはcrossです。(筑波大学の江前先生の論文をネットで確かめたから間違いナイ)
 縦横方向の強度差はあまり無いほうが良いのですが、抄紙の原理的に差が出る事は避け難い。むしろ、この性質を生かす方向に加工する事が多いです。本だと通常は天地の方向に紙の目を合わせる。トイレットペーパーは縦方向に巻いてあるから、薄くてもちぎれない。逆に横方向には、ミシン目入れても綺麗には千切れないですね。
 アタクシの紙電車ペーパークラフトや、紙製鉄道模型も同様で、気を使います。通常は車体の長手方向に合わせますが、鉄道模型だと内張りは天地方向にして、組み合わせる事で経時劣化による反りを防ぐ人も居るようです。

 こうした異方性は、樹脂フィルムや繊維にもあって。面白い事に、引っ張った方向に分子や組織が並んで強度が高まる。ラーメンスープの小袋に「この方向に切れます」とか書いてあるのは、一軸延伸フィルムの延伸方向に沿って裂けるようにしてあるようです。
 繊維産業の場合は「延伸」で強度が出せるから、糸にする「紡糸」という工程が非常に重視される訳です。紙だけボンヤリ追っかけていた昔の私は、その「紡糸」の意味するところがよく分かっていなかった。…だからカーボンファイバーの開発で、糸にすることに技術者が拘ったのは何故か、理解したのは結構後になってからでした。(汗)

 ちなみに食パンは、発酵発泡する時に縦に組織・繊維が並ぶので、縦に裂けばキレイに裂けます。親子や友達と食パンを分け合う時には、ぜひお試しあれ。

初出 2023年10月 大村浩一Facebook
加筆 2024年9月23日

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