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【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.26

 一冊をのぞいて、二度と見ることはないと思い、未完成の手書き原稿といっしょに掲載雑誌を段ボール箱につめ、物入れにしまいこんでいました。
 三六年ぶりに、この雑誌を手にしたとき、さまざまな思い出がよみがえりました。
 もっとも、気に入った挿し絵だったからです。大竹明輝氏は拙い私の小説をはじめて誉めてくださった挿し絵画家サンでした。お目にかかったことはありませんし、担当の編集者サンから先生のお言葉を伝え聞いたにすぎません。ご本人はすっかりお忘れだと思います。七年間で一〇作が掲載されたのですが、満足のいく作品は皆無でした。

 神戸弁を書くと、「言葉が汚い」と言われ、エロい場面を書くと、担当の編者者サンから、「こんなことは、書かないでください」と言われる。もう、なんていうか、ワケがワカラン状態でした。女が出てこん小説を書くしかないと思って書いた短篇小説でした。

 地方の雑誌に応募し、受賞した小説が、ハッピーエンドのラブロマンス?だと誤解されたせいだと思います。自分では恋愛小説を書いているつもりは毛頭なかったのですが、編集者サンの目にはそんなふうに映ったのやもしれません。
 女性の繊細な心模様を理解できない少女は、自分を少年のような存在だと思って育つのではないか。だから、花嫁になりたいとも、自立した女性になりたいとも思わない。BL漫画やタカラヅカに熱中するのも、そのせいです。女性の中には、私のような気質の方も少なからずいると思っています。男女ではなく、大人の男性に可愛がられる少年として暮らすために結びつくのだと、いまなら説明できるのですが、当時は、小説用語がわからずどう話せばいいのかわかりませんでした。

 授賞式にお越しくださった難波利三先生から、「ジノブンが、冗舌すぎる」と言っていただいても、「ジノブン」がどんな字を書くのかもわからず、頭の中で、「字の分」と変換したほどのモノ知らずだったのです。

 何がなんだか、わからないうちに、「タカラヅカファンの女の子」の設定で、三人称で書くように言われても、三人称と一人称がどう違うのかもわからない。なんとか書き上げて、送ると、編集長が神戸までやって来られて、「あなた、小説がわかっていないでしょ? 視点がなっていない。いるんですよ、一作だけのヒトが」。

 このとき、めまいがしました。心の中で、「しらんがな!」と泣き叫んでいました。後年、若い子たちには、えらそうなことを言っていましたが、会話と地の文の違いや、一人称や三人称の違いなど、何も知らないを通り越し、未知との遭遇だったのです。小説は読むもので、書くものだと一度も思ったことがなかったからです。

 その受賞作ですら、東京に住む友人に読んでもらうと、「友達にも見せたんだけれど、関西弁がねぇ、読みづらいみたい……それに主人公の女の子の性格がねぇ……」と評判はよくありませんでした。
 そりゃあ、そうでしょうよ。子供の頃は、「あんな女おらんデ」と男子に陰口をきかれ、親族からは「イバラのお恵」と言われ、長じてからは、「女やない!」と女性に怒鳴られる性格なんですから――。

 一作目を掲載していただくのに、一年半かかってしまいました。どうして前作がボツで、次作が掲載になるのか、その違いもわからない。
 当時は手書きの原稿だったので、私が無駄にした資源は膨大な量だったと思います。
 いま、パソコンがわからないどころの、「わからなさ」ではありませんでした。男女の恋愛小説などどだい、無理な話だったのです。

 いま「ぺてん」を読み返すと、前半で結末のわかるしょうもない小説ですが、挿し絵の先生が誉めてくださったと聞き、「コーベ・イン・ブルー」の元原稿を書くことができました。

 noteにこうして掲載することが、許されると思っていませんが、先生の作品をどうしても、みなさんに見ていただきかったのです。先生のご許可を得るために、娘に、グーグルで、お名前を検索してもらっても、わかりませんでした。

 この挿し絵のすごいところは、小説の最初に登場するぺてん師のキャラクターが見事に表現されているところだと、私は思っています。
 私はイヌ、ネコ、ハトなど動物以外の、カワイイものやきれいなものが好みではありません。陰欝な小説や詩、翳りのある絵が好きなのです。先生の絵は、私の心を表しているように思えました。

 小説は前半の出だしをのぞいて、自分好みの小説に書き替えました。万が一、お読みになられたら失望されるやもしれません。男性三人の他に、女の子であっても、女の子だと思いたくない少女が登場しているからです。

 大竹先生、大昔のことですが、希望をくださって、ありがとうございましたとお伝えしたい。そのときの、先生の何気ないお言葉があったから、こうしてもう一度、書きたいように書くことができるのだと思っています。いまでは、私にとって、サイコーにたのしい趣味となりました。


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