![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/166258804/rectangle_large_type_2_86ed672842a102c7d2b0a7a728f56979.jpeg?width=1200)
【エッセイ】蛙鳴雀躁 No.49〈タカラヅカ〉
12月17日午後13時公演観劇。
ちなつちゃん(鳳月杏様)、トップお披露目公演、おめでとうございます。相手役のジュリちゃん(天紫珠李様)も精進して待ったかいがあったね。
「コールデン・リバティ」作/演出 大野拓史
西部劇をタカラヅカで――なんでやねんと幕が開くまで、頭の中を疑問符が駆け巡る。汽車が、回り舞台で登場するなど、舞台装置も凝っていて、ストーリーが進むにつれて、登場人物の多さも次第に気にならなくなる。
時代は19世紀後半、自由の女神がフランスからアメリカに送られた1886年。太平洋に浮かぶ架空の小島の王妃が、アメリカの悪徳商人に追われ西部を逃げまわるが、ガンマンのイケメンと出会い、助けられる。すったもんだの末に、女王は、島民に自由=選挙権が与えられることを条件に自ら退位することを決める。で、島はめでたくアメリカ合衆国に併合されることに。
つっこみどころ満載のストーリーである。ハワイを思わせる設定になっているが、ハワイ王国が倒され、女王が王位を剥脱されたのは1893年。アメリカに併合されたのが1898年。植民地になったことで自由になったとは思えない。自由の女神の除幕式には、フランス大使が招待されている場面もある。タヒチもニューカレドニア島も、いまもフランスの植民地である。
タイトルの「コールデン・リバティ」は「黄金の自由」。
演出家の大野先生はまさか、これをよしとされているとは思わないけれど、修学旅行の学生が大勢、観劇していた。誤解しないだろうか。アメリカやフランスが太平洋の島々に自由をもたらしたのだと。物語の骨子はそこにはないとわかっていても、その一点だけが最後まで気にかかった。
無法者のガンマンを演じたちなつちゃん、保安官役のおだちんくん(風間柚乃様)。ハットにロングコートもよく似合い、銃を撃つ場面はサマになっていた。お笑い担当の彩海せらくん、礼華はるくんも個性の違いを見せていたし、エプロンステージで彩みちるちゃんとの三人で歌う場面は圧巻だった。
終幕近くで歌われる「自由」というタイトルの歌詞。「遠く続く線路 憧れた いつかここから旅立つのだと けれど薄々気づいていた 冒険はすでにし尽くされた フロンティアは残っていない」
鉄道がアメリカ全土に敷かれ、法が施行され、銃を振り回す時代は終わったというように聞こえる。歌詞の最後は、「見つけよう 自分だけの見知らぬ日々を フロンティアを」となっている。
もはや、自らの内側にしか、フロンティアは残されていないのか……。
「フェニックス・ライジング」作/演出 野口幸作
ちなつちゃんを下級生の頃から見てきた。口数が少なく、穏やかで大人しいという印象が強かった。脇役を数多くこなし、そのどれも水準以上だったけれど、ちなつちゃんがトップスターになると一度も思ったことがない。人を押し退けて、前に出るタイプではなかったからだ。なんども後輩に先を越されたが、めげることはなかった。静かに微笑む表情の奥に強い信念が隠されていたのだろう。
このショーを見て、驚いた。こんなにも歌えたのか、踊れたのかと。能ある鷹は爪かくすという諺のままだった。そして、何より、組子の一体感が素晴らしい。チームワークが明らかに他組よりいい!!
ちなつちゃんを中心にして、トップを支えようとする組子の熱い想いが歌にもダンスにも如実に表れていた。
ここにたどりつくのに時間がかかったぶん、ちなつちゃんは、幸福の一瞬一瞬を生きることができているのだと思う。
ショーのタイトル通り、あなたは、なんどでも甦る不死鳥だった。
![](https://assets.st-note.com/img/1734524742-koj5zqX64VaA7itQ2IRebSGH.jpg?width=1200)