#毎週ショートショートnote「この中にお殿さまはいらっしゃいますかー」「はい、僕です」
「おとのさまー」銀行の窓口から僕を呼ぶ声がする。僕は「チッ」と舌打ちをしてゆるゆると立ち上がりかけた。すると今度は女子行員「こちらの中にお殿さまはいらっしゃいますかー」とソプラノ歌手のような声で僕を呼んだ。周りの好奇の目が刺さる、いつものことだ。僕は虚ろな目で女子行員の前に立った。心の声が叫んでいる『俺はお殿ではなく、音野なんだよ!最初の「お」はフォルテf大きく「との」はだんだん小さくデクレッシェンドなんだよ!なんで「お殿様~」ってピアノpからクレッシェンドでフォルテfはいってんじゃないよ!おまけにビブラートまで効かせてくれて、ハイハイ俺はお殿様なんかじゃありません、しがないサラリーマンでおまけに自動車税払い忘れて督促状付きの請求書払ってます。それがなにか いけませんかねぇ』
一人で毒づいていると 後からまた甲高い女子行員の声がした
「この中に 音戸 姫様いらっしゃいますかー」
「えっ、」
おわり