#シロクマ文芸部[風鈴と](風鈴とレモンとお父さん)
風鈴とレモンと父さんのこと
レモンとは藤田家の飼い犬の名前 我が家に来る前は 息子のマンションで飼われていた。
息子が彼女と同棲中に飼い始め 生まれて三ヶ月位の雌のトイプードルだった。
犬好きの彼女のため無理して飼っていたのか いざ別れてしまえば レモンがお荷物になっていた。
「かあさん レモン家に引き取ってくれない」
息子は引き取ってくれないと 公園に捨て置くとまで言った 私は身震いした こんな可愛い子犬を棄てる! 『なんてこと言うの そう言えば必ず引き取ると分かって言ったな!この知能犯め!』と声にならない声で叫んだ。
私は困り顔で「お父さんがなんて言うかしらね」と答えたが 一直線で掛けより私に甘えてくる子犬に 私は既に心を射貫かれていた。
あれから十年、レモンは我が家になくてはならない存在になっている。
最初は飼うことに渋い顔をしていた主人が 誰よりもメロメロで毎日の散歩、餌やりを率先してやった。
帰宅の度に猛ダッシュでかけより
二本足で立ち、抱っこをせがむ
抱くと体を震わせてクゥークゥーないて喜ぶからたまらない。
今年の夏 レモンを車に乗せて有田までドライブした先で 陶器で出来た風鈴を見つけた。手書きの絵柄が愛らしく 涼やかな音が気に入り 家の軒先に吊した。主人とレモンは風鈴の下がる縁側で過ごすことが多くなった。チリン チリンと鳴る音を聞きながら レモンの毛繕いや爪切り 大好物のスイカを二人で食べたりしていた。
ところが 二週間前のこと 主人が胸の痛みを覚え
かかりつけ医院に行ったのち 緊急入院となった。入院準備に忙しく私はレモンに構ってやれなかった 散歩も一日おきになるし 餌もなおざりになっていた。主人のいない縁側で 寝そべり 時折首をもたげて窓の外をうかがい 少しの物音に反応して 縁側のカーテンを覗くまた引き返すを繰り返していた。心なしか風鈴の音も寂しげに聞こえた。
犬と暮らして分かったことは
体内時計があるのか 時間に正確だ
寝坊すると起こしに来るし 散歩前に雨か晴れかを自ら確認して 晴れならば行こうと誘ってくる(正確には吠える)時にからかって羽交い締めしてやると 放たれた後にブルブルと体を揺らし 決まって鼻をおもいっきり
フン!とならす
「あっ 今怒ったでしょ!可愛い!またしてやろうかなぁ」
私達老夫婦にはレモンはなくてはならない笑いと癒しの存在だ。そんなことをぼんやり考えていると 突然レモンが激しく吠えて 縁側の窓の方に走り寄った。あまりにも吠えるので カーテン越しに外を見ても 誰もいない
「レモンそんなに吠えないでよ 誰も居ないよ」
ところがである 数分後主人がタクシーから降りて玄関を開けた。レモンは
随分遠くからでも気配を感じられるのである。
「あら!退院は明日じゃなかったの?」
「担当医が安静にしてたら家でも良いよって言ったから 今日帰りたいって言ったら
あっさり許可が出たんだ」
会話を遮りレモンが主人に飛びついた
体全体をくねらせて最大限の愛情を注いだ
「レモン心配してたもんね きっと人間以上にあなたに一途なのよね」
これは私以上ということ
また変わらない日常が始まった
レモンは大きくため息をつき主人のそばから離れようとしない
お互いに 老境の身 レモンも片目はすでに白内障だし口のまわりも白くなっている
主人もいつまでも変わらずに居てくれるとは限らない
縁側で寄り添う二人 失礼一匹
後もう少し 元気でいてね
吹く風も心なしか 秋の気配を感じる
軒下の風鈴も遠慮がちに
チリリンと鳴った
おわり
これは ノンフィクション半分フィクション半分 のお話し 軽く受け止めて下さいね😌 読んでくださりありがとうございます。💗
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