#シロクマ文芸部 花火と手 お盆に思う
花火と 手にマッチを持ち 子ども達が残していった 線香花火を雄大(夫)と私は 手で風を遮りながらマッチを擦った。 マッチを擦るのも久しぶりで何本も無駄にしやっと花火に火がついた。二人は並んで しゃがみ込み線香花火を見詰めていた。子ども達は5連発花火とかドラゴンとか派手に噴き上がる花火に歓声を上げていたが 線香花火は地味なのかいつも残る。
「線香花火って しみじみしちゃうわね」私が言うと 雄大は 不思議そうに私を見た。
「菊のような光を放ち やがてそれもつき火の粒となって 真っ赤なまま ポトリと落ちる まるで人が亡くなる瞬間のようだわ」雄大は益々分からないと言った顔をした。
「人間の魂は生きているときは縦横無尽に飛び交い、 宇宙の果てや海の底まで意識を飛ばせる事が出来るわ でも
死ぬ直前その人の魂は こんな風に火の玉となってポトリと落ちるんじゃないかと思うの」
「随分 哲学的なこと考えるんだね」雄大は呆れている、にもかかわらず
私は日頃思っていることを口にした
「地球は引力があるから下へものが落ちるけど 魂は宇宙のブラックホールに吸い込まれるんじやないのかしら」
「ブラックホールに吸い込まれた魂は何処にいっちゃうんだろうね」雄大は言った。
「ブラックホールの先は 無よ 何もない世界 時間もない 光もない意識もない そんなところよ」
私はちょと小馬鹿にして見る雄大を無視してしゃべり始めた
「万物は 無の世界があるから生きられる つまり生と死は いつも隣り合わせ 表裏一体ってことなの 生きるイコール光 死イコール陰 光と陰
いつもいしょでしょ」
私はにっこりして見せた
「お前の考えは飛躍し過ぎだよ 先人が考え抜いても結論がでない事を平気で飛び越えちゃうんだから」
雄大は窘めた
「お盆だからかな 亡くなった人と向き合える時だから余計に思うのよね
その人の人生丸っと 火の玉にしてやがてポトリと落ちる それが死なんてね」
「ハイハイ 我が家の哲学者さん線香花火もなくなりました 片づけますか」
「そうね また来年の夏にね」
「もう子ども達 花火よりゲームがいいって花火しないんじゃない」
雄大は私の方を見て
「その時は二人で線香花火しながら
哲学者さんのお話しでも聴くとするか」私は 吹き出しそうになりながら
「やだぁー 馬鹿にしてるぅー」
二人で笑い合っていると
子ども達も玄関前に出てきて
「何笑ってんの?」
私は 二人の子どもの肩を叩きながら
「パパがね ママのこと馬鹿にするのよ」
「パパー 駄目だよ ママいじめたら」
子ども達は雄大におぶさった
「オイオイ お前ら重くなったなぁー」三人は
なだれ込むように家に入っていった。
幸せってこんなこと 何げない日々の積み重ね やがて来る死に向かおうとも怖れないでいよう
私は 精一杯 今を生きてみようと思った
終わり