見出し画像

ぼくの青 

うまれてすぐに母馬を亡くした子馬と少年の物語

登場人物
あきら(晶)小学三年から4年生
父(勇一)
母(道子)
お爺ちゃん(おじい)
町の獣医
雌馬(花子)
子馬のちの(青)
冬の寒さがひたひたと迫り来るある夜

あきらは 薄明かりにふと目をさましました。何だかいつもと様子が違うと 感じていました。
道子は 台所のほの暗い電灯の下で繕い物をしています。あきらは不安になり
(おかぁ お父うとじっちゃん まだ帰ってこんと)
道子は あきらの方に顔を向けて(あきら 起きたのかい おじいと お父うは花子のお産に つきそっとるとよ)
(なんだか 今度は難産になるらしい 花子も高齢やけん 時間のかかるとよ)柱時計を見上げれば もう少しで日が変わろうとしていました。
あきらは 花子のお産が無事に終わる様に布団の中でいのりました。
(どうか花子に丈夫な子馬が生まれますように)
あきらはまたウトウトと眠ってしまいました。
次の朝 あきらは 起きて直ぐに花子のいる馬屋にかけて行きました。
おじいとお父うは、一晩中寝ずに花子に付き添っていました。何だか二人ともひどく疲れているように見えました。
(あきら 母さんの所に行ってきてこうゆうてくれんね 町の獣医ば電話して呼んでくれんね 花子のお産がながびいとるて)
急いであきらは家に戻りました。
(おかぁ お父うが 急いで町の獣医さん呼んでくれって)
あきらはどうすることも出来ません。
ただ花子の無事を祈るだけです。
花子は荒い息を吐きながら必死で頑張っています。あきらは 心の中で叫びました。
(花子がんばれ もう少しや花子)
その時獣医が駆けつけて来ました。獣医は花子を見るなり (いかん 子馬が危ない 今すぐ 切開だ)獣医は、素早く手術の準備に取りかかりました。
しばらくして子馬が姿を見せました。  
(子馬は大丈夫だ 花子の乳ば 含ませろ)子馬はなんとか花子の乳を飲むことが出来ました。
(飲んだぞ これで子馬は生きられる)でも 花子は...見れば花子は 息もだんだん弱くなり 力つきようとしています。花子は横たわったままピクリと体を起こし子馬を見ようとしますが頭ががくりと下がりました。花子の目には 泪が光っています。獣医も手を尽くしましたがもうだめだと 合図を送りました。
あきらは空に向かって一生懸命祈りました。(花子 死なないで 子馬は元気だよ)

花子の出産から数日過ぎました。
生まれて直ぐに母馬を亡くした子馬は近所で出産した雌馬の乳をもらってすくすく育っています。もう自分で立って歩くことも出来ます。あきらも学校から帰ると 直ぐに馬屋に向かい 子馬のそばで過ごします。学校であったこと 歌 おとぎ話まるで兄弟のように
夕暮れまで馬屋で過ごしました。
勇一はそんなあきらを見て こう言いました。
(あきら あの子馬に 名前ば付けてくれんね)
(えっ ぼくが名前を付けてもよかと)
勇一はこくりと首をかしげました。
あきらはじっと立ったまま考えていました。そして突然空を見上げてさけびました。
(そうだ! 青がいい 青)
あの日 花子がお産をした日 一生懸命祈ったあの日 空が透きとおるほど

青かったことを
(青ぉー)あきらは嬉しそうに馬屋へかけてゆきました。
あきらが(青ー)と呼ぶと子馬は耳を少しピンと立てたように見えました。厳しかった冬が過ぎ 山や川音が春を感じられるようになりました。

あきらは4年生になりました。
相変わらず学校から帰ると馬屋に向かい 青と一緒にいます。近頃は青を伴って近くの草場にも出かけます。草を食べながら 春の陽射しの中 あきらは青に色々な話しをします。青はまるであきらの話がわかるのか耳をかたむけてきいています。
(青 今日は探検に行くよ あの丘の先に何があるかみてみたいんだ いいかなぁ )
青は不思議そうな目をしましたが あきらを始めて馬の背に乗せることを拒みませんでした。
あきらは青の背にまたがり首に手を回し しがみ付いた格好で ゆっくりと草の中を歩き始めました。
しばらく行くと あきらはものたりなくなって お父うのまねをして 青の横腹を足で ハッ!といい 勢いよく蹴りました。
ところが青はびっくりして思わず前足を高く上げて走り出してしまいました。あきらは必死で青の首にしがみついていましたが あっとゆうまに振り落とされてしまいました。


そして坂の下に転がり落ちてしまいました。あきらは痛みで動けませんでした。足首を捻挫してしていたのです。
あきらは坂の下で横たわったままです。青は気がついたのか あきらのもとへかけよってきました。そしてあきらに鼻を近づけて離れようとしませんでした。
あたりは日が陰ろうとしています。
あきらは痛みと疲れで何度も眠りかけてしまいます。
春といっても夕方近くになると冬のままです。気温も下がって来ました。青はあきらのそばで体を温めておりましたが スッと立ち上がり あきらの家の方へ かけてゆきました。
家の方では おじいも勇一も 道子も心配して家の周りを探しています。
(青だ!青が帰ってきたぞ!)
青はもと来た道にクルリと向きを変えてこちらへ来いと言わんばかりです。
(おじい 青があきらの居場所教えとるよ)おじいと勇一は急いで青の後を追いました。坂の下まで行くと あきらは疲れたのか 眠りかけておりました。青も 心配そうに見つめております。

あきらは揺り起こされて目を開けると
そこには おじいと勇一の顔が自分の顔に覆いかぶさるように覗いています。
(お父う)思わず涙が溢れそうになりましたが 泣きませんでした。
お父うに叱られると思ったからです。
でも おじいも勇一もしかりませんでした。
帰り道 あきらは安心したのかまた勇一の背中で寝てしまいました。
(なぁ勇一よ お前も小さか時こげんこつあったよな 遠くまで馬ば連れ出して帰れんこと)
(あぁ 覚えとるよ あん時 おとうに思い切りゲンコツかまされた 痛かったことだけ覚えちょる)
二人は目を見合わせて 笑いながら家へと帰って行きました。
明くる日 あきらは目を覚ますと真っ先に (青は?)とたずねました。道子は振り返り(青 偉かったよぉ あきらの居る場所へお父さん達連れて行ったとよ)
それを聞いたあきらは始めて声を上げて泣きました。
(青ぉー ぼくの青)
あきらは足の痛いのも忘れて青のいる馬屋に向かいました。
それからとゆうもの ますますあきらは青を可愛がりました。
まるで本物の兄弟のように
春のキラキラ光る陽射しの中あきらと青が草場で遊んでいます。
それを見ていたおじいが(なあ 勇一よ
来年はあきらに馬の乗り方教えてやらんね)
(そうだなぁ 青に手綱ばつけてみるか)
二人は眩しそうに いつまでも見ております。それに気づいたあきらは
二人に向かって大きく手を振りました。
(おとう ぼくに青を会わせてくれてありがとう)
春から夏へと季節は移ろうとしています。あきらもまたひとつ大きく成りました。

終わり

お読み頂きありがとう御座いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?