20年代半ばの入試の最適解に悶々とする
ある付き合いの長いお母様と久しぶりに進路の話で長い時間話し合った。私のnoteを参考にした部分もあるらしく、さらにこちらで書いてもらって構わないと仰られていた。お言葉に甘えて掲載させてもらおうと思う。
彼女のお子様は大学1年生、中学2年生、小学5年生である。上の子は当初進学校から国公立大学を狙っていたが届かず、地元の私大に進学している。英語をとても頑張っていて長期の留学を控えている。お母様はご長男の大学が決まった時に「色々と無駄なことにエネルギーを使ってしまったな」と感じたらしい。彼は能力は高いものの不器用な所が多く中学時の内申は3と4が半分ずつ混じるような成績であった。さらに得意な教科と苦手な教科がハッキリしているタイプだった。それでも「高校でしっかり頑張れば国公立に届く」という信念を持たれていた。旦那様が似たような成績から国公立大に進まれているのもその思いを強くしたそうだ。したがって中学時は塾のテスト対策や講習にも積極的に参加し、更に高校でも特別授業や補習にもきちんと参加させてベストを尽くしてきた。大学進学に向けて模範的に過ごしてきたと言える。
しかし高2の終わりくらいに「国公立は非常に厳しい」と知ることになる。それでも部活を高3の5月まで頑張り、その上で夏までは国公立に向けて幅広く勉強することを親子ともども選択した。しかし秋になってさすがに厳しいと方針転換して、一般入試を経て東海圏では名の通る私立大学に入学した。しかし入学してから子が同級生と接するにつれて腑に落ちない感情が込みあげてきたそうだ。簡単に言えば「自分の子ほど勉強してきた同級生がほとんどいない」という事実だ。推薦であったり総合型であったり新しくできた友人が高3の夏や年末年始に自由を謳歌していたことを目の当たりにしたらしい。入学時には既に免許を取得している子や、半年ほどのバイトで数十万円貯めている子も多かったそうだ。
これはお母様のネットワークでも似たような事例が多かったようで、大学入試を同時期に経験したママ友の中で、年が明けてもまだ一生懸命に勉強していたご家庭は2割くらいしかいなかったそうだ。しかもその2割は国公立大学に進学。つまりお母様は「東海圏の私大に進学するのであれば、もっと子どもや家族は自由に楽しい時間を過ごせば良かった」という思いに至ったらしい。
そして当時中1が終わろうとしていた次男に聞いてみたそうだ。「基本的に勉強をたくさんする中高の生活がいいか?それとも勉強やその他の活動や余暇をバランス良く過ごす生活がいいか?」そのときに次男は後者を選んだ。そしてこのご家庭は兄の時とは異なる方針を立てていくことを決めた。
実は次男は兄よりも1段階上の成績を修めている。内申点だけで考えると名古屋市内の進学校も十分射程圏内である。しかし勉強は「成績を保つことのできる最低限」にすることに決めた。まずはあるスポーツのクラブチームに新たに入会した。実はこの生徒、部活動でも同じ競技を行っている。しかし以前にも書いたように部活動は年々縮小され週に3,4回の活動になった。だからそこに週3のクラブチームを加えた形である。そして志望校の中にその競技が地域で最も強い私立高校を加えた。その高校のボーダーラインはオール2程度である。彼のような成績層で入学する子を聞いたことが無い。保護者としては「スポーツで芽が出たら推薦で大学に行けるかもしれませんし、成績がトップならそこの高校でも推薦は相当の大学があります。全く兄の視野に入らなかったMARCH等の可能性がありますから」とのことだった。
また同時に土日や長期休暇に不定期に活動している地域のボランティアサークルに入会したそう。こちらは中学生から大学生までで活動している団体で小学生やお年寄りに対してイベントやワークショップを行っている。お母様によると「異世代交流、総合型入試に向けた活動の一環」の説明であった。
その上で塾には週2のレギュラー授業は通うが、テスト対策や講習会のようなオプション講座は取らないことに決めたとのこと。まあ部活+クラブ+サークルでそれなりの時間が取られる事情もある。そんな生活に変えて半年余りが経った。
今の所、ご家庭の取り組みは上手く進んでいるように見える。まず部活では県大会で上位に進出して「東海大会まであと一歩」という所まで勝ち進んだ。お母様によると「中学の部活が縮小して競技全体のレベルが下がっているんです。正直同年齢で考えると兄の方が上手なんですよ。でもあの子の頃はレベルが高くて県に届きそうで届きませんでした」との分析である。次に定期テストでも上位1割を保っている。学校の提出ワークを一回りやるだけで特別な勉強は何もしていないらしい。しかもワークは直前3日で進めることを徹底しているそうだ。早く始めて忘れてしまうことを防ぐ意味合いとのことだった。それでも定期テストの順位は下がらない。「先生も書かれていましたが非常にレベルが低い中学なので助かっています。模試の偏差値は5くらい下がってしまいましたが、定期テストは8割の点数に届かなくても十分1割の順位に入ります」とのことであった。
ここは兄からも直接聞いている。「弟の学年ヤバいですよ。マジでレベルが低そう。弟の成績は良く見えますけど、テスト前日になってあいつ『たかちけん』って高知県のことを言っていたんですよ。そんな奴が「5」取ってくる中学ありますか?普通に平均点が40点くらいなんでマジビビります」とのことであった。
まあ多分、この次男君はスポーツを利用して私立高校に行くのか、成績を利用して中堅公立校に行くのかどちらかになりそうである。「兄の勉強時間の1/5」で大学入試まで乗り切ろうと考えているとのことだ。下の妹さんも上2人の様子を見て「2番目の兄ちゃんのように過ごしたい」と話しているとのことである。
話の途中で出てきた言葉が強烈だった。
「学力は幼少期に家庭で身につけ、成績は塾を利用して上げて、学校は社会生活と人間関係を身につけ、成績を発行してくれる評価機関と考えます」
「塾の授業は全集中で!」と「学校の話し合いはイニシアチブを取りながらも他の子の意見もしっかり聞いて」の2点は日々口を酸っぱくして話しているそうだ。「まあまあ賢い子に育ちましたし、塾のお陰で成績も保てています。また(学校のレベルが低いので)良い成績を発行してくれます。私たちにとっては最高の環境です」と笑顔で仰っていた。
私は「苦笑いになっちゃいますね」と返した。モヤモヤしたものを感じるがこのご家庭の思いも分かる。今の入試の構図を考えた時にここまで大胆な捉え方をする気持ちも分からなくないのだ。
愛知県内の尾張地域では郊外の「オール4」程度の学校の人気が下がっている。半田、西春、五条、横須賀、高蔵寺、、、厳しい学習指導をして「国公立大に進学」を目標としている高校だ。その要因が今日挙げたご家庭のようなケースなのだろう。
これは個人的にはやっぱり残念である。日本という国が先進国として数十年やってこれた礎はこの層によって支えられていた面があったからである。また私が歩いてきた道だからという側面もある。先日も書いたように氷河期世代真っ只中ながら同級生の多くが世代平均よりも家庭を築き、多くの子どもを成している。確かにコスパやタイパが悪く見えがちな層であるが、まあまあいい人生を歩んでいる友人が多いのだけれども。
皆がここに乗っかるとモラルハザードを起こして、いよいよこの国の国力が下がるなあ。。とか、個人の幸せと国家の幸せが正反対になっていて、その膿がどんどん溜まっていく状況はどうしようもないなあ。。とか深く考え込んでしまった。
しかしこの構造を推し進めたのは文科行政である。あまりに「性善説」で物ごとを考えてこなかったか、あまりに「できる人たちの論理」でルールを決めてこなかっただろうか、それらの重しがずっと心に引っかかっている。