見出し画像

現代の日本人は大谷翔平とどのように向き合えばよいのか

さてオオタニサンである。
日本人最速タイの165㎞の球を投げながら、日本人史上最高のバッターでもある。日本ハムでは日本一の置き土産を残しメジャーリーグへ。2回のMVPと2年連続のホームラン王、さらには今年は打点王のタイトルも。MLB初の10勝&40本塁打、50本塁打&50盗塁と規格外の3乗くらいの記録を残している。
昨年からは勝負強さも兼ね備え、WBCでは日本代表として攻撃に投手に大活躍。最後はトラウトを三振に取って優勝投手となった。今年は強豪チームのドジャースに移籍して1年目からワールドシリーズに出場(この記事執筆時点では3勝1敗)を決め世界一まであと一歩に迫っている。
プライベートでも元バスケットボール選手の真美子夫人と結婚し、飼い犬のデコピンはあまりに有名である。春先にずっと専属の通訳であった水原一平氏が大谷の金をギャンブルに使いこんでいるスキャンダルに見舞われたが、そんな逆風も跳ね返して野手としては選手人生最高の数字を残した。またワールドシリーズ第2戦では盗塁のスライディング時に亜脱臼のケガを負い、誰もが100%今季終了と思ったが、2日後の第3戦から何事もなかったかのように出場している。衣笠幸雄の鉄人オプションまで取得していたらしい。
昨年は全国の全ての小学校にグローブを3つずつ寄贈するという活動もあった。私の子どもたちも何度か実際にはめてキャッチボールを行ったことがあった。授業参観の時に私でさえ一瞬触っている。今年度になって中学の社会や保健体育でのテストの時事問題で大谷翔平関連が出題された確率は83%である。これだけ知名度や名声が一極集中で一人に集まる現象は43年の人生の中でも記憶にない。

学校現場においてもオオタニサンは人気である。ある先生が「私は子どもたちには大谷さんのような、いつでもひたむきで一生懸命で、それでいて誰からも愛される人になってほしい」と仰るのを聞いたことがある。この春の長男の卒業式の校長の祝辞もオオタニサンだった。あの高校時代に書いた81個に仕切られた目標シートの話であった。高等部の塾生の部活動でもこの目標シートは広く活用されている。余談ではあるが水原一平氏のスキャンダルが出たのは卒業式の2日後で「あれが当日朝だったら校長先生何しゃべったんだろ」と皆が話題にしたこともあったw

メジャーリーグは162試合ある。そしてドジャースはポストシーズンも戦っているので180試合くらいの公式戦がある。さらにキャンプやオフシーズンの動向なども含めるとオオタニサンは250日くらい何らかの脚光を浴びる活動をしている。これは他の競技のアスリートと比べると非常に多い。例えば私が現在の日本で大谷の次に評価しているアスリートはボクシングの井上尚弥であるが、彼の試合は多くても年間3試合。競技の特性もあるがメディアの前に出るのは30回くらいが限度であろう。
つまり大谷翔平は365日毎日何かニュースがある。したがって彼が情報番組やスポーツ報道に登場しない日はない。それに伴い昨年末くらいから「大谷ハラスメント」なる言葉も登場した。もうお腹いっぱいなのに連日連夜長時間にわたり大谷が報道されることへの嫌悪感を現した言葉である。野球ファンの私であっても大谷報道を避けるようになっているので、この現象はよく理解できる。例えば今シーズンでも「速報です。大谷選手の第二打席はセカンドゴロでした」と「大谷さんのアンダーシャツが長袖に変わった」のニュースには仰天した。さすがに食傷気味に感じる人がいるのは分かる。

だが私はこの部分をさして問題だと感じていない。こちらがメディアを避ければそれなりに対処できるからである。しかし違う面での「大谷ハラスメント」を問題視している。それは「他人や子どもに大谷翔平張りの完璧さを求めること」である。

昨年のWBCくらいからであろうか。プロ野球関連のニュースにおいてのヤフコメに一つの傾向が見られるようになった(ヤフコメなんて見るもんじゃねぇ!という意見は脇に置く)。不調の選手、ちょっとした故障をした選手、街で遊ぶ様子を撮られた選手、SNSに興ずる選手、それらの選手のニュースのコメントに必ず「大谷さんを見習え」「大谷さんだったらもっとストイックに」とするコメントを見るようになった。以降1年半カウントしているが420/540くらいの確率でトップ10のコメントに「大谷を見習え」の内容のコメントがあった。
さらにそれは他競技の選手のニュースにも広がった。驚くべきは岸田総理の動向のニュースにもあった。「大谷さんだったらもっと真摯に仕事と向き合う」「大谷さんのように365日24時間努力すべきだ」と。

ここで不思議なのはこれだけブラック企業に対しての見方が厳しくなった現代において、大谷フィルターを利用する多くの人は赤の他人にブラック企業の従業員の姿勢を求める。また角度を変えると「大谷のように全身全霊のエネルギーを傾けられる分野を自ら見つけることが大切だ」というような意見も根強い。
「一生懸命になれる分野が見つかりません」と悩む人に対して
「それを見つける努力を怠っているからだね」
というようなやり取りが多くみられるようになったのが、正に「大谷ハラスメント」である。

私は天邪鬼で嫉妬にまみれた一面があるので時々生徒たちに話すことにしている。
「大谷は凄いけど早くボールが投げられて棒を強く正確に振れるだけだよ」
「大谷選手と岸田さんの給料の差は400倍。それで前者は嫌われリスクが低い立場の反面で後者は嫌われリスクが日本一の職業。そういうことを判断できる人にならないと」
「君らの父ちゃん母ちゃんは君たちを育ててくれたし、現在進行形で育ててくれているよね?それはまだ大谷翔平が達成できていないこと」

こう書くと大谷翔平に訴訟でもおこされそうな酷い発言であるが、それくらい彼らは日々、以下のような言葉を近くの大人やメディアから投げかけられている。
「大谷さんは素晴らしい!」
「大谷さんのようになるんだ!」
「大谷さんの能力は持っていなくても姿勢は真似ることができる!」

大谷翔平がスーパースターになる過程で日本人はどんどん潔癖になったと思う。そしてスターに「完璧な人格」や「品行方正」を求めるようになった。この過程の間に一応スターであった松本人志がテレビに出られなくなり、木村拓哉がヘイトを集める人物になったのは偶然ではない。しかしこの傾向は危険である。大谷翔平のような現人神とは気を付けて向き合わなければならないのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?