短編小説:同窓会_2021.03.06
長編:彼女は牡丹君は椿①のとある場面から繋がる話
長編:Another story of 僕の幸せな結末とも関連があります
キャストは 若き日の清一さんと夏美さん
千夏ちゃんのお父さんとお母さんで
春樹君と暎万ちゃんのおじいちゃんとおばあちゃ
んです
仙台市内のとある賃貸マンションのリビングに若い女性が2人と女の子の赤ちゃんがいる。赤ちゃんは、音のなるおもちゃで遊んでる。
「なっちゃん。今度の同窓会どうする?」
「ん?あ〜、あれ?」
このはちゃんに言われて、首を傾げた夏美さん。まだ、二十代前半ですが、予定より早くお母さんになりました。一応旦那さんは大手商社に勤めるエリートですが、(清一さんをエリートと呼ぶと、なんだか違和感が……。でもこの人、イケメンエリート設定でした!そう言えば)でもね、会社に入ったばっかり、そんなにね、まだお給料もらえませんよ。
そしてなっちゃんは元祖庶民の出です。
せいちゃん(=清一さん)と隣合わせの家で育ちました。家はせいちゃんの家の方がおっきかった。そして、せいちゃんの部屋には、漫画が全巻揃ってて、なんとテレビがあって、ゲームもあった。一人っ子だからってだけではなく、せいちゃんってなっちゃんより金持ちでした。
でもね、結婚しましたから、今は一つの船に乗る運命共同体です。
そして、予定より早く結婚したから、2人にはお金がないんです。こんな時にね、何不自由なく育ったせいちゃんは頼りになりません。なっちゃんは元祖庶民の出です。
「わりと会費したよね」
長い前振りがあった上でのこのセリフ
「このはちゃんは?」
「ああ、わたしは行くよ」
ちりん、ちりん、うーうー
赤ちゃんの千夏ちゃんがおもちゃで遊ぶ。
「かわいいねぇ」
目を細めるこのはちゃん。どうですか?このはちゃんもおひとつ。ま、でも、このはちゃんがお母さんになるのはまだ先の話です。
ばたん
「あれ?」
「あ、いらっしゃい」
清一さんが帰ってきました。まだ、18時頃です。
「え?どうしたの?今日遅くなるんだって思ってた」
「うん。夜の予定が急にキャンセルになってさ」
「あ、すみません。わたし、お邪魔しちゃって」
このはちゃんがテーブルに出してた携帯をカバンへ入れて、立ち上がろうとする。
「え、あ、いや、ゆっくりしてってよ。俺が帰ってきたから帰らせるんじゃ悪いからさ」
清一さんとなっちゃんとこのはちゃんは3人同じ高校で、清一さん一つ上の先輩です。前から顔見知りでしたが、2人が結婚してなっちゃんが東京から仙台に戻ってきてからは、ちょくちょくお邪魔しているので知らぬ仲ではありません。
「このはちゃん、別に夜1人なんでしょ?折角だからご飯食べっててよ。何か簡単に作るからさ」
なっちゃんがそう言って笑った。
「びー」
千夏ちゃんが泣き出す。
「あれ?おむつかな?」
「俺がやるからさ。なつはご飯作るんだろう?」
清一さんがワイシャツの袖をまくる。いいご主人ではないですか。千夏ちゃんはお父さんにオムツを替えてもらったことを大人になっても覚えてるんですかね?
しばらくしたら、夏美さんの作ったご飯が出てきました。この日のおかずはですね。ニラ玉、鯖の味噌煮、もやしと油揚げを炒めたものに、お味噌汁とご飯です。いいね!和食!3人で食卓を囲んでからこのはちゃんが帰った後、食器を洗っている夏美さんにせいちゃんが話しかけます。ちっちゃな千夏ちゃんを抱っこしていて、千夏ちゃんはせいちゃんの腕の中で眠ってる。
「なつ、同窓会あるの?」
千夏ちゃんを抱っこしながら、冷蔵庫に貼ってあった案内の葉書を清一さん見ています。
「ああ、それ」
「行ってこいよ」
「え?」
清一さんは眠っている娘さんをそっとベビーベッドに寝かして、掛け布団をかけた。
「別に行かなくてもいいけど。これからだって機会あると思うし」
せいちゃんは奥さんのいる台所まで来て言います。
「あのさ、すまないけど、そのうちいろんな所転々とする生活になるじゃん。同窓会はこれからもあるけど、君が出られないことのほうが多いと思うんだよ。だから、行けるときはちゃんと行って来なよ」
なっちゃんはお皿の泡を流してた水を一旦止めて、せいちゃんの顔を見る。
うーん
庶民の出としては、行かなくてもいいかなって思ってたんだけど……
「……わかった。ご主人様がそこまで言うなら」
若干渋々とそう答える。ぷっとせいちゃんが噴出した。
「おもしろいな、それ。しばらくやってよ」
「何?ご主人様?」
「メイドカフェみたい」
「え〜。いつもはやだ。ときどきならいいよ」
契約成立です。
結婚してから、新しい服を買ってない夏美さん。でも、久しぶりに高校の同級生に会うのにやっぱり少しでも綺麗にしたいですよね。困った時のカードを一枚切った。長女カード。妹の物は姉の物。実家に行って、妹の茜ちゃんの服から適当なものを物色した。
「ついでに髪の毛適当にやってよ」
「え〜!」
妹の茜ちゃん、美容師なんです。
「ほら、カットモデルだと思って」
「もっと肌も綺麗な10代の子とか使うんだよ。普通は」
「わたしの肌だってまだ捨てたもんじゃないです!」
「わたしにだって選ぶ権利はある〜」
「あんた、何、派手な服ばっか」
ベッドの上に引きずり出した妹の服の山から、一枚一枚摘んではケチをつける。
「別に、わたしはお姉ちゃんみたく子持ちな主婦ではないですから。ちょっ、それ、わたしのいっちゃん新しい服。しかも、高かった」
お目が高いです。夏美さん。服の山の中から見つけ出した。
「お、これなら、いけるんじゃない?」
「ちょっと!」
妹のね、抗議の声なんて、姉の耳にはそよ風。ささっと体に当てて姿見の前に立つなっちゃん。
「これに決めた」
「もぉ〜、別にもう、旦那様捕まえたんだから、気合入れてく必要ないじゃない」
「気合なんて入れてないわよ。ここまでしたって、独身の女の子のきらきらには勝てないよ。だからって、みすぼらしいカッコして隅っこに立ってるのもやじゃん」
「そんなこと言うなら、行かなきゃいいのに」
「行きたいって気持ちはあるよ」
指で数えてみた。1、2、3、4、5、6
「いつの間にか、もう6年!みんなどんなになってるのかなぁ?」
「まぁ、お姉ちゃんみたく結婚してる子は少ないだろうね」
「ね、ね、結婚とかしてなかったらさ、久しぶりに会って、今、どうしてる?とか言ってさ、それがきっかけでなんか始まるとかってのもあるのかなぁ?」
再会した昔の好きだった男の子が、社会人になってもっと素敵になっててさぁ。高校の時は緊張して話しかけられなかったけど、不思議と大人になったらあの時言えなかったことが言えたりしてさ。少女漫画の殿堂ものの展開ではないか。久々にワクワクするなっちゃん。
「お姉ちゃんの人生で、せいちゃん以外に好きだった男の子っているの?」
「……」
いたと思います。でも、すぐに思いつかない。
「つうか、いつからせいちゃんのこと好きだったの?出会った頃から?」
「……」
それだとね、小学校3年生からなのよ。
「夢を壊さないで」
え?夢?それはどんな夢?
「え?でもさ?お姉ちゃんは夢を叶えた人なわけじゃん」
「夢って?」
先程のキラキラとした少女の顔が消えて、年相応のしらけた女の顔になったなっちゃん。
「だって、ほら、昔っから好きだった幼馴染とすったもんだの挙句に結婚してさ」
「……」
だめすか?だめ?え、だって、それだって少女漫画の殿堂入りな展開な訳でしょ?
「ないものねだりなのかもしれないけど」
「うん」
ちろっと化粧の濃い妹の顔を見る夏美さん
「第一部はね、昔っから好きだった幼馴染とすったもんだの挙句、付き合いましたと」
そこ、デキ婚しましたではない。
「第二部はね、幼馴染の他に、ちょっとタイプの違う素敵な男の人が現れて、すったもんだしましたと」
「はい」
「それで、挙げ句の果てにめでたしめでたしが良かったなぁ」
まぢ、ため息ついてますがな。すみませんな。夏美さん。あっさりデキ婚なってしまって。
「それで、第三部が、イケメン夫に悪い女がついて、すったもんだするんだな」
「それはいらない」
「お姉ちゃん、でも、そんなのタイミング悪すぎ」
「タイミング?」
「そういうのは結婚する前に済ましときなよ。マリッジブルー」
「マリッジブルー?」
きょとんと茜ちゃんを見る夏美さん
「日本語で言って」
この程度の英語もわからないのかよっ!
「結婚鬱」
「産後鬱ではなくて?」
「結婚鬱というのもあるんだよ」
「じゃ、今、それか」
「今更だよ。みんな、そういうのは結婚前に済ますんだって」
「え〜!」
不満そうななっちゃん
「お姉ちゃん、ちょっとわがまますぎっ!こんな可愛い子生まれて、せいちゃんは優しい旦那さんでしょ?何が不満なわけ?」
傍ですやすやと寝ている千夏ちゃんを指さして、茜ちゃんキレ出した。
「いや、不満ってわけじゃないけど……」
「お母さんに言うよっ!」
「……それだけはやめて」
昔っから隣同士でおっきくなった関係で、なっちゃんのお母さん、どっかせいちゃんのこと自分の息子みたく思ってるとこがあって……。せいちゃんを泣かすようなことがあればわたしが許さないと言われたことがあるんです。大昔。
なんなんでしょうね?こういうの。別に今の生活に不満があるわけでもない。旦那に不満があるわけでも。だけど、片付いてしまったからなのかなぁ?そうそう。
ああ、自分の人生、決まっちゃったなぁ……
別のストーリーはなかったのかなぁ?これが本当の本当にわたしのベストだったのかな?
途中まで茜ちゃんに車で送ってもらって、買い物あるからとスーパーの前でおろしてもらった。千夏ちゃん抱っこしながら、買い物済ませつつふと思う。
「きゃっ、きゃっ」
自分の胸元で機嫌の良い千夏ちゃんの顔を見ます。
ま、いっか
難しいこと考えても、時間の無駄。主婦は結構忙しいんですよ。ええっと、ネギ、ネギ、安いのないかな。
そして、同窓会当日
妹の服をかっぱらい、髪はカットまではさせないが、カールさせてあげるのやらせた。靴は東京で働いていた頃の靴引っ張り出した夏美さんが、このはちゃんと同窓会の行われているホテルの会場に来ています。
「かっちゃん、なんか女の子たちに囲まれてるじゃん」
「あ、ほんとだ」
かっちゃんは、このはちゃんが高校生の頃から付き合ってる彼氏です。
「すごいすごいモテてる」
「高校時代野球部で坊主だったからさ、髪があると違って見えるんじゃないかなぁ?」
「ああ、そういうのあるある」
うん、あるよねー。昔、地味だった子のほうが、大人になってから素敵なってたよ。
「やだやだ。わたしたちなんか全然男の子寄ってこないのに」
ふふふふふと、このはちゃんと夏美さんが顔を合わせて笑います。
このはちゃんとなっちゃんもね、話しかけやすい普通の女の子たちでした。雲の上にいて、みんなの注目の的になるような子達ではなかったのね。あ、あっちにいるのは学年一かと謳われた○○ちゃん、大人になってもっと綺麗になっているんじゃないの?でも、取り巻きの子達はいないねぇ。みんな来てないのかな?
昔、みんなの憧れだった男の子や女の子の今を確認するのに忙しかったなっちゃん。
「あ、小野田じゃん。仙台帰って来たってほんとだったんだ。あ、それに野中じゃん」
そんな2人にも声かけてくる男の子がいました。
「残念。もう小野田じゃないですよ」
「あ、そうそう結婚したって聞いたよ。おめでとう」
全然、残念そうじゃないね。ま、別にいいけど。と思う夏美さん。わたしの結婚でこっそり泣いた男の子なんていないし。
「ありがとう」
「ねぇ、小野田の相手ってうちの高校ってほんと?」
「うん。1つ上の」
「ああ、じゃ、やっぱり2人ってつきあってたんだ。あの一個上の陸上部の」
家が隣同士で高校が同じだったので、時間が一緒になるとよく一緒に帰ってたせいちゃんとなっちゃん。周りからはつきあっていると誤解されていた。本当はその時はまだただの幼馴染だったんですが……。
「野中は?まだ、結婚とかしてないの?」
「ああ、うん。わたしはまだ……」
「もしかして、まだつきあってるの?内田と」
「ああ、うん……」
内田君、かっちゃんのことです。
「すげえな。これはもう結婚式呼んでもらわないとね」
でもさ。高校からつきあって結婚まですんなりいった人たち、なかなかいないんだよね。残念ながら。
ふいっと彼は後ろの方を見て、遠くを指さす。
「彼氏あんなとこで遊ばせていていいの?結構酔ってたぜ」
「ああ……」
ちらっとかっちゃんの方を見たこのはちゃん
「うん、まぁ、でも久しぶりにあったんだし。たまにはね」
「おお、さすが余裕だね」
そして、その子はじゃ、と言って2人から離れてまた別の人たちの方へ行きました。
「二次会とか行く?」
「いやいや、わたしは千夏んとこ帰んないと」
実家に千夏ちゃんを預けてきたなっちゃん。今日はこのまま実家にお泊まりです。
「このはちゃんは?」
「んー、もういいかな。帰る」
「かっちゃんと一緒に帰らないでいいの?」
このはちゃんはちらっとかっちゃんの方を見ました。
「なんか、今日は楽しんでるみたいだし。いいかな。別に」
「そっか。ちょっと待っててね。わたし、トイレ行ってくるから」
なっちゃんはそう言ってこのはちゃんを残して、会場から廊下へ出ます。洗面所で用を済まして出て来たところで、目の前に若い男の人がいた。通り過ぎようと思ったら声かけられた。
「小野田?」
小野田じゃないんです。もう。でも、振り向きますよね。この前まで小野田でしたから。
「あ、今、もう小野田じゃないんだっけ?」
「達也君?」
小学校から高校まで一緒だった男の子でした。会場のきらめく灯りとは違って、柔らかく照らされた仄暗いホテルのロビーで、お互いに大人になった様子を確認し合うなっちゃんと達也君。
「やだ。久しぶり。全然わかんなかったよ」
「卒業以来か〜」
「今、どこにいるの?」
「俺はずっと仙台だよ」
「そうなんだ〜」
「小野田は、東京だったよね。大学」
「うん」
その後、達也君、そっと微笑むと俯きました。
「仙台帰ってくるって聞いた時、やったと思ったんだけどなぁ」
「……」
「その後すぐに、結婚するために戻って来るんだって聞いてがっかりした」
そういうと顔あげて笑った。
「こんながっかりするなら、なんで高校の時に何もしなかったのかなぁって思ったよ」
「え……」
「ま、でも、いっつも小野田はあの人と一緒にいたものな。中條先輩。相手、あの人なんでしょ?」
「ああ、うん」
「おめでとう」
その時、離れたところから呼びかける声が。
「なっちゃん」
2人でそっち向きました。このはちゃんがなっちゃんのこと探してた。
「今でも野中と仲良いんだね」
「うん」
「じゃあね。元気でね」
あっさりと行ってしまいました。達也君。ぼんやりと見送る夏美さん。
「なに?上野君?懐かし〜い。何話してたの?」
「……」
今の、なんだったんだろう?
こういうことに免疫のない夏美さん。頭が混乱しています。
これは、つまりそういうことだと思いますよ。過去の淡い思い出みたいなさ。しっかりして夏美さん。
「帰ろ?」
「ああ、うん」
タクシー拾おうと歩き出した2人。さっきまで普通だったのに、いきなり何も話さなくなってしまった夏美さん。このはちゃんが心配します。
「どうした?なっちゃん。急にお腹が痛くなったとか?」
「うん……。あ、いや、違う」
「どうしたの?」
夏美さんはさっき達也君に言われたことをこのはちゃんに話した。
「へー、上野君ってなっちゃんのこと、好きだったんだ」
「え?うそ。やっぱりそういうことなの?」
びびる夏美さん
「やだったの?」
「いや、やではないです」
「そっか。よかったじゃん」
「いや、よかったっていうか……」
夏美さんにとってこれは大事件なわけです。
「よく考えたら、わたし、こういう告白っぽいことされたの生まれて初めてかも」
「え?だって、先輩は?」
タクシーが来ました。2人で並んで座る。
「あの人は……」
「うん」
「わたしが追っかけてって捕まえたようなもんだからさ」
「……」
確かに
「こう、実は好きでしたって、言われるまで知らなかったみたいなのは初めてだよ」
「うん」
「ドキドキした〜」
人に好きだって思われるのってこんなにドキドキするものなのか、知りませんでした。
「まさか、わたしのことを好きだと思ってる人がこの世にいるなんて思わなかった」
え、だから、先輩は?と思いながらつっこめないこのはちゃん。
「ま、でも、前も言ったことあるけどさ。なっちゃんは高校の時は中條先輩と付き合ってるって思われてたんだって。だから、誰からも好きだって言われたりしなかったんだよ」
「ほんと?」
「少なくとも1人はいたわけでしょ?上野君」
「……」
わたしなんかのどこがよかったんだろう?
ぽけっと考える夏美さん。聞いてみたいけど、聞いてはいけないですよね?
「なんか、わたし、損した気がする」
「え?何で?」
「別につきあってるわけでもなかったのに、誤解されて。あんなに一生懸命せいちゃんの後追っかけないで、他の男の子にも目を向けてみればよかった」
「いや、でも、別に結婚して後悔しているわけではないよね?」
若干、焦るこのはちゃん。
「いや、後悔はしてないけど」
「けど?」
「長い人生、もっといろいろな経験ができたのになぁ」
危ない、なんか、危ないよ。この人。
「あ、ついたよ。このはちゃん」
「あ」
「運転手さん、そこの角で止めてください」
「あいよ」
バタン
「じゃあ、またねぇ」
にこにこと手を振る。夏美さん。いつものなっちゃんに戻ってました。思わず勢いでタクシー降りちゃったこのはちゃん。若干、心がモヤモヤとしました。が……、ま、大丈夫だろう。まさか、あのなっちゃんがね。思い直して歩き出す。
翌日、実家から自分の家に戻った夏美さん。今日はご主人は遅いですかね。千夏ちゃんと食事を取りました。しばらくすると、清一さんが帰ってくる。
「ただいま」
「おかえり。なんか食べる?もう、食べた?」
「なんか軽くちょうだいよ」
「ビールは?」
「欲しい」
食卓を整える夏美さん。おかずを並べた後に、グラスにビールを注ぎます。
「同窓会はどうだった?」
ビールに口をつけながら聞いた清一さん
「告白されちゃった」
ぶっ、ゴホゴホゴホ
「大丈夫?」
「笑わせるなよ」
ムッとする夏美さん
「笑うなよ」
「なんだよ。お決まりのパターンだな。どうせ、あれだろ?相手も酔っ払っててさ。余興みたいな……」
仲の良いみんなで、もう何やってんだよ。お前らって笑うオチだ。
ため息ついた。夏美さん。
「あなたにいうんじゃなかった」
「え?何?まじのやつ?」
無表情になって、つと立ち上がると、ご主人の座っているダイニングテーブルから、テレビの前のソファーへと移ったなっちゃん。なんかいやーな感じしますよね。ビールのグラス持って清一さん、奥さんを追いかけます。
「なんて言われたの?」
「あなたに関係ないでしょ」
「いや、関係ないけど……。というか、中途半端に言うなら、俺に言うなよ」
というか、中途半端も何も、こういうことはいちいちご主人に話さないでいいと思います。夏美さん。
怒ってあっち向いてた顔をせいちゃんの方へ向けたなっちゃん。
「せいちゃんはどうせ、わたしに告白する人なんてこの世にいないと思ってんでしょ?」
「いや、思ってない」
「じゃ、なんで笑ったわけ?」
「……」
だって冗談だと思ったんだもん。深い意味はないんだけど。
なっちゃんため息ついた。
「告白されたことがある人にはわかんないかもしれないけど、わたし、ほんとにそういう経験なかったから」
「うん」
俺、告白っぽいことしてなかったっけ?なつに。話を聞きながら、記憶を思い起こす清一さん。
「すっごい嬉しかったのに、せいちゃんに話すんじゃなかった」
「……」
すっごい嬉しかったんだ……。
若干、胸がざわざわしますよね。流石に。
「誰?それ」
「教えない。つうか、一個下の後輩、全部覚えてる?」
「言ってみなきゃわかんないじゃん。覚えてるかも」
「教えない」
じっと見つめ合う2人
「じゃあ、最初から言うなよ」
「せいちゃんが笑うからでしょ?笑わなかったら教えたって」
いや、教えるのかよ。夏美さん。ちょっとイラッときた清一さん。
「お前、俺のこと、あの漫画貸しあって、ゲームで一緒に遊んでた頃と同じ存在だと思ってるだろ?どっかで」
「なんで?」
そんな細かいこと普段意識してません。
「普通の奥さんなら言わない。ご主人にこんなこと」
「そうなの?」
なんか珍しいことや嬉しいことあったら、隠さずなんでも話してた。なっちゃん。せいちゃんに。
「周りの女の人に聞いてみなよ」
「でも、結婚してる人少ないもんなぁ」
「じゃあ、お母さんに聞いてみたら?」
「いや、それは絶対ダメです」
即座に断るなっちゃん。野生の勘でわかる。大目玉食らうやつだ。すくっと姿勢を正しました。
「すみませんでした」
両膝に手をついて謝りました。なっちゃん。この人、お母さんという言葉に弱い。目が覚めた。
「今日、お話ししたことは全て忘れてください」
「はい?」
そんなね、あれですよ。小野田家は、曲がったことを許す家系ではありません。ご主人には特に非もないのに、別の男の人にうつつを抜かすなんてね。ご先祖さまに叱られます。小野田の名折れですよ。
「さ、さ、お食事続けてください。ご主人様」
せいちゃんをテーブルへ促すなっちゃん。すっきりしないまでも食事を再開するせいちゃん。
でもね、こっそり心の底で思うなっちゃん。
ときどき、こっそりと1人で思い浮かべるくらいなら許されますよね?神様。
きらきら光る綺麗な思い出、一つ増えました。
あの達也君がねぇ、ふふふ。
「何、笑ってんの?」
「いえ、なんでもありません。ご主人様」
了