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帰郷 その3
食べ物の話ばっかり書いてきた、帰郷話も本日で最後にしよう。今日も食べ物の話ばっかり書くことになると思う。
一時帰国中は毎朝、和朝食を作っている。中国でこれと思うような味噌を手に入れるのは難しい。だから、一時帰国中は毎朝味噌汁が飲みたいのだ。出汁の旨みと野菜の旨みが前に出て、そこに味噌が加わるのが理想だ。しかしだな、実は我が家の母は 味噌汁があまり好きではない人である。何がうまいのかわからんという。そして、グルメな母ではあるが味噌は適当に選んでいる。
帰宅してスーツケースの車輪と本体をさっと雑巾で拭き家にあげる。手を洗う。次に冷蔵庫に向かい、味噌を探す。
「今回はこれか」
味噌汁の何がうまいのかわからんという母が選んだ味噌は、白だった。お母さん、昔、赤味噌派だったのにぃと思いつつ、白味噌で味噌汁を作る。調味料はその調理時の汁の色の濃さで適量を覚えろとどこかの誰かが言っていたが、赤味噌で育った人に白味噌の色などわからんちん。少なく入れれば薄すぎて、多く入れれば途中で喉の渇く味噌汁となる。味噌加減を吟味するのに、脳みそを使う1週間だった。
それから、突然母がエビフライが食べたいというので、立派なブラックタイガーを買ってもらい、衣をつけて姉とあげた。料理が嫌いではないが、普段はほとんどやっていない私。冷凍エビをきちんと解凍し、皮を剥がし、背ワタを取って、ちゃんとやってたのだけど、隠し包丁を入れるのを忘れました。そのせいで、その晩のエビフライは、まんまるに上がった。
「あ、しまった。隠し包丁を忘れた」
「そんなの入れたって、エビは丸まるよ」
姉は 丸まってもエビと気にしなかったが、この人である
「美味しい、美味しいけど、まっすぐなエビフライが食べたかった」
けちょんけちょんに言われた。けちょんけちょんにいわれながらも、足りないと言われて後ろの姉の家にエビフライを追加でもらいに行った。ちなみに隠し包丁も入れ忘れたが、あげる時にも頃合いが難しかった。美味しんぼではしろうは確か、料理人に揚げ物をあげる音を聞かせて料理人を選んでたよ。揚げ物は頃合いになるとあげる音が変わるんだよ。
しかし、自分の耳が悪いのか、音の違いがよくわからんかったぜ。
短い休暇が終わり再び東京へ出る。東京に出る日はバタバタしているので朝食は作らずに近くのコンビニで焼きたてカレーパンと握りたてのおにぎりを買って帰る。それから新幹線に乗って東京へ出たが、中途半端な時間のせいで昼を食べ損ねた。ホテルへ着くとしばしまったりとする。それから友人と合流した。
二軒梯子したのだが、あの夜一番美味しかったのは、豆腐である。伊作というちゃんこ鍋も食べられる居酒屋さんがありまして、そこの鬼どうふの中辛を食べた。唐辛子で味つけられた湯豆腐のようなものだ。うまかった。
その翌日は息子を連れて我が母校の高校へゆく。なんのことはない。我が息子のいくつかある志望校のうちの一つは我が母校なのである。ちょっと気が早いかもしれないが、高校見学に連れ出した。
高校見学なんぞどうでもいいのだ。何を食べたかの話だ。結論から言うとラーメンを食べました。かつて私が青春を過ごした高校の最寄りの駅はしかし、なんだかマルッと変わってしまっていて、ラーメン食べようなどと盛り上がってもググらないとどこにラーメン屋があるのかわからない。餃子の王将があったからそこでどうだと言っても、餃子じゃなくてラーメンを食べたい息子は
「餃子の王将にもラーメンはあるよ」
と言っても首を縦に振らない。そこで、スマホ検索して二つのラーメン屋候補を探し出す。1個目は昼休みでしまっていた。そこで、見当をつけていた2個目へゆこうとしたら、
「ここでいいんじゃない?」
息子がチェーン店の中華屋を指さす。私、ラーメンは、個人の店へ行きたかった。深圳では豚骨ラーメンしか食べられないが、自分は昔ながらの中華そばが食べたかったのだ。永遠の理想のラーメンは、ゲゲゲの鬼太郎と鼠小僧が食べていた屋台のラーメンだ。ああ言うのが好きだ。
「あっちにもお店があるよ」
「お腹すいた。ラーメンなんてここでいいじゃん」
ラーメンの原点を求めて足をのばしたい母は、息子に反抗されて渋々チェーン店に入る。そこの店のラーメンはワンコイン、500円以下で食べられて、そして、ビールやらハイボールやら、お酒がガンガンバリバリ飲めるのだった。
リーズナブル、ピースフル、いえーい、なお店には いそいそとおひとり様の高齢者の方がやってくる。多分、毎日時間があって、定期的にラーメンや餃子が食べたくなる。たまにご馳走を食べるのではなくて、なんでもない日にふとラーメンを食べたくなった時、ラーメンもお酒も安価に求められる、こういう店が喜ばれるのだろうなぁ。
しみじみ思いながら、ゲゲゲの鬼太郎が食べていたのに最も近そうな中華そばを頼む。それに二人で6個、餃子を頼んだ。安くて不味くはなかった。ただ、自分としてはちょっとラーメンのスープは甘かった。もっとさっぱりとした味が、私の中華そばだ。ゲゲゲの鬼太郎と目玉親父が食べていたようなやつだ。食べ終わると息子がまだ足りないという。さすが成長中の人は違う。
その後に彼は唐揚げと半チャーハンを平らげた。若さ、万歳!
この日の夜、本来であれば約束をしていたカニを食べに行くはずだった。しかし、以前もお邪魔したことのあるカニ屋は月曜日はお休みでした。
まさかのカニっ!ないのかー!!
息子にキレられるかもと思い、電車に乗って蟹食いに行くかというと、
「別に焼肉でもいいよ」
私ほど食にがんじがらめになってない彼は、台北のツケをあっさり放棄した。めんどくさかったのだろう。それでいそいそと近辺の焼肉屋を検索した。不思議なものだ。写真だけでなんとなくあたりとハズレがわかるようになったぞ。食いしん坊極まれり。昔に比べて、まずいものは食いたくない気持ちが高まってしまった。煩悩である。
「また新しい店行くの?」
食の冒険家ではない息子は行きつけに行こうとする。しかし、前行った店はなんかピンと来なかったのだよ。簡単にいうと、日本の肉が霜降りすぎた。最初の一皿だけ霜降り肉であとは赤身の多いやつがいい。いい脂で舌の上で溶けたとしても、何枚も食べられない。
昨今、焼肉も進化して来ているというか、頼み方を間違えると美味天国へはゆけない。やれやれ。
肉衛門というお店へゆきました。この名前の店をチョイスする女子も、モテる気ゼロやなって話ですが、この肉肉しい名前に反して、お店が高級焼肉店構えだったのです。小綺麗。焼肉ともつ鍋の店だというからがやがやした店だと思ったらテーブルがそれぞれ仕切られた小綺麗な店でした。
息子が内臓は食べない人なので、モツやホルモンは断念。カルビやロース、ハラミを食べる。結論から言うと、すごくいい肉だった。厚切りの牛肉の表面を焼いて、ハサミで切って、好みの焼き加減でお互い食べました。私はレア派なのであまり焼かずに食べた。この時に一番、肉の違いを感じました。冷凍で保管されているのでしょうが、新鮮なマグロを食べているような一切臭みのない爽やかな味だったのですよねぇ。
こんな贅沢しちゃっていいのかな、僕。
そんな心の声が沸いたぜ。(私は女性ですが、たまに僕キャラになります)そもそも焼肉ってシンプルな食べ物じゃないですか、とにかく肉の質がいいことと、それがきちんと保管されているかに尽きるのではないか。もうちょっというと、牛。牛がどう育てられたか、であろう。こんな肉が牛肉だと思って育つ息子は、これはちょっと大変かもしれないなとしみじみ思っていると、
「追加する」
「まだ食うんかー!」
痩せてるくせに、うまいものに出会うと底なしで喰ふ。胃腸の弱ってきている中年から見ると、胃を壊さないか心配になるが、奴は新品に近いので平気なようだ。口コミにも書かれていましたが、肉の質の割に安いと思います。大満足で店を出た。
そして帰り道では次の日空港がめちゃ混みして朝食を食べられなかった時のためにと、一人一個ずつおにぎりを買いました。彼は明太子、私は梅納豆巻き。このことが翌朝、事件を起こす。
空港はめちゃ混みはしておらず、我々は小一時間の空き時間ができた。
「お母さんサンドイッチ買うからそれ二つ食べていいよ」
納豆巻きだと息子は食べるが、梅納豆は食べません。忘れて自分はサンドイッチを買いに行ったが、お土産買うのに時間がかかったので、サンドイッチをやめて自販機でおにぎりを買うことにしました。ツナマヨとマグロわさび風味を買う。そんなまたまたおっさん臭いもの、買うんじゃありませんでした。どんだけ酒飲みですか?って話ですが、別に酒はそんな飲んでないが、食の趣味が酒好きです。子供の頃からそうでした。
息子の元に戻ると、
「これ、何?」
「ん?」
梅干し食えよ、日本男児。しかし、息子は納豆は食うが、梅干しは食わない。
「じゃ、これあげる」
「……」
ツナマヨ→マヨネーズを食べない。マグロわさび風味→わさびを食べない。
「もういいっ」
そして、お店のご好意で肉質の割にリーズナブルだった、しかし、決して安くはなかった焼肉をご馳走した翌朝に、1時間ほど息子にシカトされました。
親って……、一体……、奴隷?奴隷なのか?
梅納豆とツナマヨとマグロわさび風味を選んだがためにである。梅納豆を選んだのを自分でも忘れてた。シャケを買えばよかったぜ。
ちなみに、最後の最後に空港で最中を買いました。私、ここ数年、最中にハマってますねん。チョコモナカのアイスも前から好きだったけど、あれは頑張っててもやはり大量生産もの。和菓子好きでもない自分は以前は知りませんでしたが、和菓子屋さんが作る最中はもっと絶妙な硬さなのです。
その、パリッと感にハマった。つまりは、ものの硬さの違いを一緒に合わせて食べることにハマっている。よくもまぁ、こんな、パリッとなぁ、と思うのである。柔らかさと硬さという違いを楽しむのにハマっているため、厳密に言えばこれは最中以外の食物でも平気である。
せっかく窓際で事前チェックインしていたが、寝ぼけた母が事前チェックインしていたことに気づかず、別の真ん中の席を取り直してしまい、これにも怒り狂った息子が横でガンガン寝ている。その内、機嫌が直ったのか私の肩に頭を乗せてきたぜ。
しょうがない奴だなぁ。一人っ子の男の子は、世間一般の基準から見ても甘えん坊だぜ。おっとこれは口に出してはならない言葉だったな。
食のことばかりつらつらと書いた旅行記でした。いいものばっかり食べましたので、これからはまた通常に戻りお金を稼ぎますかね?また、飛ぶ日まで、贅沢よ、さらば!
汪海妹
2025.02.06