岩手県花巻市大沢温泉にて
家族で大沢温泉に行ってきました。私たちは新館に泊まったのですが、旧館の方でジブリ展をやっていた。解説を読んだ上でかいつまんでなぜここでジブリ展がやっていたかの事情を説明すると、スタジオジブリで長らくその背景を描いてきた鈴木敏夫さんは、この歴史の趣ある(創業江戸時代末の)大沢温泉を愛していたのです。この大沢旅館は川沿いの温泉宿で、目の前に切り立った崖をのぞみ、義経でもこれはおりられないだろうと訝しむ崖は一面の緑、秋は紅葉、冬は雪景色が美しい。その川を跨ぐように建てられた旧館へと続く橋が落ちてしまい、長らく大沢温泉は新館のみで運営し、旧館は休館(親父ギャグみたい)。短くない年数を経た後に、行政の再生プロジェクトを利用して修繕がすんだ。そのリニューアルオープンの時に旅館の運営の応援をしてあげたいと思って、鈴木敏夫さんがやったのがジブリ展の1でした。その時の好評を博して今回はその第二弾が行われたとのことでした。
ヨーロッパなんかを旅行していると(なんて偉そうに言って私はヨーロッパはイタリアしか知らないんだけど)、古いものや歴史をとても大切にしているのですよね。それに比べると日本人の特に若い世代はあまり日本の歴史とか古来からの文化を大切にしていないような気が前からしていました。で、今、空前の日本旅行ブームというか、海外からたくさんの人が日本に旅行に訪れますが、そう言った方々が魅力を感じるものというのは、こういう古い日本なんじゃないかと思うんです。京都には京都の堂々たる古都としての風格があり、それはもちろん魅力なのだけど、地方にはその堂々とはまた違った素朴で美しい一面がある。旅は画一的なものではなくて、個性を求めるものですから、地方性というのは重要なものですし、財産だと思うんです。
しかし、いかんせん、古い建物の維持には金がいるし、工夫して観光化し現金化する知恵もいる。それでも日本の古き良きものを守るために苦労している人たちがいて、それを応援するこういうコラボに出会うと、ちょっと泣きそうになります。涙脆い人間なんですみませんね。
私は日本人として最もクールでナイスなのは、日本に興味のある外国人に対して、英語か別の外国語でもいいけれど、日本を語ることができる事だと思います。アメリカについて詳しい日本人がアメリカ人にとってクールでナイスなわけではないんですよ。そう気づいてから、私は和風のものがぐっと好きになりました。
会場では、鈴木雅夫さんのビデオが流れていて、ジブリ展をするに至った経緯や展示の準備の様子を見ることができるのです。大沢温泉の建屋の中で生きて動いている鈴木さんがいて、あ、本当にきたんだと思う。ジブリ展をやってみたら、思いの外反響があり、最近予約が取りにくいんですよ。はははと笑う。その笑顔は、美しい。人間の綺麗さって、こういう部分にも出ますよね。
今回のジブリ展2には、ジブリ関連の展示もあるのですがそれと併設して、タイ人女性の写真家のKanyadaの写真が展示されてます。彼女が撮った大沢温泉の写真、ジブリパークの写真、そして、彼女の故郷の写真。Kanyadaは鈴木敏夫さんはじめジブリと交流のある写真家の方のようです。その彼女の写真とその下に書かれた詩的なコメントから二点抜粋してあげます。
私の写真だと字が小さくて見えないと思うので、下記に引用します。
価値ある生き方
あなたが成功を望むなら
自分のためじゃなく他人のために生きなさい
My heart
私を見捨てた人がいる。
私が一番つらいときに。
その人にはそばにいて欲しくない。
私が一番しあわせなときに。
どちらの言葉も、たしかににゃー、そうだにゃーと共感したというのもあるのですが、それだけではなくて、これらの言葉や他の言葉を見つつしみじみと感じたことがある。それは、私たちは生きていく上で、自分を鼓舞するような前向きな気持ちや、ポジティブな感情を持つこともあるし、それを言葉に表すこともある。しかし、同時にネガティブな自分を大切にしなければならないということです。
人間の気持ちには大なり小なり波があって、強く突き進む側面と同時に弱い面も持っている。それがとても自然なことだと思う。
ネガティブな自分を隠して、綺麗事ばっかり言っていると、胡散臭いやつだにゃんと思われて、人気が出ない。だから、やめようねと言っているわけでもない。見栄を張るのも人間らしい習性ですから、私から見るとそれも可愛い。
私が問題だと思うのは、自分はそんなネガティブじゃないと強く自分の弱さを否定して自分の心の中で認めないこと。
自分の弱さを強く否定して、それがそこにあるのに、例えば、他人に嫉妬してしまう自分や、人を許せない自分。無視して強くなろうと思っても、そんなかりそめの強さでは、羽ばたいてもすぐに落ちてしまう。そういうことです。
真の意味で強くなりたいのなら、自分の弱さやダメなところを受け入れ、自分に寛容になるべきだと思う。そして、励ましながら少しずつ変わるのです。それが本当の強さなのだと思う。
或いは、欠点は欠点のままに治すことができなくたっていい。ただ、自分の悪いところはこういうところだと理解していると、例えば、自分の結論に固執しすぎるとかね、人と討論になりどちらも譲らず一触即発になってしまった時に、
あ、やばい、いつもの失敗パターンだ
ふと気づき、そこから引き下がれることができる。それだけで、まぁ、その人の人生が変わるんだと思う。こういうことが歳をとることの醍醐味かなと思うんです。
ただ、人間を具にみていると、誰もがこんな謙虚に一歩一歩成長できるわけでもない。すると、人というのは不思議なもので、研鑽しなければただただ歳をとるごとに頑固に融通効かなくなってゆくだけで、外見は歳と共に歪み、内面たるや言葉にならない。
せっかく生きているのだから、心を磨かなくては。無理に型にはまったいい人になる必要なんてない。ただ、自分の良さと共にダメさも認めて受け入れる。それができれば、他人のダメさにもある程度は寛容になれるはずです。
だから、私もいいことばかり言葉にすることのないように生きていこうと思います。自然に水が流れるようにいき、いいことも悪いこともありのままに言葉にかえてゆけたら。
束の間の日本でした。
忙しい中で私たちに会うために時間を作ってくれた人々に感謝。
また次会うときまで幸多き事を祈ります。
明日から仕事です。うえーん。
汪海妹
中国自宅より
2024.10.08