524と00(1)
「はい! 注目してくださ~い!」
クラス委員長の清水が教卓の前に立った。
「え~。来る文化祭ですが、うちのクラスはメイド喫茶をすることになりました!」
「おお~~!!」
盛り上がる男子。
「ええ? 聞いてないんだけどー」
「こういうのって普通話し合って決めるんじゃないの?」
と女子から苦言ともとれる言葉が飛び交う。
「うんうん。分かるよ、皆の言いたいこと。でもね……今年から委員会で割り振るようにしたんだって」
「そんな~……」
「でも仕方ないか……決まっちゃってるなら」
「それにメイド喫茶も楽しそうじゃない?」
「確かに! うちのクラスって似合いそうな子いっぱいいるし!」
徐々に肯定的な意見が出始める。
「分かる! 理央でしょ! 山下さんに! すみれ! それと小西さん!」
「スタイルいいもんね!」
言われてるぞ、小西さん。とお隣さんを見やる。
我関せず、と興味無さそうに頬杖をついていた。
「あと瑶季も似合いそう~」
「そ、そうかな?」
「うんうん」
「盛り上がってるな女子たち」
「だな~。こりゃ俺らも気合いれるしかないな!」
「それで、男子にも何人か執事役をしてもらいます!」
「げぇ~マジか~」
「それはパス」
「俺もやりたくねぇ!」
「私たちもアンタにはやってほしくないし! こっちから願い下げよ」
「うへ!? ひど!?」
「執事役なら○○君じゃない?」
「だよね! 私もそう思ってた!」
げ。飛び火してきやがった。
言われてるやん、お隣さん。といった視線が返された。
思わず頭を抱えた。
「まぁ……嫌がる人には無理強いできないからね。立候補を募ります」
「は~い」
と清水の提案に賛同する一同。
うちのクラスは意外と纏まりがいいんだな。
これも委員長の人柄なのか。
……
「はい! ということで。今日はこの辺で終わります。また明日も話したいので放課後残って下さい!」
話し合いが終わり、帰り始めるクラスメイトを眺めながら考え込む。
さて、どうしたものか……。
執事役になった――なんてことはなく。そういのは得意じゃないし。推薦してくれた人には悪いが丁重に断った。
では何に悩んでいるのかというと。
「……ほんじゃよろしくな?」
「ん……ああ。こちらこそ」
そう、こいつだ。
なし崩し的に余った俺と小西。
文化祭では裏方に入り、主に二人で買い出しを担当することとなった。
相方になった小西夏菜実はいわゆるクール系女子だ。特別仲がいいとかではない。お隣さんだからたまに会話をするくらい。それもたいして弾みもしない。
そんな間柄だった。
「……嫌やったら断ったらええのに――」
「え――」
「何でもあらへん。さいなら……」
そう言って小西はどこか不機嫌そうに教室から出て行った。
「嫌って訳じゃないんだけどな……」
顔に出ていたか……確かに困惑した表情を浮かべていたのかもしれない。
ただそれは、どう接していいか分からなかっただけなんだが――
なんて今更取り繕っても遅い。
「……はぁ」
と溜息を吐いた時。
「○○君。どうしたの~? 悩み事?」
すみれが話しかけてきた。
宮地すみれ。前年も同じクラスだったから比較的仲のいいクラスメイトといえる。
間の空いた喋り方をしているせいか、おっとりとした子かと思われがちな”すみれ”だが……芯の強さも持ち合わせ、女子たちからは相談されてる姿をよく見かける。
そんなクラスの中心人物の一人。
ちなみに俺の妹の事が大好きらしい。
「困ってることがあったら私に言ってね」
「いんや、たいしたことじゃないよ」
そう、たいしたことじゃない……はずだ。
この歳になってどう接していいか分からない――なんて恥ずかしくても言えない。
相手が孤高の小西だとしてもだ。
「そっか~。そうだ! 私ね、メイド役に決まったんだよ」
「知ってる知ってる、ちゃんと聞いてたし。すみれは似合いそうだよな……きっとお客さんいっぱいくるぞ」
「そうかな~? えへへ……なら頑張らないとっ」
うん。こんな笑顔で出迎えてくれるなら大盛況間違いなしだ。
「すみれー帰るよー」
「あ、うん! 今行くよ~。じゃ、またね! 〇〇君」
「おう! またな」
すみれは明るいな。
小西もこのくらい分かりやすければいいのだが……。
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