季重なり・季違い ―そうは言っても―
こんばんは。みつかづです。
前回の続きです。
前回、私は初心者に対しても、「どうしても避けようが無い場合、
季重なりや季違いなんて恐れずに腹を括って挑め!
失敗を恐れるな! 実景や実感にウソつくな!」と教えている一方で、
「内容をよく吟味してください」とはお伝えしておきます。
「何でもかんでも季重なりや季違いにしていいのかといえば、
それは違うからねって事になりますので」とも書いています。
「避けられないなら季重なりや季違いにしてもいいけど、
季節感をハッキリさせてくれ」って事です。
大切な感動があり、その表現の為にならやってもいいけど、
大した意味も無いのに背伸びして季重なりや季違いにしたところで
無駄な事にしかならないし、それは工夫とは言わない。
寧ろ、下手な小細工しようとしてやると大体は失敗して、
意図せず素直に詠むと何故か上手くいく様になっているものです。
逆に言えば、歳時記に載っていない語でも、季節感が出ているなら
季語として認められた語を使っていなくても有季定型だと
私は認めるという意味でもあります。
食べ物や飲み物で例えてみましょうか。
例えば季語Aが牛乳、季語Bが紅茶だとします。
混ぜるとミルクティーになり、これなら成功ですよね。
美味しいから。旨味が出ているから。
季語ならば、「季語同士の相乗効果」というものですね。
前回で言えば、季重なりなら散歩道桜と桃の花ぞ見る
季違いならドラマーや汗の飛び散る冬ライヴ(厳密には下落防止効果)
では、季語Aが100%りんごジュース、
季語Bが100%ぶどうジュースだとします。
混ぜるとめちゃくちゃマズい味になり、それなら失敗ですよね。
名前すら無い得体の知れない液体であり、ジュースですらなくなる。
それなら混ぜない方が良い訳で。
今回は季語2つのケースに限りますが、
季重なり・季違いが成功するのは殆ど以下のケースのどれかでしょう。
①片方の季語を、季語として使っていない(比喩、地名としての使用など)
②季語に強弱関係があり、季節感が明確(季語の強弱)
③季語Aと季語Bが同時に働き、AとBが足されて良さが増している
(季語同士の相乗効果)
④季語Aと季語Bのうち、どちらか一方でも欠けると面白くない
(季語同士の下落防止効果)
⑤全く同じ季語を形を変えずに繰り返す
①~⑤の全てにおいて、季語が主役の座を巡ってケンカしていない事が、
ゲテモノができない事が大前提。季語がケンカしている様な、
ゲテモノができる様な組み合わせなら最初からしない方が良い訳で。
これはオススメはしませんけど、2つの季語が主役を争うケースは、
夏井先生がなさった荒技が解決策として無くは無いですし、
私もたまたま結果的にその様な句になっています。
ただ、これは狙って成功させるのはとてつもなく難しい解決方法なので、
片方の季語を諦めるのが手っ取り早い解決方法になります。
私も「ゆく夏や蜩交じる蝉時雨」は何も狙わずに偶然こうなっただけ
ですからね。ちゃんと②の主+副+副になっていますね。
そもそも、狙って作りたいとは私は思いませんし、思っていません。
2015年9月17日(木)に放送されたテレビ番組『プレバト!』で
才能ナシ15点と査定された句が以下です。
秋刀魚かな鰯もいいなはよ帰ろ
季語は秋刀魚(晩秋)、鰯(三秋)。
夏井いつき先生は以下の様に添削なさいました。
秋刀魚か鰯か我が決断の秋の暮
何と! もう1つ季語を加えたのです。秋の暮(三秋)
原句において、秋刀魚にするか鰯にするか作者は迷っているので、
季語同士が同程度の強さでケンカしている訳です。
秋刀魚は「夕飯は俺だ!」、鰯は「いやいや、夕飯は俺だ!」と
季語同士で争っています。
そこに「秋の暮」という強力な季語が来て「主役は私だ」と
主張されると、秋刀魚と鰯は共に脇役になり、句として安定する訳です。
夏井先生の添削句:秋刀魚か鰯か我が決断の秋の暮
私の句:ゆく夏や蜩交じる蝉時雨
夏井先生の添削句は副+副+主
私の句は主+副+副
順序が違うだけで、構成は似ている所があります。
目立った違いは、夏井先生の添削句は全てが秋の季語の季重なり。
私の句は晩夏と初秋と晩夏で季違い+季重なり。
中七の季語の有無。
私の句では、「ゆく夏や」を外すと「蜩」と「蝉時雨」がケンカして、
読者は「季節は夏の終わり頃? 秋の初め頃?
どちらかハッキリしてよ!」となってしまう訳です。
なので、最初から季語3つで作句している訳です…
…というのは建前。詠んだ時には何も狙ってないんだから。
後から分かったという事です。
私の句:ゆく夏や蜩交じる蝉時雨は分析すると複雑な構造だけど、
何も狙わずに詠んでいるから、こんな難しい事が初心者の頃の作句なのに
失敗していない訳。成功しているかどうか微妙だけど。
そう。何も狙っていない。ただ、避け様が無いので挑んだだけ。
夏井先生は添削の為に季語を追加なさって季語3つになっていますが、
私は最初から季語3つだった訳。
①~⑤のどれに当てはまっているのか、それとも
どれにも当てはまっていないのかを判断するのが
初心者には知識的にも技術的にも難しいよね、というだけの事。
失敗を繰り返さないと分かる様にならないって事。
ここで横道に逸れます。
基本的に、私は夏井先生のお考えには大絶賛ですけど、
1点だけは違うし、ここは私は譲らない。
夏井先生は、「駄句は捨てるもの」とお考えです。
私は、「駄句は良くなるまで、せめて悪くなくなるまで
自分でトコトン改作、改良するべきもの」という考え方な訳。
そう。自分でやる。自作を自分が改良する。苦行する。
本線に戻ります。
昨日の夜、俳句添削道場に「あかさん」という方が
デビューなさったのですが、その句が以下。
夏は晴れ新たな季節秋と冬
作者:あか 投句日:2024年8月13日(火)
要望:厳しくしてください
コメント(俳句の意味。悩みどころ)
季語を入れて工夫しました
これは私も唖然としました。
何をどの様に工夫したのかがサッパリ分からない。
作者に寄り添いたくても、読み解けない。
厳しくしてくださいも何も、
そもそも「俳句とは何でしょうか?」のレベル。
幾ら「初心者でも季重なり・季違いの避け様が無ければ腹括って挑め!」も
限度ってモンがありますよ。やればいいってモンではない。
初心者なりに季語を調べて、吟味しなさいよ、と。
その結果、「よく考えてみたけど、やっぱりこれしかない」という結論に
達したなら踏み込む。良し悪しは読者が判断してくれる。
吟味せずにやられたら、「要望:厳しくしてください」と書いてあったら、
「即刻帰れ! 勉強して出直してこい!」としか書けなくなるんだよね。
今回は季重なり・季違いについて取り上げましたが、
それも込みで、技法というモノは以下ですかね。
使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しくお使いください。
今回は以上です。
ご覧いただきありがとうございました。
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