2023年にみた新作映画ズ
noteっていいですよね。
最近、個人ブログのような何気なく綴られた自然体の文章に触れる機会が多くて、それに刺激を受けてちょっと書いてみたくなったので書きます。
でも特に何のとっかかりもなく突然noteを始めるのも何だか気恥ずかしかったので、2023年の総括的なアレを口実に始めたいと思います。
ということで、僕が今年観た最強の映画を紹介します。
2023年 新作映画ベスト5
今年観た映画を数えてみたら、なんと303本でした。暇人ここに極まれり。
その内訳としては、新作が43本、旧作が260本。
もともと映画に触れて来ずに生きてきて、去年からガッツリ映画沼にハマった人間なので、旧作が多めとなってます。
とりあえず、新作からランキング形式で紹介します。
(追記:本当は旧作までこの記事で説明しようと思ったけど、ちょっと長くなりそうなので新作だけでご勘弁)
5. 『イニシェリン島の精霊』
5位は、マーティン・マクドナー監督の『イニシェリン島の精霊』
この作品は、今年のアカデミー賞にもノミネートされてましたね。とある問題作がほとんどの賞を掻っ攫っていったせいで受賞はできませんでしたが、個人的には、助演男優賞あたりはとって良かったんじゃないかと思います。
ストーリーはすごく単純。2人の男がずっと喧嘩してるだけ。
パードリック(コリン・ファレル)とコルム(ブレンダン・グリーソン)は親友だった。しかし、ある日突然コルムが口を聞いてくれなくなる。
実は僕も同じような喧嘩をしたことがあって。僕は喧嘩とは思ってないんですが、その事象に何か名前を当てはめるとしたら喧嘩なんでしょう。
僕がコルム側。だから映画中ずっとコルムへの共感で溢れてました。
映画内では、パードリック側の人間のことを"Good Man"、コルム側のことを"Thinker"と評して対比構造を作っている。Good ManはGoodである自分が否定される理由がわからない。コルムはパードリックがGood Manであるからこそ、無視という最大の拒絶を使わざるを得なかった。
この映画は観客それぞれのステータスによっても見方が変わってきそう。この映画の見方として、コルム側の人は喧嘩、パードリック側の人は拒絶(生き方の選択)という風に解釈が別れそうで、そこもおもしろいなと思いました。
4. 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
4位は、「スパイダーバース」シリーズ2作目『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
こーーーれ、激ヤバ映画です。。。
圧倒的な情報量を目の前に突きつけられて、映画の世界と現実の世界との境界線がわからなくなるくらいの没入感。
スパイダーマンの世界には、"カノンイベント"という、主人公の大切な人が死んでしまう避けられない展開があって、スパイダーバースに生きるあらゆるスパイダーマン達は、そのカノンイベントを受け入れるしかない。
もしカノンイベントを破ってしまったら、スパイダーバース全体に別の災害が起こってしまう。
でもこの作品の主人公・マイルズは、カノンイベントなんて知らねぇ!何が何でも救ってやるんだ!と周りの静止も聞かず突っ走る。「運命なんてブッつぶせ」のキャッチコピーの通りに、後先考えず目の前の大切なものを守ろうとする彼の若さ・青臭さに、僕達はいつの日か忘れてしまったエネルギーを思い出す。
同時期に上映されていた『ザ・フラッシュ』もマルチバースものなんですが、結論が全く違うんですね。運命を無視して突っ走るところまでは同じなんだけど、フラッシュは違う世界線の自分と出会い、彼を通して現実を受け止める。運命はブッつぶせないことを知り、でも身の回りの小さな分岐を正していく、という結びもすごく良かった。
比較はしても対立はいらない、それほどに両者とも素晴らしい作品でした。
3. 『TAR/ター』
3位は、トッド・フィールド監督の『TAR/ター』
この作品は一言で言い表すのがすごく難しい。というか不可能です。
とりあえずケイト・ブランシェットの怪演っぷりに言及しておけば、その場は収まりそうなものだけれど、作品の核心部分に触れずに解釈をやめてしまうのも何だか悔しいので、鑑賞中の自分の感情を一つづつ紐解いていきます。
主人公のリディア・ターは、世界的に権威のある女性指揮者。冒頭の死ぬほど退屈なインタビューシーンは、彼女のパーソナリティを言外に説明してくれる。
富・名声・力。全てを手に入れて、崇高な精神まで持ち合わせているかのように見えるターは、物語が進むにつれて、歪められたプライドに苦しめられる不完全で人間的な部分を見せ始める。ターの見ている世界と僕達が見ている世界がリンクし始めて、ターの世界が崩壊していく様を当事者のような気持ちで体験させられる。
張り巡らされた伏線は、彼女が作り上げた"完璧"な世界がいかに虚構だったかを伝えてきます。物語終盤、指揮権を奪われたターがコンサートに乱入する哀れな姿は圧巻。ターを一気に老け込んだように見せるケイト・ブランシェットの演技が生々しすぎて怖い。
こういう集中力が必要な作品は、映画を映画館で観ることの意味を再確認させてくれますね。
2. 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
2位は、ダニエル・クワン監督の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
「エブエブ」の愛称で今年の映画界を賑わせたこの作品のキャッチコピーは、「マルチバースとカンフーで世界を救え」。
マルチバースはともかく、カンフーでは基本的に世界は救えない。もし救えるとしても、それはアサイラム世界くらいでしょう。
そんなゲテモノ映画が、今年のアカデミー作品賞最有力候補として日本にやってくると聞いて、衝撃を受けた人も多いはず。
御多分に漏れず僕もその1人でして、公開当日は同日公開の『フェイブルマンズ』を見に行きました。しかし、それは大きな間違いであったと後に実感することに、、、
この映画の舞台は現代のアメリカ。主人公のエヴリンは、何をやってもうまくいかない中国系の中年女性。
すること全て空回り、何を始めても長続きしない、どこで間違ったのか苦しい人生を送ってきた。しかし、それには理由が。。。。
それは、このエヴリンが、"すべての選択を間違ってきた世界線のエヴリン"だったのです。
この多元宇宙(マルチバース)には無限の世界線が存在し、自分の選択によって世界線が分岐し続けた結果、現在の自分がある、ということ。別の選択をした自分がこの多元宇宙にはたくさんいるのです。
つまり、この映画はひょんなことから多元宇宙を行き来できる力を得たエヴリンが、カンフーの達人だったり、指がソーセージだったり、物言わぬ岩だったりする"別のエヴリン"と出会い、多元宇宙を脅かす怪物のような存在と戦い、対話して、世界を救う物語なのです。
作品内で最大の敵として登場するジョイ。度重なるバースジャンプ(並行世界を行き来すること)を繰り返した彼女は、多元宇宙の全てに絶望します。
無限とも言える時間を生きながら「本当に意味のある時間はほんのわずかしかない」ことに精神が耐えられなかったのです。確かに自分の人生を振り返ってみても、人生を通じて意味を持つような時間なんてほんのわずかですよね。
でもその真理に対し、この映画は「ならばそのわずかな時間を大切にしよう」というアンサーを与えてくれる。多元宇宙というとても規模の大きな題材を扱いながら、小さな世界・わずかな時間といった身近な所に答えをおいてくれる。そんな温かみが、この映画にはあります。
見ている間は情報量に圧倒されますが、見終わった時、あなたは多分ちょっと優しい気持ちになっているはずです。
1. 『福田村事件』
1位は、森達也監督の『福田村事件』
この作品は、2位までの作品と毛色が違いすぎて、1位として挙げるのが正しいのか正直迷いました。でも、衝撃を受けた映画であることは間違いないので、ここで紹介します。
この映画は、実際に起きた悲惨な事件を題材としたドキュメンタリー的な作品。1923年、関東大震災がもたらした混乱の中、とある勘違いから行商団が村の自警団に殺されてしまう。そこに潜む人間の心の闇が浮き彫りになる、そんな作品です。
この映画には様々な立場の人々が登場します。
殺された朝鮮人や行商団、村のために強行した退役軍人、止めようとした村人たち、止められなかった村長。
この事実を報道しようとした記者、書かせようとしなかった編集長。
結果的に無実の人が何人も殺されてしまうわけですが、僕は誰も間違ってないし、正しくもないと受け止めました。
大きな流れに身を委ねることの怖さ。正しいとされているものを無条件に正しいと受け取ることの怖さ。
考えろ、考えろマクガイバー。
正しいとされていることを1回立ち止まって考えてみることができる個人の力と、大きな流れに必死に逆らう人たちに寛容な社会の力が、
ほんとうの意味で"自由"な新時代には必要になってくるのでしょうね。
おわりに
ここまで、僕が思う今年の最強の映画をあげてきました。もちろん他にもたくさんのつよつよ作品があります。
巨体の男の葛藤を室内劇だけで見せた『ザ・ホエール』、大大迫力のジャズアニメ映画『Blue Giant』、ラストシーンのディカプリオの表情が苦しすぎる『キラーズ・オブ・フラワームーン』などなど。
元素たちが住む世界を描いたピクサー作品の『マイ・エレメント』も大傑作だったし、『タイタニック』の3Dリマスター上映も最高でしたね。
今年はこれまでの人生でも圧倒的に映画の占める割合が大きい一年でした。名作たちに殴られ続けることで、あやふやだった僕の価値観もある程度の形を成して来たのかなと思います。映画の持つパワーに気付かせてくれた今の環境にも感謝。来年もたくさんの映画に触れたいですね。では、良いお年を。