離れぬ幻影
欲しかったのはごめんねじゃなくて、楽しかったの一言でいいのよ
ーーーーーLaughing Hick「カシスオレンジ」ーー
この歌の他の部分に歌われているようなひどい人じゃなかったけれど、なかったから、別れを告げた時、本当に、そう思った。微塵も、「こんなに辛いなら最初から会わなかったなら」なんて思うことはない。そんなふうにさせてくれたあの人はすごい人だ。
さよならした、あの人の話。
つい先日、あの人が夢に出てきた。
夢にまで出てこないで、お願い、と懇願したくなった。
もう忘れたい、いや、忘れなくていいけれど、色褪せてほしい。
夢で会って分かったことは、私は未だあの人に会ったら縋ってしまうということ。夢の中の私がそうだったように。だからこそ、私が取った選択は正解だったのだろう。
すれ違いざまに、お互い気づいて、声を掛けて欲しくて反応して、けれど呼び止めてくれなくて、諦められずに追いかけて、一緒に歩いたけれど何もなくて。拒まれることも、歩み寄られることも。ただ、普通に、核心に触れることのない表層だけの会話を紡いだ。でも、もうあの頃の二人では無かった。
リアルな夢だった。いや、私の想像する「リアル」が反映されているのだから当たり前か。
最近、あの人が私のことをどれだけ見抜いていたのか、どれだけ私を見てくれていたのか、信じてくれていたのか、思い知ることが多い。私の知らなかった私を、あの人は先に言い当てていた。あの人が残してくれた言葉で励まされることも多い。
思い出にできたと思っていたのは、思い過ごしだったみたいだ。
あの日確かに私のために歌われたあの歌も、いつか新しい誰かのための歌になっていく。
雑踏ですれ違う男女を空目して、まだ心臓が大きく脈打って胸が締め付けられる私なのに。
傷つけたくない、大事にしたい、100%の気持ちで好きでいたい人がいるのに。
過去にできてなくてごめんなさい。
本当は、あなたと幸せになりたかった。