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霊の話 13 家族旅行で会った子どもの霊の話

家族旅行での話です。
私は家族と旅行に来て、ホテルで寝ていた時のことでした。

ふと、夢の中で見知らぬ子どもが話しかけてきます。自分は今、こんな生活をしていると説明してくれる男の子二人。雰囲気は10歳くらいと5歳くらい。半そでの黄色いTシャツに水色の帽子をかぶっている素直そうな男の子達です。

二人なのは間違いないのですが、なぜなのか私からはもう一人の方が認識しにくい感じで見えにくく、弟っぽい方が、お兄ちゃんの陰に隠れてしまったりぼやけるような感じに見えるのです。どうしてだろうと思いつつ、彼らの話を聞きます。

彼らは話します。普段は人気のない静かなホテルに二人で住んでいて、人に会いたくなったらホテルの外に行く。そうするとたくさん人がいて、寂しくない。ここでずっと人を見ている。と言います。

そうしながらずっとここで生活しているようでした。
彼らの意識内に創られた空間に、イマジネーションで作ったホテルに住み、ホテルの外には、彼らがイマジネーションで作った遊園地やレストランが並び、そこにはたくさんの人がいて活気があるのですが、でも、彼らは関わることができない。ただ、見るだけの世界。

自分が創った人ごみの中で、人を見て、人とすれ違い、人がいることで生命の中に存在しているかのように錯覚して安心している様子。イメージは全て、家族で行ったことのある場所で作られているようでした。なんだか、切なくなって涙が出てきます。

「パパとママは?」

私がそう聞くと不思議そうな顔をします。もはやパパとママという言葉も忘れてしまっているようでしたが、でも、聞くとより細かいイメージが流れ込んできます。

彼らはここ、旅先でなくなり、家族はもういないのです。そして、この意識世界はお兄ちゃんが作り出した世界。おそらくですが、流れ込んでくるイメージを見ていると、弟もお兄ちゃんと一緒に亡くなっていて、しばらくこの世界で一緒に過ごしていたようでした。

残像があるので多分少し前まで二人だったのだと思うのですが、弟の方は今はもうお兄ちゃんの意識世界に少しだけ意識のつながりが残っているだけのようでほとんど消えかかっていました。それで弟が認識しずらいのだとわかりました。

でももしかしたら、本当はお兄ちゃん一人の世界なのかもしれない気もして、弟がお兄ちゃんの作り出した幻想だったらと思うと、それはあまりにかわいそうで怖くて深く聞くことができませんでした。

この子達の意識から彼らの親に繋がると、この子達は、10年ほど前にこの私達の存在する現実の世界から旅立ってしまった事がわかりました。

彼らの親はもうこの世界では60代半ばくらいになっていて、様々な気持ちを乗り越え、静かに平和に暮らしているようなイメージが流れてきます。

10年も、こんなところに子どもだけでいたのかと思うとかわいそうで涙が出てきます。今の私の子どもも同じくらいの年齢なので、夢の中なのに胸が痛みます。

彼らにはもう時間の概念もなく、最初はずっと迎えに来てくれるはずだと待っていただろう親への期待の気持ちと、二人きりという寂しさと悲しみも、全てゆっくりと時間をかけて忘れ去っていました。

もう、今はただ、穏やかなあきらめと、生きているものに対するうらやましさが混じった生命というものを美しいと感じる気持ちと、その美しい生命を持った人の日々の営みを自分の記憶のなかから紡ぎ出し、それを眺めて過ごす日々だけが意識に残っていました。その日々が、彼らの孤独を癒しているようでした。

とてもとても寂しい意識でした。
それでも、もうほとんど忘れてしまったようだけれど

「毎日何かを待っていた。ような気がするんだけど‥。」

とそう教えてくれました。
彼なのか、彼らだったのかはもはやよくわかりませんが、彼らがこの感情に至るまでに乗り越えた様々な痛みを考えると胸が苦しくなりました。
涙がたくさんこぼれます。

「もしね、あなたが私の子どもだったら、あなたの感じた寂しさとその時間を考えると、私は悲しくて悲しくてどうしようもない気持ちになるの。きっと、あなたのお母さんもそうだよ。」

「だから、ここじゃない、もう少し幸せな場所に行かない?そこが良い場所かはわからないけれど、ここよりは寂しくないよ。」

と話しました。
もはや彼らは全てを忘れてしまっていて、待っているのは親ではなく、この彼らが創った小さな世界から解放される救いのようなものなのだと感じました。

自分が創った世界から、出ることができなくなってしまった彼らは、そこで何もかもをゆっくり忘れて、いつか何かが迎えに来てくれるような、何かが変わって今の状態が終わる事を願っているような、そんな感覚が流れ込んできていました。

そして、そこで私は目が覚めてしまいました。

ふと気が付くと、大きなゴールデンレトリバーの霊が私のベッド近くにたたずんでいます。

あぁ、君だったのか。と思いました。

申し訳ないと思いつつも、人でなくて安心したのと同時に、涙がぼとぼとこぼれました。私はレトリーバーをなでながら起きました。

少し意識を覗くと、弟は彼の中に存在していて、うっすらと柴犬である事が見えました。とても可愛い兄弟たちです。

黄色いTシャツ なるほどと思いました。彼は、彼の世界にたまたまリンクした私の意識を出口にして、現実の世界へと出てきたようでした。
なんとなくですが、その時彼の創った意識世界に戻る事はもうできないように感じました。

そうしてその日、大きくてふさふさの美しいレトリーバーの男の子は、自分を納得させているのか何なのか、一日中私達家族と一緒に過ごしていました。遊園地に行き、認識しているのは私だけでしたが、私の子どもたちに寄り添い、共に遊んでいる風な感じで家族のように過ごし、夕方にはゆっくりと光の中へと消えてしまいました。

わんこには、成仏という概念がなく、天国も、光の世界も、彼らにとって良いところなのか私もいまいちわからないので説明がしにくく、上げることはできても上がる事を同意してもらう事がとても難しいのです。

遊園地の中で彼から伝わってきたのは、もう待っている何かは来ないのだという確信のような気持ち。そしてその何かは、きっと大好きな人だったという事までは思い出しているような感じでした。

待っていた誰かともう一度一緒に過ごしたかったという気持ちを、私達と共に過ごしながら満たしたようでした。

夕方頃、彼がもういいや と感じているような感覚が伝わってきていました。でもそれは、投げやりな気持ちではなく、もう大丈夫ともとれるような、穏やかに納得した感じのもので、ハートがふわっと開いていくような不思議な感覚のものでした。

大好きな人を待つのをやめた事で、孤独でいる必要がなくなった事がわかったようでした。

なんとなくでも、ここではないところに行ってみようと思ってくれた事に安心して私は彼が光へと進んだことを見届け、どうか彼が、もう独りぼっちではないようにと 心から祈ったのでした。

そして、帰り際に気づきました。

そのホテルのエントランスには、レトリーバーと柴犬のオブジェが飾られ、仲良く宿泊者をお迎えする様にたたずんでいるのです。もう、中には何かがいる気配はありませんが、この中にずっといたんだねと、思いました。

思ったほど、孤独な場所ではなかったことに少し安心しました。


どうかどうか、彼らが永遠に幸せでありますように。


続く

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