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彼女と本屋に行った日のこと
【2025/1/18(金)】
先日、本が好きな子と好きな本屋兼カフェに行って過ごした。
その子とお茶するのは初めてで、10歳以上も年下で、緊張はしつつも楽しみにしていた。前に彼女に借りた本はどれも優しい物語で、大切にしているのが一目わかるくらいに折り目も汚れもなかったから、持ち主にも同じ印象を持っていた。
前日やその日の朝は、とても腰が重い。楽しみなのに億劫になる。行けば楽しめるのに、なんだか胸がざわざわしだす。
そもそも雰囲気のある店で過ごすのが苦手だ。誰かとなら足を引きずって向かい、「こういう場所好きです」ってすました顔して入店する。平気なフリはたぶん店員や他の客にはバレているだろう。いや、自意識過剰なだけで、周りの人間は私のフリなんてどうでもいいことは知っている。でも、なんだかリラックスして過ごすことができない。まるで意味のない虚勢をはってしまう。おしゃれなカフェや雑貨店、絶対に美味しい町中華やラーメン店、ブランドのコスメカウンターなどなど。どうしても行きたいときは、なるべく人は避けて他人を誘う。前を歩いてもらって、その背中から垣間見て、入店を試みるのだ。
ちなみに夫にこの話をしたら、全然共感を得なかった。物怖じしないと言うか、彼は一人でどんな店でも入る。私が行きたいけどちょっとこだわりつよそうな(いい意味で)店だから、と渋っているうちに店の扉を開けている。一人で外食も見事なまでにやってのける。定食屋ならまだしも、有名な花屋も高級ジュエリー店もその服装で?!と何度思ったことか。ゆえに、私のざわざわについて「ひとつもわからん」と真顔で言われた。私としては彼の神経のほうが一ミリもわからない。
相当話がズレたが、そこの本屋兼カフェも行くたびにドキドキする。扉の前で引き返そうかと何度も思う。でもそこに並ぶの本なら、見たいしきっと欲しくなる。選書がとても好みだから行きたい。カフェを利用しないなら本屋だ。本を買って帰ればいいのだ。引き戸に手をかけて、思い切って右にスライドさせる。そして本棚の前に立って仕舞えば、やっと雑念から解放される。
でもその日は、その子と本屋だけでなくカフェもする。先についていつもみたいに本を物色する。あれもこれもほしいなぁ。あ、この著者知ってる。新刊出たんだ。これからの時間を想像しないように、本だけに集中する。やがて程なくしてその子もやってきた。わぁ、と緊張に達している心を殺しながら笑顔で手を振る。始まってしまう。まだあまり互いのこと知らない二人のお茶の時間。
テーブル席が空いていたので荷物を置き、先に注文を済ませてまずは一通り本棚を見ることにした。席を立って徐に左右に分かれて本棚を目指した。ほっとした。自然とそうゆう流れになったことを。こうゆう場所には誰かと来たいくせに、いざ買い物となると一緒に並んで選びたくない。会話しなくてはと気を遣うからだ。だけど、改めて思うと私たちが選んでいるのは本だ。服や化粧品とは違う。意見がほしいものではなかった。それぞれ分かれてひとりの世界に入るのは、当然のような気もする。
注文したドリンクとケーキがテーブルに置かれるまで、会話なく本を眺め続けた。それがとても心地よかった。それから席に着いてどの本が気になったとか、前に貸し借りした本の感想だとかどちらかともなく話した。あとはいつから本が好きか、好きな作家さん、彼女が行った文学フリマのことなど。次から次に話題が出てくる。
「さっこさんは、書いたりしないんですか」
ふと、彼女からの質問に、本の話に舞い上がっていた私は「書いたりしてる」と言ってしまった。直接的に関わっている他人で知っている人ももちろんいるけど、あまり自分から口にしたことなく、言ってから顔絶対に真っ赤になってる!と断言できるほど熱くなった。なんだろう。恥ずかしいとか烏滸がましいとか偉くもないのにそんなこと思って、消えていた緊張が迸るほどよみがえった。その一言に、彼女は目をキラキラさせていた。
自分の話を早々に切り上げて、似たような本の話題に花を咲かせた。店に入った時とは違う鼓動の速さを感じながら、それぞれに本を買い、もう一店別の本屋に出向き、解散した。
総じて、良い日だっと思う。いつもは早く帰りたくなるのに(行きたがったくせに)、そんな気持ちは微塵も感じなかった。帰りの電車の中で、「外国文学については話したけど、今読んでる日本文学についても話したかったな」と感想が出てくるほど。
本を読んでも、映画を観ても、感想を一方的に披露している。作品から得た想いを書き殴って気持ちよくなってる。それでいいと思ってる。分かち合えるのもいいけど、感じたものはひとりのものだ。
でも、こうして話して、違うものを足すのはいいな。自分では選ばないだろう本や思考を手にできた。互いに想いを晒して、それをまたひとりで反芻して、構築していく。より心が豊かになりそうだ。
素敵な雰囲気のある空間にも、やがて慣れたい。平気なフリをせずに正直に慣れてない顔のまま、純粋にその場を楽しみたい。
自分のために、そんな時間を設けようかなっと思える有意義な一日だった。