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矢倉中飛車は振り飛車か

藤井聡太が振り飛車を指した?

2024年8月19・20日に行われた王位戦第4局。藤井聡太王位が「矢倉中飛車」戦法を採用したところ、スポーツ紙が「公式戦453局目で初めて振り飛車風の戦型を選んだ」と報道。多くの将棋ファンがすかさずツッコミを入れた。
「いや、矢倉中飛車は振り飛車じゃないでしょ」

将棋歴40年近い私も「なんちゅう解説や」と呆れてしまった。しかし一度は立ち止まって考えてみる。なぜ矢倉中飛車は振り飛車に分類されないのか。そもそも振り飛車の定義とは何なのか?

対話篇

賢者 矢倉中飛車を振り飛車扱いするとは、アクセス稼ぎの煽りが過ぎるわ!
ぼく では振り飛車とは何か。
賢者 振り飛車は将棋の二大戦法の一つ。序盤において、初形で右翼にある大駒の飛車を左翼へ展開するもの。Wikipediaにそう書いてある!
ぼく 矢倉中飛車は序盤で飛車を5筋に展開する。5筋は左翼に含まれないのか。

矢倉中飛車

賢者 通常の中飛車は振り飛車に含まれる。よって5筋は左翼に含めてよい。
ぼく では矢倉中飛車も、序盤で飛車を左翼に展開していることになる。となると振り飛車ではないか。
賢者 違う。矢倉中飛車は飛車を動かす前に飛車先を突くではないか。あれは居飛車の動きだ。
ぼく 飛車先を突いてしまったらもう振り飛車にはならないのか。
賢者 ……
ぼく よ・う・ど・う・ふ・り……
賢者 皆まで言うな。陽動振り飛車は振り飛車だ。
ぼく なぜだ。飛車先を突いてから飛車を左に動かすが。

陽動振り飛車

賢者 あれは飛車先を突いたふりをして、銀冠や大山美濃の駒組みを先取りしているだけだ。相手を欺く動きよ。陽動たる所以だ。
ぼく そうか。陽動振り飛車で銀冠まで進む例は少ないが。まあいい。飛車先を突いても振り飛車になることがある。では矢倉中飛車はやはり振り飛車ではないか。  
賢者 違う。矢倉中飛車は振り飛車の作戦思想に反する。
ぼく 振り飛車の作戦思想とは何か。
賢者 玉を右に囲うことだ。将棋の初形では、自陣の左翼は相手の飛車角がにらむ危険なエリアになる。だから玉は安全な右翼に囲うべきなのだ。ただし飛車が2八にいたままでは玉を右翼に囲うことができない。そこで先に飛車を左翼に動かすのだ。藤井猛の『四間飛車上達法』にそう書いてある! 
ぼく 矢倉中飛車は玉を左に移動するから振り飛車ではないということか。
賢者 そうだ。陽動振り飛車なら玉を右に囲う!
ぼく では飛車を左に移動し、玉を右に囲うのが振り飛車か。
賢者 そうだ。
ぼく 右玉は振り飛車か。
賢者 右玉は振り飛車ではない。

右玉

ぼく なぜだ。飛車を左に移動し、玉を右に囲う戦法だが。
賢者 あれは玉を右に囲った後に、地下鉄飛車にして飛車を左に移動する戦法だ。
ぼく それは振り飛車ではないのか。
賢者 違う。玉を囲うのに邪魔だから飛車を先に移動する。その順序が振り飛車という作戦思想の体現なのだ。そもそも右玉では飛車を2九に置いたまま使うこともあるではないか。
ぼく わかった。話を整理しよう。①先に飛車を5筋より左に移動する。②その後に玉を右に囲う。これが振り飛車か。
賢者 そうだ。
ぼく ところでこの局面は何という戦型か。

賢者 「相振り飛車」だ。
ぼく つまり先手も後手も振り飛車だな。
賢者 そうだ。
ぼく なるほど。その後、こういう局面になることがしばしばあるが。

賢者 ……
ぼく 先手は何という戦法を指しているのか。
賢者 「中飛車左穴熊」
ぼく 先手は玉を左に囲っている。矢倉中飛車と同じだ。先ほどこの将棋は相振り飛車、つまり先手も後手も振り飛車だと言っていたが、中飛車左穴熊は振り飛車か。
賢者 ……
ぼく 中飛車左穴熊は振り飛車か。
賢者 ……
   ……
   ……
   ……「力戦」!

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なお、矢倉中飛車は振り飛車ではありません(断言)

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