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フランスで落としもの

英語に、こんなことわざがある。

Findings keepings.
拾ったものは、自分のもの。

日本で生まれ育った私には「!?」な概念だけれど、昔住んでいたフランスでも同じ考えの人が多かったように思う。

古くは古代ローマの劇作家プラウトゥスが言ったこの言葉に、すでに表れている。

Habeas ut nanctu's.
見つけた人が持ち主になる。

フランスで落としものをすると、落とした人に非があったという対応をされる。

盗った人はたしかによくない。でも、そこにあったのだから、仕方ない。盗りたくなってしまうのが人間、という考え方。  


カフェで日本人がスマホをテーブルに置いておしゃべりしていると、「これはだめだよ、閉まって」と注意してくれる人がいる。


かばんを置いたまま席を離れると、戻ったときにかばんがないかもしれない、とフランス人なら考える。めんどうだけれど、なくなって困るものは持ち歩く。本当にめんどうなので、荷物は少なくて済むように意識しはじめる。


フランス人の友人と日本でエスカレーターに乗ったとき、前にいる男性のジーンズのポケットから長財布がはみでていた。

「盗ってほしいのかな!?」

と友人はとてもふしぎがっていた。


盗られそうなことをわざわざしていると思ったらしい。

「ぼくは盗るつもりはないけど、ノリでスッと引き抜いてあげたくなっちゃうよ」と笑った。


フランスで落としものをして、返ってくることはほとんどないと言われる。

どんなときも盗られる隙のないように暮らしていた私は、日本でもなかなかその癖が抜けなくて、荷物やスマホを置いたまま注文に行ける人たちを見てちょっとうらやましくなる。

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