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一時間ヤキイモ

新得町の公園にあるライダーハウスでのこと。

夜、建物の隣に設置されたバーベキュー台に座り、たった一つのイモを見つめ続ける二人がいた。


「もういいんじゃないですか?」
しびれを切らした私が言う。

同じ無料ライダーハウスに泊まる30代後半とおぼしき男性が時計を見る。

「あと15分だね。」

今はガマンの時間、、、


さかのぼること一時間半前、沖縄から来たという野性味あふれる旅人と焚き火をしながら晩ご飯を食べた。


火も落ち着いて、薪はいい感じの熾になり、ジワジワと温もりが伝わってくる。
そして、ふと思った。

この熾火なら、アルミホイルがなくても焼きイモできるのでは?

表面が焦げない温度でジワジワ温めれば、アルミホイルがなくても焦がさずに中まで火が通るのではないだろうか。

すぐさまリュックに一本だけ入っていたサツマイモを持ってくる。
前に焼きイモをした時の余り物である。

網の上に置き、焦げないよう小まめにひっくり返しながら火を通していく。
アルミホイルなしでも遠火なら焼きイモはできるのか。


30分ほど経過した頃、指先でイモをにぎにぎしてみると外側が柔らかいではないか。
こうなったら一時間かけて柔らかい焼きイモを作ろうではないかという結論に至った。

そして、きっかり一時間が経った。
皮が剥けた所にお箸を刺して柔らかさを確かめる。


プス、、、

「あっはっはっはっ!これ、刺してみてください!」
お兄さんにお箸を渡す。

プス、、、

「あっはっはっはっ!」

それは柔らかいなんてものじゃなく、箸先からは笑ってしまうくらいにトロトロした感触が伝わってきた。

これはすごいものが出来あがったと、興奮しながら手にとったイモを半分にする。

黄金色に輝くあつあつのイモをひとかけ口にいれてみる。

焼きイモ特有のものだと思っていた口の中の水分奪われるモチャモチャ感が全くない。
一時間イモは甘くなめらかにとろけていった。
同じ店で買ったイモが前回は何の変哲もない味だったのに。

100円のイモがこんなにウマくなるとは。

なんと非効率的な愛すべき時間のかけかたであろうか。

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職人の日記
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