人間としての欲求や希望はだれもが同じ
「あなたはイギリスにホームステイした経験があるんだよね?
イギリスってどんな国?」
時々こんな風に聞かれることがあるのですが、問いかけがざっくりし過ぎている、という以前に、とても答え辛い質問だなと思います。
確かにロンドンの一般家庭に滞在はしたものの、一年にも満たない短期間で、これこそがイギリス、などと総括するのは無謀というものです。
かといって日々の細かなあれこれを伝えても、それはあまりに個人的な話にしかならず、一体何をどうお伝えすべきかと迷います。
けれど、日本人とイギリス人の共通点は?と聞かれたら、特に女性において、断言できることがひとつあります。
まだ緊張も解けきらない、滞在初日の夜のこと。あなたの好きな英語は何?とホストファミリー夫婦に尋ねられ
「at half price(半額)ですね」
即答すると、二人は体をゆすって笑いました。
「私もその言葉が大好き。それに、70%off、いえ、90%offならもっといいわ!」
「女性はどの国の人もみんな同じなんだね。僕たちはきっと上手くやっていけそうな気がする」
笑いながら、それぞれそんな風に言ってくれたことを覚えています。
買い物が好きではない、という方ももちろんいらっしゃるでしょうが、何か特別なものを手に入れるのは、やはり心が浮き立つような瞬間であり、そこに国や人種の隔たりはないのだと知ることができた一幕です。
外国人の友人たちに言わせると、日本ではその体験は特に嬉しいものになるそうで、それというのも「日本のお店で嫌な思いをさせられることはまずない」から。
あなたたちの国では、そんなに買い物で不快な目に合うのと聞くと、多くがうなずきましたし、こう言った人もいました。
「国にいる時は当たり前だと思ってたけど、久しぶりに帰国してびっくりした。なんで店員があんなに偉そうで不機嫌にしているの!?」
知り合いやお馴染みのお店は別にして、お客の方が店側に気を使わなければならないし、とも。
これは私も経験があるため理解できます。
ヨーロッパでお店に立ち入る際、お客は必ず挨拶をし、対する店員さんは椅子から立たず、目も上げないことすらありました。
それに引き換え日本のお店で挨拶やお礼がないのはよほど稀で、愛想よく微笑まれるのも当然です。
けれどこれは国際的には極めて稀で、日本のファミリーレストランで受ける接客は、私たちの国では高級レストランにでも行かなければ望めない、と南米出身の人が笑い話のように話していました。
これは完全に意識の差であり、日本ではお金の関わる場で、上位に立つのは支払う側です。
お店側は、買っていただく、という姿勢はあっても、売ってあげる、という態度はまずめったに取らないでしょう。
けれどその分、“お客様”の振る舞いに疑問を感じたことが、学生時代のアルバイトでありました。
絶対に自分には合わない、とわかっているため、あえて短期間の契約で入店したハンバーガーチェーン店のカウンター業務でのこと。そこで、お客さんの誰とも目が合わないのに驚きました。
皆、メニュー表や商品を見て一方的にオーダーを済ませるだけで、店員を人として見ていないのか、まるきり無視も同然です。
そこで長く働く人には気にならないことのようでしたが、私にはやはり馴染めず、予定より早く退店しました。
よく称賛される、日本のお店の接客技術の高さと心地よさ。受ける側は、ひたすらそれを享受するだけで良いのでしょうか。
店員と客、という固定された関係では、それも自然なことなのかもしれませんが。
けれども私はそれを不自然に思うため、お店に入る時には海外と同じく自分から挨拶をし、何かしてもらえば店員さんに都度ごとに感謝を伝えます。
それで嫌な気分になる人はいませんし、いきなり常連並みの対応をしてくださったことすらあります。
下心あっての振る舞いでなく、せっかくならば相手も自分も、お互いに気分よく過ごしたいと思うからそうします。
「人間としての欲求や希望はだれもが同じ」
オプラ・ウィンフリーが言うのは本当で、客や店員という立場にこだわることなく、人として接することで、買い物の時間が双方にとってより良いものになるならば、こんなに幸せなことはありません。
イギリス人と日本人。
お客と店員。
結局のところは皆同じ人間であり、欲求や希望も同じ。
そう考えると、なんだかずいぶん色々なことがすっきりと簡単になる、と単純な私は思います。