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7月の詩

夏の幸せな時間とき
世界はまるで花のよう
ほほえみの時節ときが来た


6人のきょうだいが活躍する"ケティ・シリーズ"で知られる、アメリカの国民的作家スーザン・クーリッジ
文学作品のみならず数多の詩も残した彼女は、その名も『7月』という自由詩にこう綴りました。

この短い詩には、待ち焦がれたまばゆく明るい季節への、浮き立つような期待がいっぱいにあふれています。


◇◇◇


夏のそんな気分を愛した人は数えきれず、たとえば日本では宮沢賢治が『夏の日の思い出』に書いています。


夏の日のことを思い出すとき

いつも私はほほえみがこぼれる


夏の一日を回想する賢治の胸に広がっていたものは、どのような幸福な思い出か。

それはもしかすると、もうひとつの詩『夏の匂ひ』に描かれたように、一見すると何気ない、素朴な自然の豊かさを背景としたものであったのかもしれません。


朝顔の 匂ひのする 朝だ

蝉の声に 匂ひのする 日だ
森の奥から 風が吹いて来て
杉の葉の 匂ひのする 夕だ
山の端の 雲の 匂ひのする 夜だ
星の光の 匂ひのする 夜だ
月の光の 匂ひのする 夜だ
朝顔の 匂ひのする 夜だ
蝉の声の 匂ひのする 夜だ


◇◇◇


このような穏やかかつ胸に沁み入る、夏の得難い空気感を、フランスの象徴派詩人ポール・ヴェルレーヌもまた『夏の午後』にて謳いました。
それも、いつになく柔らかな筆致でもって。


夏の午後の静けさよ

疲弊した心を癒してくれる
穏やかな日差しが輝く中
想いは遠くを彷徨さまよいゆく
木々の葉は動かぬまま
川も静かに流れをゆく
鳥のさえずりも聞こえぬ
この静寂の中
時は止まり
物想う心地して
全てが眠りに就く
この静かな午後には
生きることの意味がわかる
疲れた顔に密やかな微笑が浮かぶ
このひと時


◇◇◇


詩人のやる瀬無い心情をも慰める、夏の森閑とした午後。
そんな時間のもたらす素晴らしさについて触れた作家といえば、イギリスのヘンリー・ジェイムズでしょうか。

その手による一文には、夏の宝石のごとき時間の貴重さが、これ以上ないほど簡潔にあらわされています。


夏の午後、夏の午後

それは私にとって、常に最も美しい言葉だった


◇◇◇


フランスの国民的詩人イヴ・ボネフォアもまた、ジェイムズに強い賛意をおくる一人でしょう。
フランス詩壇の母性とも讚えられた彼女は、誰しもに覚えがあるような、人生の幼年期にまつわる多くの詩を書き残しました。

その中でも『夏の日の記憶』は、読む人の胸に最も強く訴えかけるものかもしれません。

夏の日差しは、地上のみならず人の心の内にも降り注ぎ、そこに仕舞われた何もかもを明るく照らします。
そのため夏の日の一刻一刻は、特別な輝きを帯びて見えるのでしょう。

その素晴らしさをのちに大切に懐かしむのも良いものながら、やはりその瞬間ごとに、得難い貴重さを意識して生きられたなら、夏の時間の輝かしさもいや増します。

これからやって来る夏が、どなたにとっても、またとない光るような日々となりますように。


木陰に落ち着き 

私は静かに
幼き日の夏を思い出す

その頃の日差しはもっとまぶしく
その頃の空はもっと高かった
麦わらの帽子をかぶり
裸足で野原を駆け回った
蝶々を追いかけ
花に手を差し伸べて
小鳥のさえずりに耳を傾けた

あの無邪気な日々はもう戻らない
だがその記憶は心に残る
幸せなひと時 
輝く思い出
夏の日のなつかしき日々


(全訳詩・ほたかえりな)




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