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12月の詩

寒風。こがらし北颪きたおろし。玉風。雪風。北風ほくふう朔風さくふう。神渡し。
多彩な呼び名を持つ、幾種類もの冬の風。
これらが激しく吹く時節が、今年もまた巡ってきました。

"冬の詩人"とも呼ばれる高村光太郎は、冬にまつわる数多くの詩をしたため、いずれもこの季節ならではの景色と心情を鋭く描き出しています。

なかでもここでご紹介する『冬の詩』は、身も引き締まる厳しい季節に立ち向かわんとする、挑むような、自らを鼓舞する決意に満ち、他の作品とは一線を画しています。


冬だ、冬だ、何処もかも冬だ 

見わたすかぎり冬だ 
再び僕に会ひに来た硬骨な冬 
冬よ、冬よ 
躍れ、叫べ、僕の手を握れ

冬だ、冬だ、何処もかも冬だ
見渡すかぎり冬だ
その中を僕はゆく
たった一人で……


◇◇◇


高村の詩の根底に流れる厳冬期の寂しさ暗さを、隠すことなく正面から取り上げたのが、アメリカの詩人サラ・ティーズデールです。
クリスティーナ・ロセッティに影響を受けたティーズデールは、将来を嘱望される詩人でありながら、30代の若さで自死を遂げました。

それでも1928年出版の詩集に収録された『冬の星座』は、一世紀近くを経た今もなお、色褪せない現代性を備えています。


夜になり、私は独り外に出た

海の彼方で流れる若き血が
私の魂の翼を濡らしたかのようだった──
深い悲しみに沈み込み
雪の上に揺らぐ自分の影から目を上げると
東の空にオリオンが
昔と変わらず燃えるのを見た
少女の頃、冬になると家の窓から
街明かりの彼方にオリオンを見上げ夢を見た
年月は過ぎ、夢は去り、若さも消える
世界は度重なる争いに心を砕かれ
全てが移ろう中でも変わらぬものは
東の空に輝く星々の美しさだけ


◇◇◇


冬の寒さが人をとりわけ内省的にさせるのは確かなようで、フランスの詩人フランシス・ジャムもまた、この季節を舞台とする連作を手がけました。

1897年発表の詩『雪が降りそう……』でも、ピレネー山脈のふもとの村オルティーズの居室を舞台に、冬ならではの静謐さとそこに漂うメランコリーを描いています。


あと数日のうちに雪が降りそう

私は去年のことを思い出す
あの悲しみを暖炉の側で
「何かあったの?」
誰かに訊ねられたなら
きっと私は答えだろう
「いいえ何でもありません
どうか放っておいてください」


◇◇◇


ジャムが予感した雪はエミリー・ディキンソンの詩『鉛の活字が降りかかる』にて、全てを白く染め上げる一面の雪景色となって広がります。

この不思議な題名、そして謎めいた書き出しは、ディキンソンがこうむった、とある出版社とのトラブルが原因とされています。
あらゆるものを白一色で埋め尽くす雪に詩人がどんな思いを託したかは、様々な想像の余地がありそうです。

いよいよやって来た冬が、厳しく険しいのみならず、時に穏やかで優しい顔、そしてその美しさをも存分に見せてくれるよう祈ります。


鉛の活字が降りかかる
私の詩文に降りかかる

森に小径に
真綿の雪が降りかかる

山も野原も どこもかしこも平らになって
東からぐるりと巡ってまた東
休みもせずに降りかかる

柵を埋め 線路を包む
真っ白な和毛にこげのような天のヴェールが


(全訳詩・ほたかえりな)





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ほたかえりな
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