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奇跡のジュエリー

シャンカリ。異国的情緒あふれる、この名前のあとに〈効果〉〈体験〉〈マジック〉などの言葉をつなげられるなら、あなたはきっと私の友人同様、不思議な世界に興味のある方のはず。

「今度の土曜日、バリから帰ったあの子をお店に迎えに行くけど、一緒にどう?」

友人からのメッセージが突然に届き、ついに私もシャンカリに会える、と意気んでもちろん、と返信しました。

とはいえ、“あの子”も“シャンカリ”も人ではなく、バリのソウルアルケミストが生み出した、愛と光と変容をもたらす奇跡のジュエリーです。

…お気持ちはお察しします。私も初めて聞いた時、どんな顔をすればいいかわかりませんでした。


シャンカリはインドネシア・バリ島に住うシャンカリさんがデザインした、聖なるジュエリーとも呼ばれる装飾品です。
その通り名の理由は、シャンカリさんがただのジュエリーデザイナーでなく、シャーマンであり、ヒーラー、セラピスト、スピリチュアルティーチャーなど、精神世界に関連する多くの肩書きを持っているから。

シャンカリさん本人が運営する工房〈シャンカリ・バリ・ビラ〉で製作された品だけがシャンカリの名を与えられ、バリから世界中に旅立ちます。

面白いのは、それらのジュエリーたちは作られた時からすでに行き先が決まっている、と言われることです。
必ず、心からそれを必要とする人のところへ届けられ、その色・石・モチーフの持つ波動で、持ち主をサポートし、人生を変えるとまで言われています。
だからこその“奇跡のジュエリー”です。


実際のシャンカリたちはどれも華やかで凝ったデザインで、他ではあまりお目にかかれない、印象的な美しさを持っていました。
彫金細工に縁取られた天然石が光をたたえ、これは手に入れたくなる気持ちもわかる、と思いつつ値札を見ること数秒。
私は黙ってテーブルの上に、手にしていた指輪を戻しました。

ありていに言えば、シャンカリは大変に高価です。同じような天然石を使ったアクセサリーとは比べ物にならないほどに。

私が1万円くらいかと予想したローズクォーツとオニキスの美しい指輪は、その13倍の価格でした。
他の豪奢なペンダントトップも、イヤリングも、色合わせが素敵で目移りしますが、どれも私のお小遣いでは厳しそうです。

オーロラ色の壁紙が張り巡らされ、あちこちに神々しい神様や天使の絵姿があふれるこのスピリチュアル・ショップは、以前から興味のあったお店でした。

「別にそれほど変わってないよ、そこらのお店と一緒」

そんな友人の言葉は偽りだと気づいたのは、入店してすぐのこと。常連客である友人を迎える、お店の方の挨拶がなかなかにふるっていたのです。

「こんにちは。ますます女神度アップしましたね!」

女神度アップ、という未知の評価にたじろぎましたが、友人も笑顔で挨拶を返しましたし、店内の他のお客さんたちも誰一人いぶかしげな顔はしていません。
誰も傷つけない挨拶ですし、少々風変わりながら、平和そのものの感じです。

友人がそのままお店の方と雑談を始めたため、私は一人で店内を見回りました。
どの天然石やヒーリンググッズも綺麗で惹かれましたが、やはり折よく開催されていたシャンカリフェアが気になります。
サテン布が敷き詰められた大テーブルに飾りつけられた数々のジュエリーは、店内でもひときわ異彩を放っていました。

テーブル周りで熱心に品定めをする人々の中、とりわけ目立つ男女二人連れはヒーラーらしく「この間のレイキ・ヒーリングのセッションは」「ジュディスさんのチャネリングは」などという会話も新鮮です。

他には年輩の白人男性やマダム風の女性グループ、学生さんらしきカップルなどが次々と来店し、シャンカリの幅広い人気と知名度を実感しました。


帰り道、友人の胸元には、メンテナンスを終え輝きを取り戻したシャンカリのネックレスがまばゆく揺れています。
使っているうちに出る不具合の調整は無料だそうで、このあたりもシャンカリが深く愛される理由かもしれません。

「私もひとつ欲しくなったな」

そう言うと友人は神妙にうなずきました。

「最も必要なタイミングが来たら、シャンカリのほうからやって来てくれるよ」

ここ一年で友人は念願の転職を果たし、人間関係に大きな変化もありました。それはシャンカリのおかげである、と本人は強く信じています。
それが真実かどうかはさておいて、シャンカリによって勇気をもらい、機嫌よく幸福でいられるのであれば何よりです。

友人の言うように、私にもそのうちタイミングが来るのでしょうか。
いつかシャンカリを手にできる日を、気長に待ってみようかと思います。

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ほたかえりな
最後までおつき合いくださってありがとうございます。勝手気ままなノートですがお気に召したなら幸いです。 ご厚意はもっと良いものを書くための励みとしたいと思います。