ほたかえりな

本や映画の中の言葉。日々感じたり考えたこと。とりとめもないあれこれについて書いています。

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  • 12ヶ月の詩のつめあわせ

    一年を通し、それぞれの月にちなんだ詩や文章を集めた、季節の言葉のコレクションです。

記事一覧

物語は置き薬

「私が人生を知ったのは、人と接したからでなく、本と接したからである」 アナトール・フランスの言葉を知った時、思わず笑みが浮かびました。 なぜならフランスは、一言…

12

青く染まる

フィンセント・ファン・ゴッホがパリからアルルに越した時、その目当てはポール・ゴーギャンとの共同生活の他、自らの身をある国に似た環境に置くということもありました。…

95

美と翳を背負い生きた人

「友達?それは午前3時に "人を殺した" と電話ができて、"遺体はどこだ?" とだけ返してくれる相手のことだ。」 いささか、というよりかなりかなり物騒な物言いですが、こ…

95

考えるを考える

人生は誰かを打ち負かすなんてケチなことのためにあるんじゃない。 ─── 岡本太郎 ある人の話で、深く納得させられたものがあります。 その人が中学生の頃、クラスに一…

91

「これでもうシャツを捨てずにすみますね」

私は安い靴を買うほど裕福ではない。 (イギリスのことわざ) 「最近何か面白いことがあった?」 いかにも話題切れの際に持ち出されそうな質問ですが、私ならこう答えるで…

ほたかえりな
2週間前
100

9月の詩

1933年8月、一人の女性が夏の終わりと共にメキシコから旅立ちました。 彼女は長期にわたる彼の地での滞在中に詩を書き連ね、それは数年後に詩集『悲しみの庭』として出版さ…

ほたかえりな
2週間前
138

想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である・2

旅をすることは生きることである。 ── ハンス・クリスチャン・アンデルセン どなたが話していたのだったか、興味深い話をお聞きしました。 その人は父親を早くに亡くし…

ほたかえりな
3週間前
118

ふんわり仕立てのアナキズム

"初対面の時とよく知り合ってからだと別人のように思える"とは私がこれまで幾度となく言われてきたことで、その理由はといえば、私の外見と中身がいかにも不釣り合いだから…

ほたかえりな
3週間前
105

想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である

「見て、あの窓」 犬との夜の散歩中、すぐ後ろから、ご夫婦らしき二人の会話が聞こえてきました。 「あそこって、職員室だよね?」 「そうだっけ」 「役員の時に行ってる…

ほたかえりな
1か月前
138

ありきたりの尊さ脆さ

あれ、なんだか蒸し暑いなと感じたのが午前4時半過ぎ。エアコンをつけたまま眠っていたはずなのに、作動音が聞こえません。 起き上がって周囲を見回してみると、そこはか…

ほたかえりな
1か月前
86

1945年8月に私も犬を飼うだろう

日本が諸外国との長い戦いを終え、ようやく"戦後"が始まったのは、79年前の今日、8月15日です。 私はその日を語る多くの手記や映像に触れてきましたが、中にとりわけ印象…

ほたかえりな
1か月前
100

最高の話し方指南

「オリンピアンもきついな。たったいま試合が終わったばかりで、もう次のオリンピックの話をさせられるんだから。 自分なんか、満腹の時に次の食事のことを聞かれただけで…

ほたかえりな
1か月前
109

誕生日でなくても幸せ

「株価下落がブラックマンデーを超えた!」 数日前の午後、友人からそんな短いメッセージが送られてきました。 友人は多くの株を所有しているため、日々関連ニュースのチ…

ほたかえりな
1か月前
116

まずは、よくできました

確か先々月の始めだったか『朝活で前世を生きる』という話を書きました。 そこでの内容通り、私の午前4時台起き生活は今も続いています。 日の出前に起き出して、犬と近所…

ほたかえりな
1か月前
85

8月の詩

「海、遠い海よ!と私は紙にしたためる。 ── 海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」 1930年に出版…

ほたかえりな
1か月前
185

甘える甘えない以前の話

犬と猫の違いは何か、あげれば長いリストが出来るでしょうが、"人との距離感"もおそらくそこに加わるでしょう。 私は犬としか暮らした経験がなく、猫といえば地域猫に友人…

ほたかえりな
1か月前
90
物語は置き薬

物語は置き薬

「私が人生を知ったのは、人と接したからでなく、本と接したからである」

アナトール・フランスの言葉を知った時、思わず笑みが浮かびました。

なぜならフランスは、一言一句が星のような美しさをたたえた『エピクロスの園』の中で、人間はあまりに本と幻想を好み過ぎ、現実を生きていない、と苦言を呈していたからです。

それでも、私は彼の言葉を全く自分のこととしてうなずけますし、かつての自分が、まさにそうであっ

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青く染まる

青く染まる

フィンセント・ファン・ゴッホがパリからアルルに越した時、その目当てはポール・ゴーギャンとの共同生活の他、自らの身をある国に似た環境に置くということもありました。

それが叶った喜びを、ゴッホは弟テオ宛ての手紙に書いています。

「ここにいると、まるで日本に来たようだ!」

19世紀後半のヨーロッパ、ことに美術界を席巻したジャポニスムはゴッホの心も捉え、"陰鬱なフランス"とはかけ離れた、"光り輝く日

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美と翳を背負い生きた人

美と翳を背負い生きた人

「友達?それは午前3時に "人を殺した" と電話ができて、"遺体はどこだ?" とだけ返してくれる相手のことだ。」

いささか、というよりかなりかなり物騒な物言いですが、これは自らについたイメージを利用した、際どいユーモアに過ぎません。その裏にあるのはもちろんサービス精神で、世間の想像とは違い、ジャーナリスト相手にも、ドロンは不遜な態度を取ることはなかったといいます。

先月下旬、フランスの俳優アラ

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考えるを考える

考えるを考える

人生は誰かを打ち負かすなんてケチなことのためにあるんじゃない。

─── 岡本太郎

ある人の話で、深く納得させられたものがあります。
その人が中学生の頃、クラスに一人、ずば抜けて頭の良い生徒がいました。ある時、思い切って勉強のコツを聞くと、こんな言葉が返ってきたそうです。

「わからない問題のうち、答えのあるものは考えない方がいいよ、時間の無駄だから。頭は答えのないもののために使うんだと思う」

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「これでもうシャツを捨てずにすみますね」

「これでもうシャツを捨てずにすみますね」

私は安い靴を買うほど裕福ではない。
(イギリスのことわざ)

「最近何か面白いことがあった?」
いかにも話題切れの際に持ち出されそうな質問ですが、私ならこう答えるでしょうか。
「それはもう。面白いというか、びっくりしたんだけど」

それはつい先日のことで、SNSで流れてきたおすすめ動画のひとつに"プロのボタン付け"というものがありました。
私も洋服のボタン付けくらいは出来るものの、やはり専門職の方

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9月の詩

9月の詩

1933年8月、一人の女性が夏の終わりと共にメキシコから旅立ちました。
彼女は長期にわたる彼の地での滞在中に詩を書き連ね、それは数年後に詩集『悲しみの庭』として出版されます。
その詩集をきっかけとして名声はスペイン語圏に鳴り響き、やがてラテンアメリカ人初となる、ノーベル文学賞受賞の栄誉にも結びつきました。

この詩人は名をガブリエラ・ミストラルといい、『悲しみの庭』にも収録された「夏」は、彼女の最

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想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である・2

想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である・2

旅をすることは生きることである。
── ハンス・クリスチャン・アンデルセン

どなたが話していたのだったか、興味深い話をお聞きしました。

その人は父親を早くに亡くし、母ひとり子ひとりで育ってきました。

母親はずいぶんと苦労をし、いつも複数の仕事を掛け持ちしていたそうです。
それでも愚痴もこぼさず、恨みごとを言うでもない気丈さを、その人は心から尊敬していました。

その人の人生には、父親の死以外

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ふんわり仕立てのアナキズム

ふんわり仕立てのアナキズム

"初対面の時とよく知り合ってからだと別人のように思える"とは私がこれまで幾度となく言われてきたことで、その理由はといえば、私の外見と中身がいかにも不釣り合いだからかもしれません。

私は顔つきや声、洋服の好みなど、見た目の印象がやけにふわふわとしているらしく、"穏やかで優しい人"だと早合点され、実際はせっかちで激しい性格だと判るといつも大変驚かれます。

もう半年ほども前『美しく怒る』という話を書

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想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である

想像力は私たちを最も遠くへ運ぶ乗り物である

「見て、あの窓」
犬との夜の散歩中、すぐ後ろから、ご夫婦らしき二人の会話が聞こえてきました。

「あそこって、職員室だよね?」
「そうだっけ」
「役員の時に行ってるし、間違いない。まだ電気ついてるよ」
「誰か先生がいるんだね。こんな時間なのに」

ちょうど小学校の前を歩いているところで、時刻はすでに8時半を回っていました。
つられるように校舎の方に目をやると、2階の大きな部屋に煌々と明かりが灯って

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ありきたりの尊さ脆さ

ありきたりの尊さ脆さ

あれ、なんだか蒸し暑いなと感じたのが午前4時半過ぎ。エアコンをつけたまま眠っていたはずなのに、作動音が聞こえません。

起き上がって周囲を見回してみると、そこはかとない違和感が。
台所へ行って冷蔵庫を開け、その原因がわかりました。

電気が止まっているのです。
ガス漏れセンサーも、Wi-Fiルーターも、ビデオデッキの時刻表示も、換気扇も。全てのライトが消え、家中が停電しているようでした。

それだ

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1945年8月に私も犬を飼うだろう

1945年8月に私も犬を飼うだろう

日本が諸外国との長い戦いを終え、ようやく"戦後"が始まったのは、79年前の今日、8月15日です。

私はその日を語る多くの手記や映像に触れてきましたが、中にとりわけ印象的で、変わったものがありました。

語り手の女性は犬好きで、実家でも代々、警察犬として有名な大型犬のシェパードを飼っていたそうです。
それも、戦争中を除き一度も犬を"切らした"ことがないほどで、ある時その理由を尋ねてみると、母親は初

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最高の話し方指南

最高の話し方指南

「オリンピアンもきついな。たったいま試合が終わったばかりで、もう次のオリンピックの話をさせられるんだから。
自分なんか、満腹の時に次の食事のことを聞かれただけで腹が立つのに」

ある人がこんな意見を書いていましたが、確かに連日のオリンピックの報道では、そんな場面をよく見かけます。

見事に勝ちを収めた選手も、惜しくも叶わなかった選手も、インタビュアーから矢継ぎ早に質問をされ、中には「次こそは違う色

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誕生日でなくても幸せ

誕生日でなくても幸せ

「株価下落がブラックマンデーを超えた!」
数日前の午後、友人からそんな短いメッセージが送られてきました。

友人は多くの株を所有しているため、日々関連ニュースのチェックに余念がありません。
それで今回の"1984年以来の日経平均株価の大暴落"というニュースも、いち早く私に報せてくれたというわけです。

とはいえ私はそういった世界には不案内で、株や証券売買には一切関わった経験がありません。

「今す

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まずは、よくできました

まずは、よくできました

確か先々月の始めだったか『朝活で前世を生きる』という話を書きました。
そこでの内容通り、私の午前4時台起き生活は今も続いています。

日の出前に起き出して、犬と近所の公園を周回。自宅に戻って朝食の用意。
夜の間に届いたメッセージに返信し、気になっていた本のページを開き……などとお決まりの流れを辿るうち、朝の静かな時間が過ぎていきます。

その静寂が破られるのは、決まって午前7時です。
それというの

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8月の詩

8月の詩

「海、遠い海よ!と私は紙にしたためる。
── 海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」

1930年に出版された、三好達治の詩集『測量船』
その収録詩「郷愁」の中の、とりわけ有名な断章です。

いみじくも三好が書いたように、"海"という漢字の中には"母"があり、フランス語の “mère / 母”の中には"mer / 海"が存在します。

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甘える甘えない以前の話

甘える甘えない以前の話

犬と猫の違いは何か、あげれば長いリストが出来るでしょうが、"人との距離感"もおそらくそこに加わるでしょう。

私は犬としか暮らした経験がなく、猫といえば地域猫に友人の猫、猫カフェの店員さんしか知りませんが、やはり犬に比べて気ままでクール、自我がはっきりしているように感じられます。

犬ももちろん気まぐれですが、猫に比べて子どもっぽく、甘えたところが多々あります。

家にいる6ヶ月の子犬がそうで、た

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