イベントレポ「【緊急開催】クレジットカード会社等による表現規制「金融検閲」問題を考える【院内集会】」
昨日、こちらのイベントに参加してきました。
参議院会館講堂の会場は2/3程の席が埋まっており、出席者は100名超でしょうか。新聞社の記者なども参加していたようです。
■荻野幸太郎氏の前説
冒頭は、NPO法人うぐいすリボン理事の荻野幸太郎の前説から。クレカ問題は2010年代から発生していたけれど、なぜ、これが起こっているのか誰に聞いても分からず、情報が集まらないので対応が難しかったようです。
本国のアメリカでも同様の問題は発生したが、あちらでは様々な団体が結束して食い止めてきた模様。
アメリカのアダルトサイトの場合は、出演者の本人確認の認証などをしっかりやることで、カード決済が復活していったようです。
一方で、日本の状況では、マンガなど非実在コンテンツに関して、児童や近親相姦、獣姦などの表現内容が論点になっているのではないか……とのこと。カード会社側も「違法でないことは認識している」「でもブランドイメージ的にちょっとアレなのでごめんなさい」という状況が荻野氏の肌感のようです。民間会社の経済活動なので、裁判などで戦えないのも動きづらい点です。
そして、ここ2~3週間でさらに動きが大きく進んでおり、コンテンツの海外輸出のために日本のコンテンツを浄化しようとする動きがあるとのこと(上記のライフカードの件?)。そのため、今回の緊急集会に至ったそうです。
■山田太郎氏による日本の状況解説
次のパートは参議院議員の山田太郎氏による状況解説です。
時系列的に見ると、2019年、COMIC ZINでクレカが使えなくなりました。2022年にはカリフォルニア地裁でVISAが被告に。同年、DMMがマスターカード決済を諦める。2023年11月からニコニコなどでもクレカが使えなくなっていき、2024年4月からはDLsiteやファンティアなどでクレカが停止していき、ここから大きくクレカ規制が動き始めました。
これらの規制ですが、どうもコンテンツの中身を見ているわけではなく、タイトルしか見ていない模様。止められても決済会社を変えたらOK、大手なら同じものを扱っていてもOK、など不透明な状況が続き、山田氏がVISA本社と議論します。
「合法的なコンテンツに関する価値判断は行っていない(アメリカなら銃もクレカで買えるよ)」
「個々のコンテンツやサイトに関しては判断してない、してるのは現場だよ」
という姿勢を確認しました。
先日、VISA日本法人社長のコメントが物議を醸しましたが……
これについても山田氏は問い合わせ、基本的には本社方針と同じであることを確認。
ということは、アクワイアラーと加盟店の間で何かがあったということ?(アクワイアラーが拒否?)
しかし、アクワイアラーと加盟店の間には決済代行会社が挟まっており、実際に加盟店は決済代行会社から言われている模様。ですが、その決済代行会社は「もっと上から言われている」とも言っており、結局、不透明なまま、どこに問題があるのか分からない状態です。272社あるアクワイアラーのうち、どこかが何かをしているのか……??
①優越的地位の濫用の一環としての対応
②プラットフォーム規制の一環としての対応
③インフラ規制の一環としての対応
④金融規制の一環としての対応
⑤消費者保護の一環としての対応
山田氏は、これらの観点からの対応を検討しています。政府との質疑によれば、クレカ規制問題は経産省も認識しているとの答弁がありました。ただ、政府が民民の契約に介入するのは難しく、現行法で対応できるのか? 法的根拠となる立法が必要なのか? というハードルもあります。国としては「クレカはインフラ」と認識しているようなので、なんとか対応して欲しいところです。
■JACK LERNER氏によるアメリカの状況解説
後半はカリフォルニア大学法学部教授のJACK LERNER氏によるアメリカのクレカ問題の歴史について。
アメリカでも1990年代から色々とあった模様。なお、2000年の時点でAMEXはオンラインアダルトコンテンツの決済をやめて、その後、Paypalも止めた模様。いま、VISAやマスターカードの問題が問題視されていますが、実はAMEXは問題視されるより遥か前から止めてたんですね……。(むしろVISAなどは今まで頑張ってくれていたと言えるのかも)
2021年にマスターカードがアダルト会社に対して、厳格なガイドラインを設定。VISAも追随します。2020年に「ポルノハブの子供たち」という記事が発表された影響が大きかったようです。
https://www.nationalreview.com/corner/the-children-of-pornhub/
こちらによるとニューヨークタイムズに掲載された記事のようです。
同年にはこのような権利団体からの要請も行われていたので、一連のキャンペーンと思われます。
マスターカードの厳格なガイドラインには「出演者の年齢確認」「コンテンツを公開前にサイト側がチェック」「ライブ放送はサイト管理者がチェックしなければならない」「人身売買を禁止するNGOとコラボレーションしなければならない」などがあるようです。年齢確認は演者の顔写真入り証拠写真の提出により、コンテンツ公開前のチェックはAI判定が行われていると思われます。NGOとコラボ、というのは、なんだかよくわかりません。同様にVISAも追随しガイドラインを厳格化します。
ポルノハブを運営するマインドギーク社は、当時13歳だった少女から「同意していないコンテンツをアップされた」として訴訟され、これにVISAも巻き込まれます。VISAとしては「いや、ウチは決済やってただけなんで……」と訴訟から外してくれと訴えますが、カリフォルニア地裁は「VISAもサイト内容を知ってたはず」「外さん!」との方針を示しました。クレカ規制を語る上でよく話に出てくる「カリフォルニア地裁の件」がこれです。
私見ですが、これはVISAが可哀想に思えます。時系列的には2020年に「ポルノハブの子供たち」が話題になり、クレカ会社側がポルノハブとの取引を停止。それに対してポルノハブは投稿動画の80%以上を削除して対応(当時、投稿者に対して身分証を提示するよう働きかけがあり、提示されなかった動画は消されたようです)。
ポルノハブ側が誠意を見せたのでVISAはサービスを復活させたのですが、裁判所はそれをもって「VISAはポルノハブのコンテンツに介入できた(のに、2014年には野放しにしてた)」としたようです。ちゃんと対応したことが仇となって、それよりずっと昔の話の責任を取らされた形に見えます。
アメリカの法律で通信品位法230条というのがあります。
これはプラットフォーム側の免責事項を定めたものであり、Youtubeや2chなどで、クソみたいな動画投稿や書き込みがあっても、サイト運営者側はその責任を負わない、というものです。ただ、これが2018年に修正され、オンラインの人身売買や売春に関しては削除が義務付けられたようです。「当時13歳の少女」の訴訟はこの修正を元に行われたのでしょうか? このあたりの詳細は私にはよく分かりません。(詳しい人いたらコメントで教えて下さい)
ともあれ、こういったアレコレが影響し、ポルノハブは現在はクレカが使えず、振込と引き落とししか対応していないようです。
■出席者コメント
本編の終了後、赤松健先生、及び出席者の方から、様々な立場を代表してコメントが発せられました。特に気になった点をいくつかをご紹介します。
赤松先生は、以前に立ち上げたマンガ図書館Zが、この度、決済を止められたことについて触れました。当事者として、決済代行会社から解約されるとどういう状況なのか、詳細が分かったことと、どうすればよかったのかという次善策の議論が進んでいることを伝えました。ビットキャッシュのポテンシャルが高いそうです。
評論家の稀見理都先生は、「不健全図書」の名称変更運動(「8条指定図書」に変更)に携わった経験を元に、「いまこの会場にいる人達は表現の自由マターに詳しいと思うが」「都議などでもまだ全然知らない人が多い」「そういう人にちゃんと話をすれば分かってくれるし動いてくれる」「SNSで愚痴るよりも、正しく情報を得て、正しく動くのが大事」「地元の政治家や影響力のある人に話しかけるべき」と訴えかけました。
個人的に感銘を受けたのは海老名市議会議員のたち登志子氏で、氏は「地方に行けば行くほど、東京で手に入るものが手に入れにくい」「東京と同じ文化的なものを得ようとするとネットとクレカ決済が重要」という地方議員ならではの問題意識を伝えてくれました。
私は個人的には、最悪の場合、ネット上でオンライン決済が一切できなくなっても、表現活動は一概に衰えるとは限らず、現在の大量生産・大量消費という形態から、少数によるオフ会を中心とした、よりディープな形に移行するのではないか……という展望を持っています。ただ、その場合でも地理的制約はどうしても免れず、地方住まいの人が不利になるのは否めません。この点は地方議員ならではの問題意識と感じました。
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レポートは以上です。クレカ規制問題は不透明性が高く、未だに誰も正確なところが把握できていない問題と思いますが、本稿が理解の一助となれば幸いです。
以下はご寄付を頂ける方向けの、ちょっとした小話です。
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