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胸クソ実話系はリアルに勝てない!?(レビュー『コロニアの子供たち』)

オススメ度:★★☆☆☆

知られざるチリの負の歴史。悪名高き<実話>奨学生としてコロニア・ディグニダの学校に通い始めた12歳の少年・パブロは、入学してすぐに集団を統治するパウル様の“お気に入り”に選ばれる。しかし、それは彼にとって地獄の日々への入り口だった。地域から隔離された謎の施設で遭遇する、あまりに不可解な出来事の数々。闇に触れた少年は、どのように現実と対峙するのか――。

 チリで実際に起こった事件を元にした映画である。「ホラー映画」のジャンルで語るべき作品かどうかは微妙だが、今回は当レビューの趣旨上、ホラー映画として評価する。

 私はチリの歴史に詳しくなく、本作の元となった事件に関しても全く知識がなかった。「実話を元にしている」「たぶん胸クソ系」ということで、かなりビクつきながら見ていたのだが、結果的に言うと、だいぶ肩透かしというか、それほどヒリつくようなところもなく、人間の根源的恐怖に迫るような作品でもなかったと言わざるを得ない。これは元となった事件の評価とは別の、作品そのものへの評価である。

 今回はあえて前情報を入れずに、作品そのものを評価する……という姿勢で挑んだのが、それも正しかったのかは分からない。というのは、本作はどうも「ある程度事件のあらましを知っている人」を前提に作られているようで、良し悪し以前に背景情報がなかなか把握できないまま話が進んでいくのだ。

 例えば、作品の冒頭で、主人公の少年は「学校に通う」という前提で話が進んでいく。その流れで「病院」に通院するシーンが出てくるのだが、前知識ゼロだとこれが分からない。

 実際は、作品に出てくる問題の「施設」(コロニア・ディグニダ)は、学校だけでなく病院や農地、工場や発電所すら備えた一種の国家内国家であり、かなりスケールの大きな話なのだが、なにせ作中では「学校に通う」という情報しかないのだ。当然、われわれは日本にあるような私立学校――、せいぜい人里離れた場所にポツンとある寄宿学校――くらいをイメージしてしまう。結果、

「閉鎖的な学校に通っていて逃げられないという話なのに、なんで普通に町の病院に通院してるんだ?」
「通院の前後で親に助けを求めたり、逃げ出せばいいんじゃないか?」

 などと思ってしまう。実際は施設の敷地内に病院もあって、病院スタッフもグルなのだが、前情報がないとそんなことも分からないので無駄に混乱することになる。

 Wikipediaで事件のあらましを一読した後では、やはり映画自体の弱点というか、描き切れていない要素を痛感してしまう。本作では主人公が少年であり、この少年の視点からの「施設の地獄み」が描かれていたのだが、すると、それはどうしても支配者パウロによる少年性犯罪にフォーカスされてしまうのだ。

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