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夫のスマホを勝手に覗き見ちゃう系生霊!?(レビュー:『禁じられた遊び』)

オススメ度:★★★★☆

「――この事故で…伊原美雪さんが死亡しました。」聞き覚えのある名前を耳にした映像ディレクター・倉沢比呂子(橋本環奈)は、かつての同僚・伊原直人をふと思い出す。その後、美雪の葬式で再会したことをきっかけに、周囲で次々と不気味な出来事が起き始めてしまう。過去にも同じ経験があった比呂子は、恐ろしい現象の根源を探るため、伊原家へ向かう。伊原直人(重岡大毅/ジャニーズWEST)が息子・春翔に冗談半分で教えた小さな嘘。「ねえパパ、トカゲの尻尾を埋めたらトカゲが生えてくるの?」「そうだよ。でも、ある呪文を唱えないとダメなんだ。」仲睦まじい二人を妻・美雪(ファーストサマーウイカ)が見守っていた。幸せな生活を送る伊原一家。そんなある日、直人の元に愛する家族に起きた事故の報せが届く…。エロイムエッサイム、エロイムエッサイム――春翔の声が聞こえる。

 Amazonの評価は星2と低いが、かねてより申し上げている通り、ホラージャンルにおける一般層の評価は基本的に当てにならない。馬鹿にしているわけではなく、われわれホラーファンの楽しみ方は明らかに一般と隔絶しており、かなりハイコンテクストだからだ。それが良いことかどうかと言えば、あまり良いことではないのかもしれないが……。

 というわけで本作だが、これはかなり良かった。本作の監督である中田秀夫監督は『女優霊』『リング』などで名を馳せたが、一方で『劇場霊』『事故物件』などの大分アレな作品もあって、かなり評価のブレる監督である。本作は中田監督の変なノリが見事に作品にマッチしており、独自性のある妙な作品へと昇華されていたと思う。

 本作の特徴は怪異の源が分からないまま進んでいく展開妙な疾走感だ。

 前者の「怪異の源が分からない」という点で言えば、本作の最初は「ペットセメタリーの亜種」といった趣を強く打ち出している。ご存知ない方のために説明しておくと、ペットセメタリーとはスティーブン・キングのホラー小説であり、「埋めたら生き返る」ペット霊園に人間を埋める話だ。

「ねえパパ、トカゲの尻尾を埋めたらトカゲが生えてくるの?」「そうだよ。でも、ある呪文を唱えないとダメなんだ。」

 あらすじにある通り、家の庭にトカゲの尻尾を埋めるとトカゲが復活する。この後、妻が交通事故で死亡し、トカゲの件で「成功体験」を積んだ息子が、死んだ母親の指を庭に埋めて……という流れだ。

 この段階では「呪われた土地」系ホラーだとわれわれは考えてしまう。しかし、その後に話は錯綜する。伊原直人のかつての同僚女性・倉沢比呂子(橋本環奈)が自宅にいる時に怪奇現象に襲われるのだ。

「エッ? 呪われた土地の話じゃなかったの?? なんで家を訪れてもいない橋本環奈が??」

 と、われわれは困惑する。その後も「死者が生き返る庭」「橋本環奈に降りかかる怪奇現象」の二本の怪異軸が同時に進行するため、全体として、この怪奇現象の源がどこにあるのか分からず、戸惑いながら見ることになる。

 いかにも「ペットセメタリー」風の進行でありながら明らかに何かが違うという、この視聴体験には新規性があり、かなり面白い(しかしながら、既存のホラー文脈を踏まえた上での、まさにハイコンテクストな楽しみ方であり、一般層がこれを楽しめるかと言えば疑問である)。なお、この二本の軸はきちんと最後に交差し、それなりに納得の行くオチが付く。整合性の面でやや微妙なところもあるが、まあ良いのではなかろうか。この次に語る「妙な疾走感」のせいで細かなロジックはどうでもよくなってしまう。

「怪異の源が分からない」という点はハイコンテクストではあるものの、ホラーの楽しみ方としては「真面目寄り」だったが、一方で、「妙な疾走感」の方はこれは明らかにヘンであり、楽しめるか、楽しめないか、相当に人によるのではないか。楽しみ方のニュアンスとして「クソ漫画愛好家」的な部分もあり、われわれは抱腹絶倒だったが、ポカーンとなってしまう人もいるだろう。

 本作における妙な疾走感の代表的人物は霊能力者の大門謙信先生である。いかにもな俗物感を漂わせ、「私はペテン師です」と言わんばかりの風体であるが、その実、本物の霊能力者であり、ものすごくキャラの強い付き人と共に、短期間の内に圧倒的な実力者感を出して期待感を盛り上げる。

 橋本環奈は彼のオフィスを訪れるが、そのオフィスの造形も見事で、大門先生の能力といかがわしさを裏付けしてくれる。そして、われわれの期待が高まりまくった直後に、大門先生は一瞬で、

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