呪いのビデオの呪いは恐怖新聞2回分に相当(レビュー:『貞子DX』)
オススメ度:★★★★☆
あらすじを一読しただけで分かる通り、だいぶ様子のおかしい『リング』派生作品である。「IQ200の天才大学院生が呪いのビデオに挑む」という一文で、だいたいどういう方向性の作品かは想像できるだろう。
なお、監督の木村ひさし氏だが、Wikipediaを見ると、こうある。
本作を見ていくと、上の一文にも納得がいくのではないだろうか。そう、本作はやっていること自体は『リング』のはずだが、ノリというか雰囲気は『TRICK』なのである。
TRICKの世界においても、オカルトめいたミステリーが登場するが、そのオカルト的ミステリーの変数に「呪いのビデオ」が代入されたような作品と言えば良いだろうか。本作の主人公である一条文華だが、まずIQ200という時点でクセが強すぎる上に、集中して思考する時は耳の後ろに親指を当てて手をヒラヒラさせるという謎の挙動を行う。こういった「なんかズレてる」妙なキャラ立てが、実際に見てみると、肌感として皆さんにも伝わると思う。「なるほど、TRICK……」と。
その主人公の周りに三人のメイン男性キャラが集まるのだが、これもまた、どれもこれも妙なキャラ立てがされた連中である。霊能力者であるkenshin(織田無道を意識しての上杉謙信?)は胡散臭い人物であるが、ホラー作品の霊能力者はだいたいどれも何かしら胡散臭いものだから彼はまだ許容範囲だ。しかし、本当にわれわれの「手に負えない」人物は、自称占い王子の前田王司だ。
この王子、中盤以降、主人公と常に行動を共にするワトソン役のはずなのだが、恐ろしく役に立たない。こんなに役に立たないメインキャラがかつていただろうかという程の徹底した無能である。こういう役立たずは、普通は終盤に「思わぬ活躍」を見せたり、主人公の盲点をカバーする「意外な視点」をもたらしたりするものだが、彼に関しては一切なにもない。本当に最後まで何の役にも立たない。
単に役に立たないだけではない。ただでさえ「呪いのビデオ」の時間制限に追われているというのに、推理や調査を前進させようとする主人公の話の腰をしばしば折りにくる。ネガティブ発言により無意味に折りに来る。見ている側としても、主人公が頑張って話を進めようとしているのに、コイツのネガティブ発言により話の進行が阻害されるのでイラッとしてしまう。さらに、しばしば妙なポーズを決めて適当な名台詞(?)を口走るという、「それはカッコイイと思ってやっているのか?」的な奇行も行う。総合的に見事にウザい。
繰り返すが、この王子には何の良いところもなく、最後まで苛立ちを覚えるカスで間違いない。しかし、われわれは妙な形でこの男の存在を許してしまうことになる。「このカス野郎、ここまで無能だと呪いのビデオ関係なく、うっかり車に轢かれたり、高所から足をすべらせたりして近い内に死ぬんじゃないか?」と見ていて思ったりするのだが、実際にそれを示唆するようなラストを迎えるからだ。「ああ…………ここまで無能だと、本人が一番つらいんだな……」という気持ちになって私は許してしまった……。
そんな役立たずのカスの代わりに、終盤戦から参戦するのが「感染ロイド(HN)」である。主人公のSNS上の知り合いである彼は引きこもりのクソニートなのだが、卓越した推理力を発揮して(と言うほどすごい推理とは思えないが、作中ではそういう扱いになっている)主人公に情報をもたらし、終盤戦では現場で主人公と合流。クソの役にも立たない王子の代わりに「主人公のバディ役」に近い存在として活躍する。
主人公と、この三者を含む四人の妙なキャラ付け。そして、ホラー映画らしからぬヘンテコなノリが本作の全てである。惜しいところはたくさんある。本作の「呪いのビデオ」の設定には妙な部分が多い。ビデオ視聴から呪い発動までの制限時間が一週間から24時間に短縮されていたり、追ってくるのが貞子ではなく貞子のコスプレをした身近な人物だったり、呪われた人物が最後にでんぐり返しをしてから死ぬ、などだ。
しかし、妙なノリで進む本作の中で、これらの奇妙な「変更点」が、実は全ての謎を解く鍵に…………
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