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全キル狙いの殺意高すぎ怪異(レビュー:『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』)


オススメ度:★★★★★

 悪霊に取り付かれて死んだ少女の霊が真っ黒の霊となって現世に彷徨っている。その少女に接触した人は呪われて、その人に接触した人も呪われる……。インターネットでの噂から広がった黒い少女の呪い。恐ろしく、残酷な噂が現実のものとなり、主人公の紀子(若槻 千夏)を襲う!!

『キャビン 不気味な小屋』『カリスマ』と、二週連続で高尚すぎる(=訳わからん)作品に翻弄されたわれわれは安牌を選んだ。白石晃士監督作品である。白石監督の初監督作品だ。

 ただ、初監督作品とは言え、実質的には二作目だろう。白石監督は、この一年前に公開された『ほんとにあった呪いのビデオ THE MOVIE』が事実上の初監督作だからだ。『ほん呪』シリーズなどの投稿怪異映像系の作品は「監督」が存在せず、「演出」や「構成」名義となることが多い。フィクションではない(監督なんて存在するわけないじゃないですか)という建前によるものだろう。

 そして、本作の翌年には白石監督はあの『ノロイ』を発表している。『ほんのろTHE MOVIE』と『ノロイ』の間に挟まれた作品だ。…………ド安牌である。

 さて、本作だが、内容的には概ねジェネリック『呪怨』と言ってよいだろう。伽椰子が登場する時の、あの特徴的なカタカタ音まで作品内に登場するし、伽椰子っぽかったり貞子っぽかったりするオバケも出てくる。時期的にも劇場版『呪怨』の一年後の公開だ。タイトルも…………まあ、ちょっと『呪怨』を意識してるよね、という感じではある。

 しかし、『疫』の時にも書いたことだが、良質のジェネリック呪怨には十分な存在価値がある。そもそもとして呪怨がものすごく面白いので、「呪怨のようなもの(よくできたもの)」をたくさん見られるのはそれだけで大変に素晴らしいことなのだ。

 元祖『呪怨』も『疫』もそうだったが、本作でも時系列シャッフルが用いられている。正確に言えば本作はシャッフルではなく、巻き戻り形式だ。第10話から始まった物語が、カウントダウン形式で1話に近付いていき、最終的には「序」で締め括られる

 本作の全体的な雰囲気自体は本当にまんま『呪怨』なのだが、このギミック一つで、しっかりオリジナリティとエンタメ性を生み出しており、流石は白石監督だと唸らされる。単に巻き戻っているわけではなく、この巻き戻りを通して、拡散していく「呪い」の始源に迫りつつ、さらにその感染力の強さに恐怖を付与する仕組みである。

 本作の呪いは『呪怨』『疫』『残穢』のような「関わることで伝染する」感染病タイプの呪いだ。しかし、『呪怨』が「家に入る」ことをトリガーとする、いわば接触感染タイプであったのに対し、『疫』『残穢』などは空気感染タイプだ。呪われた人物に関わるだけでさらに呪われる。本作『呪霊』も空気感染タイプではあるが、その異様なまでの感染力の高さに「恐怖」が生まれている。

 最初の第十話で描かれる「呪い」は、いわば末端だ。第十話で呪われる被害者だが、その被害者にも感染源との接触がある。その感染源にもまた別の感染源があり、その連鎖は話を遡っていくことで明らかになっていく。だが、中盤あたりで視聴者は、

「エッ……こんな僅かな接触で呪われるの!??」


 と恐怖を覚えることになる。

 具体的に言うと、第十話で呪われた女の子は

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