見出し画像

暴力・汚物・エロ!(レビュー『マッド・ハイジ』)

オススメ度:★★★★★

チーズ製造会社のワンマン社長にしてスイス大統領でもある強欲なマイリは、自社製品以外のすべてのチーズを禁止する法律を制定。スイス全土を掌握し、恐怖の独裁者として君臨した。それから20年後。アルプスに暮らす年頃のハイジだったが、恋人のペーターが禁制のヤギのチーズを闇で売りさばき、見せしめにハイジの眼前で処刑されてしまう。さらに唯一の身寄りであるおじいさんまでもマイリの手下に山小屋ごと包囲されて爆死。愛するペーターと家族を失い復讐の鬼と化したハイジは、邪悪な独裁者を血祭りにあげ、母国を解放することができるのか?

 あらすじだけでも明らかだが、「配給:SWISSPLOITATION FILMS」という文字列からも、見る人が見れば一目瞭然であろう。本作は意図的なエクスプロイテーション映画である。

 エクスプロイテーションと言われても分からない方には映画『グラインドハウス』のようなもの想像して頂ければ……と言いたいところだが、むしろその説明の方が分かりづらいかもしれない。ここでそれを説明して「タランティーノが……」「ロバート・ロドリゲスが……」「元々、50年代に……」などとつらつら書いていくと本筋からドンドン逸れてしまう。

 なので、まあ、なんというか、エクスプロイテーション映画は無意味に頭が爆発したり、オリジナリティは脇に置いて刺激的な表現を優先したり……そういうアレであって……要はヨタモノ向けの映画である。しかし、同時に幅広い層への訴求を狙った作品でもあった。

 ただ、予告編では本作の魅力は十分に伝わらないかもしれない。私自身も劇場で予告編を見た段階ではそんなに心が踊らなかった。予告編では伝わらない本作の美点は、飛び道具的要素が意外と丁寧に作中に配置されていて、ストーリーの構成的によくまとまっているところにあると思う。

 ……と、自分で言っておいてなんだか、この説明もなかなか微妙ではある。本作を実際に視聴した方は、「意外と丁寧?」「何を言ってるんだコイツは?」「ヘルヴェティア酒をキメてラリってんのか?」と思うことだろう。

 というのは、劇中で強制収容所から脱出したハイジが、逃げ込んだ廃寺でヘルヴェティア酒なるものを呷って、ヘルヴェティア女神の幻覚を見るシーンがあるのだ。そこでハイジは女神の巫女たちとクンフー修行を積み、屈強な戦士として生まれ変わる。……と、そんな字面だけを見ると、何を言ってるか分からないと思うし、これを「丁寧に配置されたパワーアップイベント」などと認識する人間は狂人だけだと判定するだろう。

 しかし、実際の視聴体験としては、これは丁寧としか言いようがないのだ。まず本作は全体において、ハイジ、並びにスイスをネタにしている。そして、ヘルヴェティアはスイスという土地/国家の擬人化であり、極めて抽象度の高い神的存在なのである。

 作中においてスイスは独裁者に支配された独裁国家となっている。だから、そのようなスイスを穢す権力に対して、国民的キャラクターであるハイジを支援するのがヘルヴェティア女神だというのは、これは構造的には極めてしっくり来る話なのだ。

 というか、逆に言えば、ヘルヴェティア女神が加護を与えるような物語が許されるのは本作くらいではないだろうか。作中全般に流れるスイスの自虐風パロディあっての女神である。これはいかにもエクスプロイテーション映画的な、強引かつ、いい加減な、クソのような展開のように見えて、実はよくまとまった納得感のある配置であり、本作にはそういう「破天荒を気取りながらも隠しきれない作り手の丁寧さ」が溢れているのだ。

 また、本作に関しては、この点も評価せざるを得ない。本作はきちんとエロい。

 わざわざ金を払ってまで私のホラー映画レビューを見ているような皆さんも概ね同類だと思うのだが、私のようなボンクラ人間は軽薄な表現が大好きである。それで、どのような表現が軽薄かと言えば、まずは暴力……無用なゴア(残酷)表現だろう。例えばルチオ・フルチ作品はストーリーは何がなんだかさっぱり分からないが、残酷描写は素晴らしくて大好きだ。

 で、次に汚物。ゲロやウンコだ。白石晃士監督作品ではキャラが頻繁にゲロを吐くが、あれも監督からのサービスである。サム・ライミにありがちな大量吐血や、ゾンビ映画での人体グチャグチャ描写も「汚らしさ」という意味では汚物の仲間と言えよう。

 そして、最後がエロである。

 つまり、残酷かつ汚物にまみれてエロもあれば、私のような人間は概ね大満足というわけだ。自分でも書いていて死にたくなってくるが、これが気取らない人間のリアルな実情であろう。これら三要素が揃えばボンクラ寄りの人間はだいたい大興奮する。分からないが人類全体の50%くらいは私と同じだと信じたい。これら三要素すべてを欠いている恋愛映画とか、見てるやつの気がしれない。

 本作ではペーターの頭が爆発したり、ハイジがトイレの中に定期的に顔を突っ込まれるなどの描写もあって残酷描写も汚物描写もバッチリだが、加えてエロ描写も頑張っている。まず冒頭からしてハイジとペーターの事後描写からの開始だ。私も娘に「早く寝なさい!」と声を荒らげてしまった。

 その後も女囚モノ展開となって、ハイジたち全裸に剥かれた女が放水を受けたり、よく分からない女相撲のようなものをさせられる。

ここから先は

1,029字
この記事のみ ¥ 300
期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?