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【プロローグ】異世界殺戮課外授業~死霊術で優勝って無茶ですよ!!?~

 少女はガチガチと歯を噛み鳴らしながら、全身を小刻みに震わせていた。

 いま、彼女の立っている足場は苔むした岩棚であったが、いかなる重力作用に依るものか、それは高空へと舞い上がり、地上は眼下に遥か遠く、また、見上げれば、非現実的なまでに巨大な人型が屹立し、彼女を称えるように両腕を緩やかに広げている。少女の着ているセーラー服には血がこびりつき、赤黒く変色していた。返り血の中に彼女自身のものがどれだけ混じっているのかは定かではない。

 目の前の巨大な人型が口を開き、少女は僅かに身構えた。この茫洋とした存在の発する声は破らんばかりに鼓膜を酷く震わせるが、同時に彼女の心の中にまで無思慮に踏み入ってくる。テレパシーと言えば聞こえは良いが、相手に抵抗の余地なく自己の意思を心の奥の方へと捩じ込んでくるそれは、情報によるレイプの如きものである。だが、向かい合う少女の瞳も危険な赤色を帯びて血走っていた。

「優勝おめでとうございます!」

 人型の発する不快な大音声に少女はびくりと身体を震わせるが、その顔面には狂った笑みが張り付いている。高空に鳴る風の轟音を引き裂きながら、人型は重ねて少女を称えた。

「本当にお疲れ様でした!」

 人型はまるで神のような神々しい姿だ。白い薄衣が幾重にも重なる奇妙な衣装をまとう肉体は有機物と無機物の合成体のように見えた。佇まいは多腕の仏母像を思わせるもので背後には後光が差す。それでいながら、「紛い物」としか言いようのない歪さがあり、その存在自体が圧倒的に軽薄であり、不快であった。少女を称える言葉にもどこか小馬鹿にするような響きがある。

「優勝した▓▓▓さんには優勝特典としてどんな願いでも叶えられる権利が与えられます!」

 ただし、と人型は続ける。

「『死んだ友達を生き返らせたい』『こんなゲームを仕掛けた奴らに復讐したい』そんなつまらない願いなら直ちにあなたをブチ殺します。『カネ』『権力』『恋人』私利私欲に満ちた願いで、最後まで私達を楽しませて下さい!」

 人型にとって、自分は取るに足らぬ玩具であるという明確な意識が、少女の魂の奥底を犯す。だが、彼女は小揺るぎもせず、赤く充血した目を大きく見開いて、腹の底からの言葉を絞り出した。

「私はもっと殺したい!」

 声高に叫ぶ言葉から狂気が滲み出す。

「もっと友達を殺したい!」

 顔面に張り付いた笑みが歪に捩れる。

「何度でもクラスメイトを殺したい!」

 少女の両目から唐突に涙が溢れ出すが、その口元は笑ったままだ。巨大な神性は興奮を抑えきれず上ずった歓喜の声を上げた。

「素ン晴らしィィィ――ッ! 是非とも叶えましょう、あなたの願いを。見届けましょう、あなたの戦いを!」

 同時に、少女を取り巻く空間のすべてから、無数の意識の如きものが無思慮に彼女の身体へと押し入ってくる。

「やはり逸材」「面白すぎwww」「無限地獄にようこそ」「狂ったか」「これは新機軸」「頭おかしいなコイツ」「ファンになりそう」「死ねよww」「クラスメイトかわいそうだなー(棒)」「とんでもねえw」「今回はアタリ回」「想像以上」「最高すぎ」「異常者現る」「どうかしてんな」「最後まで楽しませてくれる」「コイツが死ぬとこ見たい」「殺人は良くないと思いますww」

 悪意と嘲笑に満ちた粘性の流動体に全身をまさぐられる異常な嫌悪感。黒く淀んだ波の直撃を受け、脳みそが痺れるような感覚と共に視界が霞み、少女は狂った微笑を浮かべて波間を漂う。巨大な人型が光のようなものを指し示した。

「さあ、お進み下さい!」

 朧な意識のままに少女は光を目指して泳ぎ出す。血反吐のこびりついた口元をにやりと歪めながら。霞がかった視界と酷い耳鳴りの中、人型が声を裏返らせながら、高らかに叫ぶのが呪詛のように聞こえた。

「レッツ、パーリィ……ッッッ!」

 と――。

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