空手とドローンを組み合わせた全く新しい格闘技(レビュー:『ドローン』)
オススメ度:★★★★★
すいません、タイトルはノリで書きました。本当はそういう映画ではありません。殺人鬼がドローンを握って警官の首を切り裂くだけです。
この作品を他人に強くオススメしていいのかは正直わからない。ただ、私はとても好きだ。本作の監督であるジョーダン・ルービンは『ゾンビーバー』の監督であり、私は『ゾンビーバー』も大好きだし、本作にもその揺るがない方向性を感じている。
この映画の魅力を伝えるのは難しい。言語化は一応可能なのだが、それで伝わるかどうか分からない。この作品を作るにあたって、もちろん監督は企画書を出したと思うのだが、そのプロットで本作の面白みを周りに伝えることができたのか疑問で仕方がない。見ないと分からないし、分かる人しか分からない……そんな仕上がりになっている……と思う。
まず前提として、本作には一昔前のホラー映画のニュアンスが取り入れられている。この「一昔前」は私の感覚だと1990年代だったのだが、映画.comの解説には「1980年代ホラーへのオマージュ満載」とあったので、もうちょっと前のようだ。
その「一昔前」を特に感じるのがやはりBGMであろう。電子音を使った軽い感じのBGMが一昔前のホラーには多いのだが、本作ではあえてそのテイストを採用しており、「あー、これこれ!」という懐かしい感じになると思う。
ストーリー展開もベタな「古のホラー」を踏襲しており、「昔のよくあるホラーでやりそう」なことが起こりまくる。もちろんお色気要素もあるし、金髪のブロンド淫乱女は惨殺される。細かく分析しないと確たる事は言えないが、おそらく演出やカメラワークにも「古のホラー」が意識されているのではないか? とにかく「古のホラー」をビンビン感じる。
しかし、そういった懐古趣味的な要素をふんだんに散らしながらも、出てくる絵面はドローンなのである。
この絵面のミスマッチというか、「なんかすごい古いものを見ている気がするのにドローンなんだよな」感が本作の全てだ。話自体はまとまってはいるものの、やはり破天荒というかムチャクチャであり、「ドローンが怪しいと気付いてるのに主人公たちは絶対に捨てない」とか「捨てるまでしなくても箱に入れてカギでも掛けておけばいいのに」とか色々あるし、ドローンのハッキング能力がすごすぎるとか、ドローンをスマホに繋いだら会話可能になるとか(そうか?)、最後のヒロインの掌打で主人公が6メートルくらい吹き飛ぶとか色々あるけど、まあそういうのは良いのである。
それにしても、ドローンというのは不思議なガジェットだ。科学の粋である先端機器のはずなのに、ドローンがフワフワ浮いたりエッチなお姉さんを撮影するだけで、絵面がなんとも間抜けになる。ちっちゃくて、ひ弱な出歯亀エロ野郎、というニュアンスが生まれてくるのだ。なのに、それがまるでホラー映画のモンスターかのような演出で現れる。
ドローンは実際弱い。モンスターかのようにヒロインを追い詰めていっても、肉弾戦になると当たり前だがパンチ一発で撃墜される。「今までのホラーっぽい描写はなんだったんだ?」「最初からパンチで良かったのでは?」と思うものの、一方で「まあ、ドローンだからこんなもんだよな」「そんな強いわけないよな」という妙な納得感もある。
そのドローンだが、最終的には魔改造を受けて強化フォームへと変形するのだが、何がどう変わったのか、正直よく分からない。また、ヒロインが対抗して通常のドローンを飛ばすと、人間を襲うのを一時中断して先にドローンとの決着を付けに行く。なぜなんだ? 殺人鬼はホビーアニメの見すぎじゃないのか?
そういうわけで、本作は古色蒼然としたノリのホラーながらも、そこに先端技術の粋たるドローンが異物めいて鎮座しているという、本当にただそれだけの映画である。でも超おもしろい。
また、ドローンが怪奇現象を起こしているために、主人公の周囲の反応もすごく楽しいことになっている。怪奇現象――、例えば人形が勝手に動くとか、そういうのを目撃して周りの人に話しても信じてもらえない……というのはホラーではよくあるパターンだが、本作だと「ドローンが勝手に動いた」と言い募ることになる。すると、どうなるか?
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