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QPhoneを産んだ詐欺師たちの神話(後編)~イラクディナールとQアノン~

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中編ではQPhoneやQFSを産む源流となったNESARAについて解説した。続く本記事では、グッドウィン亡き後もNESARAを生き延びさせることとなった詐欺についての話から始めたい。イラクディナール詐欺である。

イラク・ディナール

2001年9月11日に起こった米国同時多発テロの後、米国内では「テロとの戦い」の機運が高まり、アルカイダを擁護していると見られたタリバン政権転覆のためアフガン侵攻が行われた。さらに2003年には、イラクが大量破壊兵器を保持している疑いがあることを主な理由として3月からイラク戦争が始まり、5月にはブッシュ大統領(当時)による戦闘終結宣言が行われ、連合国軍による占領統治が始まった。こうした状況の中で流行したのがイラクディナール詐欺である。

この詐欺の内容自体はシンプルなもので、「イラクディナールの価値は上がるはずだ」と言って売りつけるものである。skeptoidの記事によれば、米英軍の侵攻直後から存在していたという。

少なくとも当初は「戦争で価値が下がったが米軍撤退後に上がる」「イラクの復興と経済成長によって上がる」といった現実的な理由が付けられていたこの詐欺は猛威を振るい、2010年代前半には米国各州の機関から注意喚起が行われた他、日本の国民生活センターも同時期に注意を呼び掛けている。あまりに流行したため、今では地球上に存在するディナールのほとんどがイラク外に流出し、投機家によって保有されていると推測されている。

2018年にはこの業界で最大規模の販売業者であったSterling Currency Groupのオーナー3名が詐欺で有罪判決を受けたが、その収益は2010年から2015年の間で6億ドルに上っていた。

そして、イラクディナール詐欺についてもオメガやNESARAと同様、虚構の極秘情報を発信し続ける詐欺師と、それを信じる被害者達という構図が存在している。陰謀論研究者のマイク・ロスチャイルド氏によれば、2012年頃にはイラクディナールに関する情報を流し続ける「ディナール・グル」と、ディナールを売る業者を中心としたエコシステムが完成していたという。つまり、ディナール・グル達が夢を流し続けて新規顧客の獲得や既存顧客の維持を行い、そのコミュニティに対して業者がディナールを売るわけだ。先に上げた事件では、イラクディナールの販売業者が情報発信者に金を払って虚偽の情報を流させており、ディナール・グルと販売業者は協力関係にあると考えられる。

こうした界隈でよく見かける言葉に、「RV」「GCR」というものがある。

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