スーパーマーケット等の混雑状況を可視化はアフターコロナで新たな小売/飲食の付加価値になるのか
2020年の第一四半期は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、様々な物事に大きな変化・変容が求められる時期となった。国内では2020年4月8日に緊急事態宣言が発出され、広く国民に、不要不急の外出自粛、仕事のテレワーク実施などが求められることとなったのである。
この記事を書いている現時点においても、当初の緊急事態宣言終了期日の延長が政府で調整されているとのニュースも流れている。引き続き、不要不急の外出自粛が国民に求められることとなるであろう。
さて、不要不急の外出自粛にあてはまらないものとして、生活に必要な食品や日用品等を購入するための外出が挙げられている。そもそも飲食店の多くが休業になり、外食がままならないこともあり、多くの人が自炊すべくスーパーマーケットなどに食材購入に出かける必要性が高まっている。人間は食事をしなければ生きていけない…
そのため、スーパーマーケット等小売店での混雑がこれまでにないほど高まっている。しかし、新型コロナウイルス感染症対策として、いわゆる3密を避けることとされているが、人が押し掛ける現在のスーパーマーケット等小売店では、この3密に相当する状況になることもしばしば。
そこで、スーパーマーケット等小売店に人が集中し混雑することを避けるために、来店客に向けて、混雑しない時間帯での来店を促す動きも出てきている。今回は、このスーパーマーケット等小売店や飲食店における混雑を回避するためのデジタル技術活用に着目したい。
1.アナログであるが、従来にない大きな変容が起きている小売りの現場
冒頭に記載のとおり、緊急事態宣言が発出され、国民総自粛生活が続く中、スーパーマーケットや飲食店等での人混み発生が頻発しており、各種店舗等では、その対応が求められる事態となっている。
ある店舗では、「入店規制」として、来客者を店外に整列させ(当然整列時にはソーシャルディスタンスを意識して人と人との距離を2メートルほどあける)、店内に入れる客数をコントロールする取組を行うケースもみられる。
また、店内のレジ待ち行列でも過度な密集とならないよう、行列ができる場所に2メートル間隔の線を引き、その間隔で客を並ばせる取り組みなども多い。さらに、高齢者や子供など特定の年代の客に対して優先的に来店及び買い物ができる時間帯を設定し(逆に言えば、それ以外の世代についてはその時間帯での来店・買い物を制限)、過度な人混みが発生しないような施策もなされるところもある。
上記のような様々な3密を避ける施策が工夫される中で、小売店等の混雑状況を可視化し、広く客に情報発信する取組にも注目が集まっている。特に、この小売店等の混雑状況を可視化する取組は、ある意味、非常にシンプルな取組であるが、とても有効な施策ではないかと考えられる。
一例として、某スーパーマーケットでは、過去の来店客の状況を整理し、一日の時間帯別の店内の混雑状況を類型化して、店の入り口に張り出す取組をしている。
(出所)都内某所で撮影
これら店を訪れる客は、日々、食品や日用品を購入するリピータであることから、混雑時間帯の情報を見て、出来るだけ混雑のしない時間帯での来店を心掛け、行動を変容させていくのである。
2.デジタル技術による混雑状況の可視化サービスに注目される
上記で示した、「一日の時間帯別の店内の混雑状況を類型化して、店の入り口に張り出す取組」は、非常にアナログな試みである。それが故に、店舗側ではやる気さえあれば、直ぐにでも取組が開始できる。その意味では実効性の高い取組である。
しかし、類型化した時間帯別の混雑状況が、本当に現在のお店の混雑状況に合致しているかは少し怪しいところである。過去の来店客数の傾向を整理したものであり、統計的に見ればその通りなのかもしれないが、まさに今の店内の混雑状況を知ることは出来ないのである。
そこで注目されるのがデジタル技術を活用した混雑状況の可視化サービスである。さすがに、緊急事態宣言から1か月近くになろうとするこの時期、こうした発想に基づくサービスに世間的にも注目が集まり始めていると言えるのではないか。
ここで3つほど、デジタル技術を活用した混雑状況の可視化サービスの事例を紹介したい。ちなみに、これらのサービスは、今回の新型コロナウイルス感染症の発生以前からも、そのサービスのベースは存在していた。今回、新型コロナウイルス感染症対策としての必要性が高まり、社会的要請に応えるものとして、にわかに注目が高まってきたともいえるのではないかと思っている。
【事例1】スーパーマーケットの混雑状況可視化サービス(株式会社アドインテ)
OMOマーケティングやリテールメディア事業を行う株式会社アドインテ(京都府京都市)は、過去のPOSデータや様々なセンシング技術を活用し、スーパーマーケット等小売向けのサービス提供を開始している。
スーパーマーケットの場合、フロア内にAIBeaconを1~2台程度設置することで店舗全域の混雑状況を把握でき、スーパーマーケットの自社サイトやアプリ、店頭サイネージなどと連携し、来店客へ告知ができるサービスとなる。
(出所)同社のWebサイトより
【事例2】スーパー等の混雑状況の配信サービスの提供(株式会社バカン)
株式会社バカン(東京都千代田区)は、空席情報プラットフォーム「VACAN」、空席検索システム「Throne」(スローン)、弁当おとりおきサービス「QUIPPA」などの、飲食業関連に向けた様々なITサービス・プラットフォームの開発・運営・提供を手掛けている。
同社は、スーパーやドラッグストア、コンビニエンスストア等の小売業種むけに、店舗の混雑状況や待ち人数をリアルタイムに確認できるサービス「VACAN(バカン)」の提供を開始している。「VACAN」は、店の情報をリアルタイムの混雑情報を表示するWebサービスであり、利用者は、スーパー、ドラッグストア等の混雑情報を、スマートフォンなどから確認できる。
(出所)同社のWebサイトより
【事例3】飲食店等の混雑緩和に空席状況を見える化(株式会社セキュア)
各種セキュリティ機器及びセキュリティシステムの設計、開発等を手掛ける株式会社セキュア(東京都新宿区)等は、映像推論のエッジAIカメラを活用して、来店客のプライバシーを守りながら、飲食店などの空席情報をリアルタイムにWeb上に掲出できる混雑状況見える化ソリューション「comieru Live」の実証実験を実施している。
来店前、来店中の客が、スマートフォンやデジタルサイネージ上から、エリア内のどこが空いているのかを直感的に確認することができ、買い物に立ち寄る場所の計画を立てやすくなる仕組みである。
(出所)同社による配信動画より
3.新型コロナウイルス感染症の3密対策で終わらない、新たな価値は生まれるか
上記で紹介した、店内の混雑状況をリアルタイムで確認できるデジタル技術を活用したサービスは、新型コロナウイルス感染症の3密対策としては非常に有用である。
人混みが発生している場所に行けば、それだけウイルス感染リスクが高まることから、可能な限り、混雑する場所、時間をさけるのが不可欠であるためである。その意味で、この新型コロナウイルス感染症拡大対策の期間中においては、上記のようなデジタル技術を活用した混雑状況の可視化サービスにはニーズがあると思われる。
ただ問題なのは、新型コロナウイルス感染症の拡大が抑制された後の話である。つまり、アブターコロナ、ウィズコロナと呼ばれる、緊急事態宣言が終了した後において、これらデジタル技術を活用した混雑状況の可視化サービスは、新型コロナウイルス感染症拡大対策というニーズだけを頼りにしていては、いずれ下火になり得るサービスなのではないかとも考えられるのである。
危機が去り、人混みなど混雑状態でのウイルス感染に対する危機意識が世の中で薄れる時期が来た時に、感染症対策という価値以外に、この混雑状況の可視化サービスを通じて、世間に提示できる新たな価値がなかったならば、早晩、このサービスは下火になるであろう。
しかし一方では、この新型コロナウイルス感染症拡大対策として着目され、実際に一定期間利用されるこの時期において、感染症拡大対策以外の新たな価値を世間に訴求できれば、今後のアブターコロナ、ウィズコロナと呼ばれる時代でも世の中に浸透するサービスになり得るものと考えられる。
4.アフターコロナにおける新たな価値としての販売サービス「混雑状況の可視化」
最後に、今回、にわかに注目され、新型コロナウイルス感染症拡大対策の一環として活用され始めた「混雑状況の可視化サービス」に関する新たな価値となり得るものについて、個人的な仮説をまとめたい。
新型コロナウイルス感染症拡大対策以外に、アフターコロナの時代に継続的にその活用が進むために訴求すべき新たな価値についてである。
個人的には、スーパーマーケットや飲食店等の「混雑状況の可視化サービス」を販売サービスとして捉え、価値を訴求していく方向性があるのではないかと考えている。
従来、飲食店等では、行列のできる店は人気店等として、ポジティブに語られることが多かった。行列=美味しい店またはお得な店、といったイメージである。
しかし社会全体の視点でよくよく考えてみれば、この行列という事象は、店舗が顧客に無駄な時間を使わせている(浪費させているもの)とも捉えなおすことが出来ると考えている。非常に非効率な現象だとも言えそうである。
#行列に並んでいるあまたの人々の時間を無駄に浪費し 、また(店舗前の道路に行列が出来る場合)公共のスペースを無駄に使用しているとも言えそうである。
そこで、本来、その飲食店等が持つ価値(食事のおいしさ、お得さ)を堅持しつつも、行列という社会的な浪費をなくし、来店客に不要な時間を使わせることなく飲食店等が持つ価値を届けられる、新しい価値としての「販売サービス=混雑状況の可視化サービス」として、仕立てていくことが出来るのではないかと思うのである。
もちろん、日本語で言うサービスには、無料でプラスアルファの価値を提供するというニュアンスもあるが、ここで言う新しい価値としての「販売サービス=混雑状況の可視化サービス」は、新たに生まれる価値として対価を得た上で実施すべきものであろう。
その意味で、飲食店での食事の代金に加えて、混雑なくスムーズに食事を購入するために、プラスアルファのお金を出して「販売サービス=混雑状況の可視化サービス」を購入することに、社会で価値が確立するような動きが必要であろうと考える。
今回、新型コロナウイルス感染症拡大という未曽有の事象が発生したことを契機に、これまでの様々なビジネスや生活の在り方が見直されることに迫られている。この機会を経て、スーパーや飲食店等の販売に関わるビジネスにおいて、「混雑状況の可視化サービス=販売サービス」などとして新たな価値が社会的に認知され、それが浸透していくきっかけとしていくことが期待される。
以下、参考までに、本記事の事例等をまとめたPDFを…
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