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なぜ「オッドルーム」という売れないMRゲームを作ってしまったのか?開発者の反省と学び



■導入

開発に至るまでの経緯

  1. MRの可能性に気づく
    きっかけは2022年、Metaが公開したデモアプリ「The World Beyond」に強い感動を覚えたことでした。現実とバーチャルが融合する体験は、初めてVRを体験したときと同じくらい衝撃的でした。また、MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏がFacebook時代からARに注力し、Metaへの社名変更後もMRに情熱を注ぎ続けていることも知っていました。Metaの発表したメタバースのコンセプトも、MRを強く意識したものだと感じ、MRの未来に強く期待するようになりました。

  2. 初のMRアプリ「Deskucchi」のリリースと失敗
    2023年から本格的にMR開発に取り組み、同年6月に初のMRアプリ「Deskucchi」をリリースしました。「Deskucchi」はMRとAIを組み合わせ、ユーザーが好きなキャラクターと会話できる意欲的なアプリでした。しかし、ユーザーの利用時間が短く、飽きられやすいという課題がありました。この原因は、ゲーム性に重きを置かなかった根本的なコンセプトの誤りにあると感じ、今後の開発ではゲーム要素を中心に据えることが不可欠であると認識しました。

  3. 「オッドルーム」の開発
    2023年10月以降、いくつものMRゲームを試作しました。初めは、スマホ向けの小さなゲームをMRに落とし込んでいたが、VRと比較してゲーム体験が制限されているだけと感じ、現実と仮想がより深く融合した体験を求めるようになりました。
    そんな中、8番出口という人気の異変探しゲームに着目し、部屋全体に奇妙なバーチャルオブジェクトを配置し、異変を探すというアイデアを思いつきました。
    「オッドルーム」は8番出口のゲーム性とMR技術を融合させつつ、MRならではの視覚ギミックも豊富に盛り込み、手の込んだアプリ開発となりました。ゲームシステムも丁寧に作り込み、やり込み要素も充実させ、満を持してのリリースとなりました。

期待していた反応と実際のギャップ

結論から言うと、散々な結果となりました。リリースから1ヵ月が経過しましたが、Metaが売上データを表示する最低本数にも達しておらず、販売本数が極めて少ないことが明らかになりました。
SNSなどでは、何人かの方が感想を投稿してくださり、内容も非常に嬉しいもので、心から感謝しています。しかし、これまでリリースしてきたVR/MRアプリと比べても反応が著しく少なく、プレイヤー数が限られていることが伺えます。
唯一の救いは、レビュー評価の良さです。これまでの作品が賛否両論だった中、「オッドルーム」は非常に好意的な評価を得ています。この点は大変心強いのですが、売れないという現実はどうしようもありません…。

■失敗の分析

マーケティング戦略の欠如

「オッドルーム」の開発と販売の過程で、明確になったのはマーケティング戦略の欠如です。インディーゲームは広告手段が限られるため、SNSなどでのバズが重要です。しかし、「オッドルーム」はMRゲームという性質上、リアルな部屋を映す必要があり、部屋全体を使う点もあり、SNSでの拡散が難しいゲームとなっていました。
また、ゲームの魅力は全て「異変」に詰まっていますが、ネタバレを避けるため作者自身が映像を投稿することも難しく、プレイヤーもこの点で遠慮している可能性があり、そのことも拡散を難しくしました。
そもそも現代のインディーゲーム開発では、プロトタイプ段階からSNSでの反応を見ながら、バズのポテンシャルを事前に評価する戦略が推奨されています。「オッドルーム」はそれをせずに開発しており、マーケティング戦略が欠如していたと言わざるを得ません。

市場調査の不足

MetaQuest3の発売以降、勝手にMRの時代が来ると期待し、ゲームを出せば必ず売れると思い込んでいました。特に、部屋全体をMRと融合して楽しむゲームは少なかったため、「オッドルーム」は高く評価されると思い込んでいました。
しかし実際には、MRゲームのプレイハードルは依然として高く、欧米のMRゲームをプレイするインフルエンサーたちでさえ、広い部屋を持っているわけではなく、狭い部屋で家具や機材に苦労しながらプレイしているのを見て、「オッドルーム」のようなゲームはプレイしにくいことに気づきました。
AppLabで成功しているMRゲームも、少ない空間でも楽しめるものが多いことに気付きました。市場のニーズやプレイヤーの事情を考慮せずに、革新的なアイデアや技術に夢中になっていたと今は反省しています。限られた空間でも手軽に遊べ、できればVRとMRの両方で楽しめるようなゲームがベストだったと思います。

■挑戦した点

反省ばかりでは何なので、今回のゲーム開発で取り組んだ挑戦や重視したポイントについても述べておきたいと思います。ゲーム本編に興味のない方は、最後の「結論」まで読み進めてください。

ユーザーに手間をかけない部屋生成システム

MRゲームは、ユーザーがゲームを楽しむまでに部屋のセットアップに多くの手間を要することがあり、これがMRゲーム体験の大きな摩擦となっていました。
「オッドルーム」は、この問題を解消するために、MetaのSDKを利用して、ボタン一発で仮想オブジェクトを適切な場所に配置するアルゴリズムを導入しました。具体的には、ドアはドアの位置に、窓は窓の位置に、絵は壁に、写真は机の上に、それぞれが重なり合うことなく、自動で適切な位置に配置されます。これにより、ユーザーは手間をかけることなく没入感のあるMR体験を楽しめます。これは『オッドルーム』の優れた点の一つです。

現実空間を侵食する恐怖表現

「オッドルーム」では、現実と仮想が交錯することで生まれる新たな恐怖体験を追求しました。
単純に驚かすのではなく、影や音、現実空間に描かれるペインティングのような表現や、シェーダーを駆使した視覚的なトリックを通じて、仮想の恐怖が現実空間をじわじわと侵食するような演出を目指しました。
特に「ナイトメア」モードでは、現実と仮想のスポットライト表現を巧みに重ね合わせ、仮想でも現実でもない、不可思議な空間を探索する恐怖体験を提供できたのではないかと考えています。

陰影表現と豊富なインタラクション

MR体験の没入感を高めるために、陰影インタラクションに注力しました。
静的なオブジェクトには、可能な限りテクスチャによる偽物の影を付けました。これは一見してわかりにくいかもしれませんが、オブジェクトの実在感を確実に高め、体験全体のリアリティを向上させています。
また、異変に直接関係のないオブジェクトにも、可能な限り手で掴むことができるインタラクションを実装しました。これにより、プレイヤーはオブジェクトの存在感をより強く感じることができます。さらに、掴んだオブジェクトは一定時間で元の位置に戻るようになっており、これも奇妙な部屋を演出する一環となっています。

このように「オッドルーム」は、徹底的にこだわり抜いて作られたゲームとなっています。少しでも興味があれば、ぜひプレイお願いします(´;ω;`)

■結論

MRの道は険しい…。
マーケティング戦略や市場調査の不足が反省点だけど、それだけじゃない気もして。どうやったら成功するMRゲームがつくれるのかわからない。自分のスキルや戦略にも限界を感じる。
MRで食べていける気がしない。でもMRの可能性は感じる。どうしたらいいんだろう。誰か助けて…。

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